私の父は、越中富山の売薬さんだった。
一年のほとんどを得意先である旅先で過ごしていた。
家に戻るのは、3ヶ月に一度。
しかも1週間くらいしかいなかった。
幼少の頃、他の友達はいつもお父さんが家にいるのに、私のお父さんはなぜいつもいなく、
一年のほとんどを得意先である旅先で過ごしていた。
家に戻るのは、3ヶ月に一度。
しかも1週間くらいしかいなかった。
幼少の頃、他の友達はいつもお父さんが家にいるのに、私のお父さんはなぜいつもいなく、
いても、すぐいなくなるのだろうと思い
悲しかった。
小学生になると、父が帰ってくると聞くと
そわそわした。
帰ってきた父をみて、嬉しいのだけれど
なぜか、久しぶりに会った恋人みたいに
ドキドキした。父なのになぜか恥ずかしかった。
整髪料の匂いがする父の枕に頬を寄せ
目を閉じ、体いっぱいに父を感じた。
日毎に、父への恥じらいは消え
子供らしく、甘えることもできるようになった。
しかし、それも束の間。
父が旅立つ日が来た。
いまは移動手段は車だが、当時は列車だった。
しかも蒸気機関車である。いわゆる汽車である。
最寄りの駅まで、徒歩30分。
自転車の荷物台に手荷物を載せ
私は母とともに父と一緒に歩いて
駅に向かった。
これから長い間、父と離ればなれになると思うと、悲しくて、その間何もしゃべれなくなった。
プラットホームまで出て、汽車が見えなくなるまで、手を振った。
家路に向かうまで、涙が止まらなかった。
母は、小さい時は泣きじゃくって
父も困惑していたと聞かされた。
家に戻っても、寂しさは消えなかった。
父の枕を抱きしめ、いつしか寝ていた。
しかし、子供である。
翌日になると、悲しみは消え
いつものように、振る舞っている。
自分で言うのもおかしいが
子供はタフである。