- にごりえ・たけくらべ (岩波文庫)/岩波書店
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★「たけくらべ」あらすじ
舞台は吉原界隈。
横町の鳶職人の棟梁の息子、長吉と
表町の高利貸しの息子、正太郎は、
お互いにガキ大将として反目しあっている。
長吉の右腕は、竜華寺住職の息子、藤本信如がおり
正太郎の側には彼が姉のように慕う大黒屋という遊郭の娘、美登利がいる。
信如と美登利は、ふたりは同じ中学校に通っている。
お互いにひそかに心惹かれあうが、信如は僧侶に、
美登利はやがて、遊女となることを運命づけられている。
酉の市の日に美登利は、美しく着飾るが、なぜか気がふさぎ、
それきり、町の子供達とは一切交友を断つ。
信如は僧門へと旅立つ当日の朝に、密かに美登利の家に一輪の水仙を届ける。
★感想
繊細な心理描写と情景描写が擬古文で織り成された名作。
物語の綾の緻密さもさることながら、
登場人物の書き込みように手抜かりが一切なく
三人称の作品として、高水準の域にある。
青春時代が否応なしに限定される吉原という大人の町を舞台にして、
やがて遊女や高利貸しという職業を運命づけられた子どもらの短い思春期を描く。
十代前半の無邪気な純粋さが、哀切に結晶され浮かび上がっている。
目の仇にする信如が、雨の中で下駄の鼻緒を切って往生している姿を見て、
美登利が、意趣返しするどころか、信如への恋心に気づかされる場面が白眉。
美登利は、髷や着物を着飾り酉の市にでかけ、
大人の露骨な視線を浴び、やがて遊女の身となることを自覚する。
信如の存在に代表されるような無垢な子どもの世界からすでに疎外され、
断ちがたい彼への恋情もけして実らぬことを知り、彼女が憂愁に囚われる姿は涙を誘う。
そんな美登利の煩悶に気づかずに、祭りの夜に彼女に冷たくされて、
「大路の往来の夥ただしきさへ心淋しければ、賑やかなりとも思われず」
と、人込みの中をとぼとぼ家路へとつく、幼い正太郎の戸惑いはひとしお哀れ。
信如が美登利に贈った「水仙」、これをコレットの「青い麦」などと比べると
前者の「水仙」の清潔さにこそ、より悲劇的な抒情があることがわかる。
しかし、結局のところ、どちらの世界も狭く、
(子どもの世界を描いているのであたりまえだが)
主人公たちが悲劇の運命に溺れすぎていて、
私が求める文学的ダイナミズムの興奮からはやや遠い。
つまり、登場人物たちのどうしようもない愚劣さや野心を肯定する神々がいない。
その純粋な作品世界に魅了され、高級な余韻に酔わされはするが、
どうも、少女漫画の世界に近い気がして、読後に「・・・」という物足りなさもおぼえる。
そんなこといっていたらきりがないだろう。明らかに贅言でした。撤回。
すばらしい作品。お薦め。五千円札になる作家だけある。
広辞苑に首ったけになって読んだが、そうさせるだけの魅力のある作品