最近

頭を撫でられている様な

錯覚で目覚める。



ベッドの中でも…

昼下がりリビングで

うたた寝してる時でも…



私はその感触で揺り起こされる。



いや…これは

きっと錯覚ではない。

私はこの柔らかで

温かい手の平を

覚えているからだ。



そう…

これは

おばあちゃんの手の平。



泣き虫だった私が

涙を零していると

そっと傍にやって来て

泣き止むまで

頭を撫でてくれた

優しくて大好きだった

おばあちゃんの温かい手の感触。



おばあちゃんが亡くなって

もう一ヶ月が経つのに

いつまでも

哀しんでばかりいる私を

おばあちゃんが

励ましに来てくれているに

違いない。



駄目だ。

いつまでもメソメソしていたら

おばあちゃんも成仏できないよ。



ほら…今も

うたた寝している私の頭を

おばあちゃんが撫でてくれてる



言わなくちゃ…

私はもう大丈夫だよって

おばあちゃんがいなくても

ひとりで頑張れるよって

言わなくちゃ…。



私は髪に触れている手に

そっと自分の手を重ねた

温かい

懐かしい感触が

伝わって来る…



ありがとう。

おばあちゃん。



私はそっと目を開けた…
























知らない女が

頭を撫でている。

頭を撫でている。

頭を撫でている。

ただ無表情に

淡々と

頭を撫でている。

頭を撫でている。

頭を撫でている。

温かくぬめぬめとした

血を滴らせながら

頭を撫でている。

頭を撫でている。

頭を撫でている。

悪いなあ…
こんな夜中に転がり込んで来て…
どうしても
あの家にいられなかったんだよ。

え?なんでって?
理由話さなきゃ駄目か?
あんまり話したくないんだけどな…



俺今日引っ越したじゃん?

え?知らないって?
悪い悪い…お前ん家の近くに
越して来たから
驚かせてやろうと思ってな。
ちょっと小綺麗な
マンションなんだよ。
2DKでさ。
築二・三年だってよ。
独り身の俺には
過ぎた感じもしたけど
家賃もそんなに高くなかったし
思い切って借りたんだよ。

でも…あそこには帰りたくないわ。

二度と…。



え?
しつこいな~お前も。
ホントに話さなきゃ駄目か…。



午後に荷物運び終えて
あらかた片付けして
ほっとしたら
引っ越しの疲れが出たのかな?
ついつい
ウトウトしちゃったんだよ。

んで…何か物音したんで
ふっと目が覚めたら真夜中でさ。

そうそう
ほんの20分ほど前。

いかんいかん。
明日も仕事だし
ちゃんと寝ないと
疲れが取れないぞ…
なんて思いながら
風呂に入ろうとしたわけ。



すると…




コンコン。




誰かが玄関ノックしてんだよ。

そういえば
さっきもしてた気がする。
多分この音で目が覚めたんだろう。



誰だ?こんな時間に…。



変に思ったさ…
インターフォンついてんだから
ピンポーンって押せばイイじゃん?
でも、もしかしたら
電池切れてて鳴らないから
仕方なくノックしたのかな…
なんて考えて
取り敢えず
出てみる事にしたんだよ。



いきなり玄関開けて
変な奴だったら困るから
最初に声かけてみた。



「はい。誰ですか?」



無言…返事はない。



仕方なく覗き穴から外を見てみたけど



誰の姿も見えない。



気持ち悪いな…と
思いながら
玄関の扉開けてみたけど



誰もいない。



え?
空耳じゃないかって?

うん。
俺もそう思ったさ。
でも…あんなに
ハッキリと聞こえたノックの音が
空耳であるわけないんだよな。



でも玄関には誰もいない。



薄気味悪いなあ…なんて
思いながら
戸締まりだけは
厳重にしとこうと思って
ロックして
ドアチェーンを掛けようとした時に



ふと気づいたんだよ。



俺一人暮らしだし
今まで小汚いワンルームにしか
住んだ事なかったから
そこまで頭回らなかったんだけど…



2DKなんだよ。

部屋にドアがあるんだよ。

ドアと廊下挟んで
玄関をノックする音なんて
そんなにハッキリ聞こえるわけがない。




その時……。




コンコン。




背中からノックの音。




玄関を向いて立っている
俺の真後ろから聞こえるノックの音。



そうなんだよ。



さっきのノックも…



今のノックも…



玄関じゃなくて
部屋と廊下を仕切る
その扉を叩いている音なんだ。



見たくはなかったさ。

でも…

反射的に見ちゃうんだよな…

そんな時って。

するとさ…

誰もいないはず…

さっきまで

俺が寝てたから間違いない。

誰もいなかったはずの

ドアが

少しだけ開いて

その隙間から

真っ赤な口紅をした

女の顔半分だけが

すーっと出て来て

こう

言ったんだ。















「お帰りなさい。」






だから
俺はもうあのマンションには
二度と戻らないつもりだよ……



………って、なんだよ。
お前怖がり過ぎだせ。
お前が話せって言うから
こうやって
思い出したくもないこと…



え………

違う?

後ろ?

ついて来てる?

真っ赤な口紅をした………女が?

              『完』










「これでよし…っと」

あなたは一息ついてから
『記入』と書かれた
送信ボタンを押した。

GREEの日記コミュで開催されている
夏の怪談企画に向けて
書き上げた作品だ。

取り敢えずは
自分の日記にアップロードして
読書の反応を見ることにした。

これで皆が怖がってくれれば
本格的に出典しようと考えている。

あなたは
「我ながらよく書けた」
と思っていた。
確かに在り来りで言わばベタな展開だ。
しかし自分なりの
アレンジも沢山盛り込んである。

全てはフィクションであったが
そこいらに
転がっている怪談話と比べても
遜色ない出来だと自負していた。


「どうせ…
 幽霊なんていないしね」


あなたは幽霊の存在を信じていない。
見たことも
感じたこともないからだ。



あなたは再び
携帯の画面に視線を落とす。

soon書き込んだ日記を見る

…のリンクをクリックし
アップロードされたばかりの
日記を再度読み返す。
誤字脱字や
文体のおかしい所をチェックするためだ。


しかし

画面を下にスクロールして行くと…

あなたは

奇妙な事に気が付いた。



???



日記が終わり
『完』と書かれた文末よりも下の段に
身に覚えのない余白がある。

「あれ?
 こんなところに改行入れたかな?」

何かのバグだろうか?
画面の右側にあるスクロールバーが
余白の大きさを物語っていた。

あなたは
深く考えず
カーソルが下へ下がるボタンを
押し続けた。





































いるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよいるよ


見えない。

聞こえない。

話せない。



幼い頃、病魔に冒され

三重苦を背負った

ヘレン・ケラーは

障害を克服し

数々の社会福祉に尽力した。



井戸のポンプから

あふれ出る水を

両手に受けながら

「ウォーター!」と叫んだ

エピソードはかなり有名。










モテない。

耳毛が生えた。

最近なんか臭い。


色んな意味で多重苦を抱えた

まぐろさんは

むしろ個性だ!などと

自己欺瞞を繰り返しながら

ダラダラと社会に隷属している。



ポットから湯呑みへ

お茶を入れる時によそ見をして

思いっ切り手の上に

熱湯を注ぎ

「うぼあああああっ!」

などと意味不明な奇声を発した

エピソードはもはや天然。





なに…

この魂的な価値の違い。





手を冷やしながら

小声で

「うぉーたー」なんて言ってみる。





前略・ヘレンケラー様。

僕の春はまだ遠そうです。