眼がさめると、まだ寝息をたてている彼の寝顔があった。


電話で泣き出したあたしに、速攻で行くから待っててと言い、本当に来てくれたのは昨夜のことだった。


慎重に言葉を選んで励ましてくれたけれど、あたしの気持ちは変わらなかった。



慌ただしく会社にむかうと、何食わぬ顔でデスクにつき、いつものごとくメールをチェックする。


前から保存しておいたあるメールを走り書きして、引き出しにあるファイルをバッグにしまう。



これがないとオフィスに入れない、セキュリティカード。

初めて売上をあげたときに貰った社章。



カードと社章をデスクの上に置いて、朝礼が始まる前にあたしは会社を出た。



『飛ぶ』なんて、夜の世界でしか聞かない言葉だと思っていたけれど。


あたしはこんなことも、しゃあしゃあとやってのける女になっていた。



次の瞬間、あたしは新宿にいた。


西日の照りつけるなか、うんざりするほどの人ごみにまぎれて立ち尽くしていた。



独特な薫りが鼻をつき、汚れた空気がけだるい。


新宿歌舞伎町。



あたしの居場所は、やっぱり此処しかなかった。




*ノンフィクションです