君はどこかへ行くつもりだったんじゃないのかい?」
 
晃次が問いかけた

 「うん。。そうだったんだけど急にカットになっちゃって・・」
 
 「カット?」

 


「うん。 私今女優やってるの。これでもね テレビでセリフのある役ももらえるようになったんだよ。」


 「女優?君は女優やってるのかい?」


 「そう。ずっと芝居続けてるの。今日も本当は撮影だったんだぁ。
  でもまだまだカットされる役だからね。。」と恥ずかしそうに笑った


少しとまどう様な顔を晃次はしていた
その理由は紘子はわかっていた


きっとあの三年前の海での別れ以降 自分は田舎に帰って結婚をしたって思っていたのだろう
あれからの事やこの三年間のことを伝えることを紘子はためらっていた

そんな紘子を覗き込むようにして 晃次は聞いた
 
 「時間あるの?少しどこかで話そうか?」

 


「うん・・いいよ」


二人は並んで同じ方向にむかって歩き出した




着いたのは今流行りのカフェだった

中に入るとそこは大勢の人で少しうるさいくらいだった

 

「ほかところにするかい?」と晃次

 

「ううん。ここでいいよ 私こんなところ来た事ないんだよね

 雑誌なんかではよく見るんだけど なんか。。。すごいねぇぇぇ」
と周りを見渡した

 

「晃次さんがこんなところ知ってるなんて 何か意外だな よく来るの?」

 

「いや。初めてだよ いつもこの前をよく通るからね 一人じゃこんなとこ入れないさ」


 「へぇ そうかぁ」

そんな会話をしていると 可愛らしい制服姿の女の子が注文をとりに来た
 
 「ご注文お決まりですかぁぁ?」

紘子は何の迷いもなく手話で晃次に聞いた
 
 「晃次さん何にする?私言うからゆって」

晃次がメニューを指しながらポンポンとたたいた

 「じゃコーヒーと。。えっと・・・・・・私は・・・アイスティーにします」

 「ご注文くりかえします コーヒーひとつ アイスティーひとつですね」
 
 「はい」

 「かしこまりましたぁ」

女の子は手話で会話する紘子たちに少しとまどいながらもメニューを聞いて去っていった


三年後・・・・



初めて逢った時と同じ場所で二人は再会した


見つめあう晃次と紘子 最初に言葉(手話)を発したのは紘子だった。



 「同じだね・・」



そう言って彼女は三年前と変わらぬ笑顔でつぶやいた



 「なに?」
 
晃次は不思議そうに聞いた

 


「あのときもこうして晃次さんは、私にりんごを採ってくれた」
 



 「そうだったね」



そうして二人はりんごを見つめながら微笑んだ



 「三年ぶりか・・元気だったかい?」




晃次の問いかけに紘子はうなずいた

 


「元気だったよ。晃次さんは?」



 「元気だったよ」
 


 「ここでなにをしているの?」

紘子の言葉に晃次は少し時間を置いて答えた



 「ウワサでこの木にりんごの実がなると 飛びついてるサルがいるって聞いたんだ。
  それを見に来てみたんだ」



 「サッ・・サル??・・・」



そういいながら紘子は自分の周りをキョロキョロと見回した
しかし晃次は紘子を見て笑っていた



 「あーーーーーーーっ!!ひどい!!
  だましたわね? そのサルって私のことでしょ」



そう言いながら紘子は笑ってみせた
花が咲くように笑うその笑顔は昔のまま。
晃次は言い知れぬ懐かしさと愛おしさを感じていた
紘子もまた同じだった。
変わらない晃次の優しい笑顔と大好きな大きな手が語るのを押さえきれぬ気持ちで見ていた・・・・