「俺は女の体でお尻が一番好きなんだ」


とかなんとかいって、おっさんは3回お尻を触ってきた。
あたしも酔ってたからそのときはそこまで苦痛じゃなかったんだよね。


けどさー!よく考えたらありえねー!

あたし痴漢にも遭ったことないから、
おっさんに体触られるとかマジで無理。

周り誰も助けてくれないし、うなされるわ軽くトラウマになるわ、相手は客だし、
この怒りをどこにぶつけりゃいいのって感じ!


でもそんなのって、セクハラって言葉がある前は当たり前だったんだよね。

ケツ触られたくらいでぎゃあぎゃあいってるうちはまだ若いのかもって思った。

けど、キスと胸は勘弁!そこはあたしの貞操だと思ってるから。
そこやられたら本気で鬱になると思う(笑)



「ねぇ、じゃあ今度の件名うちにちょうだいね?」
「おぅ、○○のな。でかい仕事だよ。わかったよ。」

あたしが言えたのは結局これだけだった。


でさー、おっさん完全にあたしのこと気に入ったらしくて、
二次会でも隣にいろよとかそのあと二人で抜けようとか愛人2番目にしてやるとか言っちゃって。

そうなったらお尻だけじゃ済まないの確実じゃん。
もちろん絶対無理。


あたしは傍から見たらかなり泥酔してたんだろうけど、
ユンケルと液キャベ飲んでたし意識完璧。

そこで、
一芝居打って後輩Kくんと一緒におっさんをまくことにしたわけ。


(あたしは元歌舞伎町の女だ!なめんなよおっさん!!)



「Kくん風邪大丈夫~?てか飲んだ??」
「風邪は結構大丈夫だよぉ。てか、良い感じに酔ってるね(笑)」
「やだぁ~あたし全然酔ってないからぁ!これからが長いんだってー!」


周りに聞こえるようにきゃっきゃ話しながら、あたしは耳元でささやいた。


「あたしこの後お腹痛いって帰るから。送るって言って一緒に帰ろ!」
「え…?マジで?」
「マジだよ(笑)あたし送るっていえば抜けられるよ!」



びっくりしているKくんと先に階段で店下まで降りて、エレベーターのおっさんたちを待つ。


おっさんにお尻を触られた話をしたら、
Kくんはまたびっくりしていた。



「あ、そろそろ来そうだからお腹痛い振りしとくわ。」

とあたしは急に軽くお腹をおさえ顔をしかめる。



完全にごきげんなおっさんがエレベーターから出てきた。



「あや!カラオケ行くぞ!」
「ねぇ~なんかお腹痛いのぉ…さっきトイレ出られなかったでしょ?」

「えっ!大丈夫か?とりあえず今日は帰っとけ。体が大事だからな。K,おまえ送っていけよ。」
「あ、はい!わかりました。せっかくお誘いいただいたのにすみません!」

「いいよいいよ。また今度があるからな。気をつけてな。」
「Sさんほんとごめんねぇ~!次は絶対ねっ!」



あたしはおっさんの手を握りながら、わざとちょっとつらそうな笑顔で言った。


たしかにおっさんと一緒にトイレに行ったが、
長く入っていたのは彼氏と電話していたからだった。



駅方面に向かう振りをして、うまく見計らってKくんと居酒屋に入った。


ちょっとドキドキだったけど、
歌舞伎町にはビルも飲み屋もいくらでもある。

あたしはうまくおっさんを捲けたことに満足していた。


こんな悪知恵いつ身に付いたんだろう。
あたしはこういうときによく性悪になる。

似たようなことは前にもやったことがあった気がする。



「てかさ、マジ女優だね!!」



梅酒ロックを片手にKくんが言った。


「だってさぁ!あたし3回お尻触られたんだよ!これ以上はマジ無理だし!
このタイミングでお腹痛くなるワケないじゃんね(笑)こんなの常套手段だよ~。」


「いやぁでも、ほんとよく頑張ってたよね。後半ほぼ下ネタだったじゃん!」
「うーんまぁ、あれくらいならまだ大丈夫だよー。」


「H商事の人もいってたよ。あの子も営業なんですか?って(笑)
事務っていったらびっくりしてた。」
「あははー!マジで?うけるんだけどー!」



水商売の経験があって本当によかったと思う。

だってさー、あれよりえげつない下品なお客さんの相手はいくらでもしてたもん。

それなりに期間やってれば慣れるし、
うまく切り返して逃げたりそらしたりもできるしね。

そんなことに慣れてもなんか哀しいけどさ。



事務でも営業でも、女はそれができれば得だと思う。

なんだかんだいって男は女に弱い。とくにおっさんは若い女が好き。
これが現実だからね。

大学まで出て憧れだった商社勤めてなにやってんだろーなとは思うけどね。


あたしの営業トークなんて所詮歌舞伎町スナックレベル。
きっとキャバやクラブでは通用しないのだ。

なのにあそこまでごきげんになるあのおっさんは、
六本木や銀座のおねえさんたちのかなりいいカモ客なんだろう。




「ま、今日のうちら100点!会社から3万もらってるし領収書いらないから、軽く飲も!」
「だね!たまにはこーいう息抜きしなきゃね!今日名刺もらった人整理しとこう!」



「若い子をくっつける会」のはずが、唯一近い人で25,6歳だった。

しかもそのメンツが
「いや絶対彼女できないだろ」系しかいなかったの!全員岩尾以下。

女子は、
あたしとおっさんの部下の40前のでっかいおねえさんだけだったわけ。


冴えないとか地味とかのレベルじゃなくて、
こんな集まりはじめてだよってくらいの見事なキモメン揃い。



けど学歴は最高レベル!大企業だから安定はしてるんだろーね。

今はどんな企業がどうなってもおかしくない時代。
大企業だから安定だとかいう人は今時いないだろう。



あたしたちは、
さっきの悪夢のような飲みについて汚い言葉で愚痴りまくった。



「この人が彼氏いんのとか指輪してるから結婚してんのとか聞いてきてさぁー。」


「この人は素人童貞らしいよ!この人と風俗ネタで盛り上がっててさ」
「マジで!あの冴えない人?
てかみんな冴えないから誰だか顔全然思い出せないわーきゃははは」


「この人が仕事の話ばっかしてきてさぁー、電線とか業界よくわかんねーんだよ!」
「歯が汚い人でしょ?55万がどうとかいってたよね!何の話だよ!
あたしにもわかるわけねーし!(笑)」
「マジ仕事の話すんなよなぁー!」


「この人上野でイタリア人に口でやってもらったら男だったんだって!ありえなくねぇ?!」
「マジ?究極の馬鹿でしょ?!男だって気づけよ~(笑)人生の汚点だよね!きゃははは」
「俺ならマジ鬱になるわー。やるたび思い出しそうだし(笑)」


「まぁ、いずれにしろお金払わなきゃ相手にされない人ばっかだったねぇ。」
「いい男はいねーしいい女もいねーし。営業って辛いなぁ。」
「タダでごはん食べられたってだけだねぇ。」



うちらが入社して半年。
Kくんとふたりで飲むのははじめてだった。

あたしは酒が回ってきたのか、
よりによって彼を誘惑したくなってきてしまった(笑)




もぅ、完全にセクハラおっさんでした。でもうまく捲けたしKくんのおかげでちょっとまぎれました。ありがとぅ!あたしの夜はこれからです(笑)今週中には全部書きまぁす!