大阪の旧陸軍工廠の広大な敷地にころがっている大砲、戦車、起重機、鉄骨などの残骸。
この莫大な鉄材に目をつけた泥棒集団“アパッチ族”はさっそく緻密な作戦計画をたて、一糸乱れぬ組織力を動員、警察陣を尻目に、目ざす獲物に突進する。
一見徒労なエネルギーの発散のなかに宿命的な人間存在の悲しい性を発見し、ギラギラと脂ぎった描写のなかに哀愁をただよわせた快作。 ジャンジャン横町というのは大阪の「新世界」という場末の歓楽街にある狭い路地である。
ちかくには美術館と動物園という、似たようなものが二つあるが、この豊饒で、はじしらずな町にはなんの影響もない。
新世界そのものは、美術館のある丘のしたにひろがった、むらむらとした湿疹部、または手のつけようもなくドタリとよこたわった胃袋とでもいえるようなところだから、ジャンジャン横町はそれにつづく腸管みたいなものである。

 朝鮮語でセキフェといって、豚の子宮であった。
セキは赤ん坊、フェは刺身。
胎児もろともたたきつぶしたのを骨、肉、羊膜、羊水、なにもかもひっくるめて生のままゴクリとやる。これは朝鮮料理の王様といえる


 済州島は、世界一の不毛地帯。部落には済州島出身者が多い。
貧しい朝鮮人たちは女房も亭主も同じように働かねばやっていけない。
彼らの貪欲さと勤勉さは驚くべきものである。


解説 佐々木基一

 『裸の王様』によって芥川賞を受け、新進作家としての地位を確保した。ところが、そのとたんに彼はノイローゼになり、それを晴らすために、大阪の城東・東成区を根城にして、旧陸軍砲兵工廠の広大な廃墟に眠る屑鉄を笑う泥棒集団のなかにもぐりこんだのである。

 動物的な欲望をむきだしにして、ぎりぎりのところで生きているアウトローたちの集団のなかで、かえって魂の健康を取り戻すところに、開高健らしさが伺える。

 ギラギラした脂ぎった光をうかべているその猥雑にして醜怪な描写の表皮の下に、人間の存在そのもののもつ哀愁をかみしめている作者


日本三文オペラ (新潮文庫) -
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