子供というのは、とても現金である。
あんなに、恋しいと思っていた父が
青春期を迎えると、それほどでもなくなった。

私が20代の頃、女性は職業を持っても、それは結婚までの腰掛けで
年頃の女性は、アフター5は料理を習い、生け花教室へ通い、お茶を嗜むのが普通だった。

だが、私の父は女であっても、職業人(わぉ!)として、技術を身に付けることに好意的だった。
私自身も花嫁修業は苦手で、
できることなら技術を身に付け、専門職に就きたいと思っていた。
そんな父は、当時まだ女性が持っている人が少なかった時代に
自動車運転免許証を高校在学中に、取得させてくれた。
そして、私は就職して、しばらく経ってから
貯めたお金で頭金にカーローンを組み、中古車を買い、マイカーで通勤するようになった。
当時は毎日がほんとうに楽しかった。
仕事を覚えるのが新鮮だったし、
仕事を終えた後の友達とのおしゃべりが
楽しく、時間が経つのも忘れた。
通勤が車なので、交通機関の心配もなく
夜遅くまで、青春を謳歌していた。
(この表現もクラシカルですね(笑))

父は、門限にはいたく厳しかった。
仕事が終わるのは5時。
したがって遅くとも家には6時には着くはずだと。
私は「そんな!」と反発したが、
母から「父さんは、いつも家にいないんだから、居るときぐらい、我慢しなさい」とたしなめられた。
私も、しょうがないかと諦め、
父が在宅中はおとなしくしようと思った。
ところが、たまたま、在宅中に
遅く帰ってしまった。

父は、日頃から穏やかな人で
大声をだしたこともなく、打たれたことも一度もない。でもどこか威厳があり、優しいけど、怖くもあった。

遅く帰り、忍び足で部屋へ行こうとすると
父に呼び止められてしまった。
「何時だと思っているんだ❗嫁入り前の娘が‼」と、それが低いトーンの静かな声で叱責されたので、さらに怖かった。
それからしばらくは、家と職場の往復の毎日。

ほどなくして、父は再び旅先の仕事場所に出掛けた。
もちろん、私の青春謳歌の復活である。

この時ほど、父の存在を鬱陶しく思ったことはない❗