6つしかない椅子の1つに座り、
たどたどしく梅酒をオーダーした。


カウンターに立っている女性は、
注文を受けながらも不思議そうにあたしを見ている。

この人がママだった。



グレーのパーカーにデニム。
すっぴんに近いほどのナチュラルメイク。


30代後半だというが、
前半くらいに見える。

可愛らしい人。



あたしは20歳の大学生で、
研究室の教授に聞いてこの街へ来たことを話した。



『はっ?ハタチなの?若っ!』


カウンターにいたもう1人の女性が言った。
彼女がレナさんだった。

色白で端正な顔立ちで、男勝りにサバサバしている。


スタイルは見ている方が恥ずかしくなるほど抜群だった。



あたしは他の男性客とも口をきいた。


酔っ払いの歯科医、
下ネタ大好きな会計士、
何をしているかわからないスーツの人。



全員初対面だったが、
すぐにその雰囲気になじんだ。


他愛ない話をしてみんなで笑った。


その場で酒と会話を楽しんで、後腐れがない。


このさっぱりした飲み方が気に入った。


ママはあたしに微笑みかけてくれた。


『1人で飲みに来た女の子なんて、はじめてよ。』


あたしはそれまでほとんど酒を飲んだことがなかった。


店を出たとき、千鳥足になっているのがわかった。


ママはあたしを抱きしめて言った。


『また飲もうね。』



午前5時。

あたしはひとりふらふらと歩きだした。


意識が朦朧としながらも、左手でKに電話をかけた。