あたしのバイト遍歴はあと1つで終了です!


その後あたしは社会人になり、
25歳にして多くの会社を転々として世間の荒波に…(笑)



⑦飲み屋のねえちゃん


時給1200円。深夜~翌朝まで。
勤務地は歌舞伎町某所。
(※詳細は書けません。ご了承ください。)


21歳。
このバイトより印象に残る仕事は他にないだろう。

このblogにも当時のことがリアルタイムで書かれていますね。


始めはただの客だった。
ホストクラブ遊びをしながら、お店に飲みに行くようになった。


戦前からあるちいさな街。
戦後GHQから唯一売春を許された歴史ある街。


信じ難いことに、女性だけでなく男性もレイプされる事は珍しくない。
今も昔も安全な街とは言えない。

警察がしょっちゅううろうろしている。
銃声を聞いたこともある。


ここにはとても書けないくらい、
話を聞いただけでぞっとするような怖ろしい事がアングラにたくさんある。


そういうことに参加してみる勇気もないが偏見がないように、
あたしは風俗や水商売やその他のお仕事等にもまったく偏見がない。


あたしはこの街の虜だ。



店は小さなカウンターになっていて、
お客様の隣に座って接客することはない。


仕事は 『お客様のドリンクを作りお話すること。』

しかし実際は、『人の心を読む仕事』だった。


最近でこそ「ガールズバー」とかいうお店があるが、
ここはキャバでもなくクラブでもないから指名等はない。


だからこそ、お客様の『目的』を探るのは簡単なことではなかった。


終電を逃すほど飲みに来る人は、
なんらかの事情が必ずある。


・目当ての女の子に会うため
・店の雰囲気が気に入っているから
・ストレスや悩みを抱えているから

などなど。


これを推察して接客するのはすごく難しい!
あたしも客として飲みに来てたときは理由があった…


当時あたしはただの大学生だった。

就職のことと家族がちょっと複雑になっていることで悩んでいて、
「もうどうにでもなれ」って常に思っていた。

酒を飲んで現実を忘れたかった。
そこがどんなに危ない街だろうがどうだってよかった。



もともと話好きで人見知りをしない性格だったあたしには、
色んな職業の人と色んな話ができたことが一番楽しかった!


常連さんのお顔と名前をすぐに憶え、
はじめて会う人には積極的に丁寧に挨拶をする。


『はじめまして。AyAです。』


姿勢を正して、
お辞儀をしながらお客様の目をしっかりと見る。

あたしはあの街で何度この台詞を言っただろう。


もちろんあたしの振る舞いは
そんな雰囲気ではないこの店では場違いで、
この場違いな挨拶がどういうわけかお客さんにウケた。


「はじめましての記念に」
「お近づきのしるしに」


こじつけともとれる台詞のもと、
初日から立て続けにドリンクを頂いた。


ひよっこだったあたしは、
お客さんの社交辞令もまだわからなかった。


そうこうしているうちに、
いつのまにかあたしの「ファン」の人ができてくる。


あたしはいつでも、
自分に好意を持ってくれている人がいることがよくわからない。
わからないというよりそのことに全く気付かない。


他人にそれを指摘されてはじめて、

「えっ?あの人が?あたしを?そうなの?」 

と思うのが日常茶飯事だ。
これはいくつになっても変わらない。


意識してみると、
たしかにあたしの出勤する日だけは必ず来店するお客様がいる。

そして
あたしがセットを用意してボトルを出しながら適当に話をし始め、
その後もどのおねえさんがついてもあたしとだけ話す。

会計の時もあたしがついて、
いつも万札を出しておつりをあたしにあげるよと言って帰って行った。


嬉しいというより、
接客してるんだから当然だけどなんであたしなんか?という疑問でしかなかった。
あたしは心の中でこう呟くだけだった。


『なるほどなぁ…』


カクテル 生 焼酎 ウイスキー 梅酒 日本酒

あたしはどの酒でも、
ロックでも、ストレートでも飲めるので本当に助かった。


どんなにお客様からドリンクを頂いて飲んでも、
歌舞伎町という職場が怖くて酔う事がほぼない。


それは、沢山の職業の人
特にその筋の方の怖い面を目の当たりにしてから一層強くなった。


あたしは仕事が終わってから必ずひとりで飲みに行く。

だいたいいつも
店の近所にある顔見知りになったおにいさんのお店へ行った。


「よぉ。お疲れさん。今日は混んどった?またいつもの梅酒やろ?」


そこでその筋のおにいさんと意気投合して
なぜかテキーラショットを頂いたり、

18歳になったばかりの
身体は男の子だけど心はあたしより乙女な女の子と仲良くなったりした。



アフターがあるときは必ずママかおねえさんと一緒で、
それは「AyAが孕ませられたら困る」という理由からだった。

アフターの後、
あたしはひとりでホストクラブに行く事もあった。



飲み過ぎて気分が悪くなった事はあるが、
吐いた事は一度もない。




ママから教わった事で一番重要なことがこれだ。


『酒の一滴は血の一滴』


お客様がお金を払ってあたしが飲ませて頂くお酒は、
お客様が身を削って働いた血肉であるという事。

頂いたお酒を一滴でも残す事は大変失礼であり許されない。


グラスが空きそうになっていたら
次のオーダーをそれとなく聞いたりメニューを渡したりする。

それと同じように、
今でも上司と飲みに行く際などにこれを実行し、酒を飲みほしている。



社会に出ると、
大人とお酒との付き合いは不可避であり大変長い。


そのためにも
この経験は二度とない貴重なものだったと心から思う。


新宿歌舞伎町。
街も人も心も、汚くて怖ろしい街。


いくつになろうが抜け出せない。

あたしはこの街が大好きだ。