明瞭でないことは、明瞭に表現され得ない
紀伊山地に、神秘的な自然と人々の祈りが形成した景観を特徴とする文化遺産がある。「紀伊山地の霊場と参詣道」は2004年に世界遺産に登録され、総称を「熊野古道」という。三重・奈良・和歌山などを含む紀伊半島には仏教・神道・道教・修験道など、日本の宗教を構成するさまざまな要素が混在している。そうした異なる信仰が「熊野古道」により意味深く結ばれている。それが文化遺産として高く評価される理由だとのことである。聖地の写真からは、古来からの信仰の痕跡が見て取れる。しかしこの熊野の地は神仏混淆の地として知られている。信仰は強いのに、その対象は曖昧である土地というのを少し不思議に感じもした。読み終えた時点では「そういう土地もあるのかな」とそのままに受け入れていたが、次に読んだ本の著者・内田樹はまさにその類似例だと思えた。「高い知性を感じさせるのに、明瞭な主張はしない人物」という感じだろうか。「極端で明確な主張よりも、自らの主張に誤りがあるかどうかを思考するのが、知性的かを判断する基準である(と思っている)」という立ち位置から、ブログの文章をまとめた一冊だった。森博嗣はこう言う。「(若い人は)もっとぼんやりしてていい」「抽象的に話していい」。物事の具体的な部分に捉われず、本質を掴もうとする精神が、若さということでもある。本質ではない細部に捉われたのが老人だと。知性や信仰が確かであっても、それ自体を明瞭に表現することはできない。なるほどね。新たに読む本が、次々に過去の疑問を解消してくれる。改めて、本は教師であり、知恵の源泉であると思った。世界遺産神々の眠る「熊野」を歩く (集英社新書 ビジュアル版 13V)posted with amazlet at 15.01.16植島 啓司 鈴木 理策=編 集英社 売り上げランキング: 118,382Amazon.co.jpで詳細を見るためらいの倫理学―戦争・性・物語 (角川文庫)posted with amazlet at 15.01.16内田 樹 KADOKAWA/角川書店 売り上げランキング: 100,948Amazon.co.jpで詳細を見る人間はいろいろな問題についてどう考えていけば良いのか (新潮新書)posted with amazlet at 15.01.17森 博嗣 新潮社 売り上げランキング: 10,465Amazon.co.jpで詳細を見る