4.5点/5点

 

私にとって、ジム・キャリーのNo.1作品はこの作品。そして、彼の表情だけで泣かされたのもこの作品。この映画の脚本はとっても優れていると思う。さすが傑作SF「ガタカ」の脚本も書いているアンドリュー・ニコル。そして監督の名匠ピーター・ウィアーの映像的センスも抜群だった。今になっては量産されているリアリティショーを捻った設定だけど、それでは終わらない深さがこの作品にはある。公開時に観た時の驚きと新鮮さは今も胸に残る。

全世界に24時間365日生中継されている世界で、気づかず生活しているトゥルーマン。住人は全てエキストラ。天候さえもコントロールされている。彼を観ていると、段々と可笑しみから哀しみへ、気持ちがいつのまにかスライドしていくのに気づく。妻設定のローラ・リニーの視聴者目線のCM演技に爆笑し、親友を信じているトゥルーマンの心の叫びに揺り動かされ、そしてそこにBGMで演出される二重世界に慄く。その世界を演出しているエド・ハリスの酔いしれた表情…

そして、初恋相手のローレンの真実の囁きがキューンとたまらない。「私を探しに来て、、」そしてたった一度のキスを残して消え去った彼女。電波を間違えたカーラジオやエキストラの右往左往に違和感を感じる笑いから始まり、段々と笑えなくなる展開。あらゆるシーンが伏線となって、クライマックスに活きてくる。

この作品のテーマは実は深い。ひょっとしたら、もっとシリアスなヒューマンより深いかもしれない。人生はいったい誰のものなのか? と問いかけてくるからだ。人生がもし自分のものでなかったとしたら? 或いは、誰かに与えられたものだったとしたら? そんなこと、私たちは日々、考えもしないかもしれないけど、トゥルーマンは大真面目に誰かの作った世界を生きている。

私はこのジム・キャリー=トゥルーマンは、トム・ハンクス=フォレスト・ガンプに匹敵するキャラクターの強さがあると思う。一番の魅力は彼のピュアネス。そして見ていくと彼を好きになり、そして哀しくなる。自分で努力して、獲得したことが、実は誰かに御膳立てしてもらったと気づいた時、誰だって心底悲しくなる。その底にある哀しみに触れているのがこの作品だ。今までの何気ない風景が作り物であることがわかって、世界が崩れ落ちていく怖さ。居心地のいい我が家、美しい妻、何でも話せる親友、安定した仕事、それが全て作り物だった時の絶望。

私は彼の特異な世界は、私たちの世界と深層意識では深く結びついてると感じた。私は私が作った物語=MYLIFEを迷いなく生きている、と言い切れるのだろうか。本当の自分を隠して、ある役割を生きているということは無いだろうか。誰かに期待されていることを無意識になぞってるのではないだろうか。これが幸せと思い込んでいる日常はCMや垂れ流された情報に思い込まされているだけではななかろうか。あらかじめ敷かれたレールを外すのが怖くて見ないようにしていることはないか。親や世間の期待に沿って日々、必死に演じてはいないか。考えることをやめていないか。自分の人生を本当に主人公として生きているのだろうか。。

他人が演出した人生を気づかず生きるトゥルーマンの太陽のような笑顔。そして創られた輝きに満ちた日差し。それが眩しければ、眩しいほど、観ていると心が締め付けられる。

ラストシーン、この作品のジム・キャリーの最後の表情にとても心が揺さぶられた。今でも、あの場面でのあの表情は映画史に残る素晴らしいモーメントだと思っている。そして、自分を支配しようとしている者からの鎖を勇気をもって断ち切って、船出をした先に見える光景、自分の人生に飛び出す勇気、それは架空を生きたトゥルーマンだけの世界ではなく、私たちみんなの世界なんだと、私は感じている。

トゥルーマンに感情移入するにつれ、彼の苦悩をエンタテイメントとして楽しみ、高みの見物している視聴者に軽蔑の気持ちがなぜか湧いた。そしたらふと気がついた。この映画を観ることは、トゥルーマンを番組で観る全世界の観客。そしてその二重世界の映画を観ている私たちという三重構造にならざるを得ない。そして、この作品で私たちに一番近いのは、トゥルーマンを番組で観ながら、他人の不幸や幸せに、笑って、泣いて、一喜一憂し、熱狂している姿だ。他人の人生のドラマ=映画を観客として観ているうちに、自分の人生を生きるということ(生活するという意味ではない)を置き去りにされていく。いつのまにか、主人公の座を譲っている。他人の虚構の人生に歓喜することはあるが、自分の人生に歓喜する瞬間はどれだけあるだろうか。

観客のような人生、そんなのは嫌だ。私は映画も心底楽しむが、人生の観客では絶対終わりたくない。自分が観た最高の映画より、自分が生きたこの人生と物語が最高傑作だと思って死にたい。自分の人生の主人公として、歓喜、熱狂、感動して命を終えたい、映画はそのヒントになるが、実人生の熱量は、自分しか決して生み出すことはできない。だから、もがく、苦しい、不安になる、それでも立ち上がって闘う。それが実人生。私たち100%いつか死ぬ人生、誰にとってもそんな最高で最低なドラマを、今この瞬間も生きている。

この作品は実はそうした問いを幾重にも突き付けてくる傑作だと私は思う。自分の人生を生きて、生きて、生きて、生き抜きたい。そんな自分の人生を生きることの勇気と困難と切実さを改めて観るものに突き付ける傑作ヒューマンだと思う。観終わった瞬間から実人生が鮮やかに始まるような気がした。トゥルーマン。真実の人。傍観者ではなく人生の主人公に私もなりたい。彼のように。