近年、ブナ科を中心に各地の植生を見に行きましたが、観察していくうちに種によって生育環境をすみわけしていることに気づきました。今回は二次林に生育するナラ類やクリの生育環境についてまとめたいと思います。
※沿海地→山地、暖温帯→冷温帯の順に掲載します。
・ウバメガシ
伊豆半島以西の沿海地の乾燥した尾根・岩石地・急傾斜地などで群落を形成する。海沿いでは強風のため低木状になる。紀伊半島・四国では内陸部の渓谷の岩場にも生育しているという。亜熱帯の沖縄県まで分布している。
ウバメガシを硬葉樹(地中海性気候地域に分布する耐乾性を備えた常緑樹)とする見方もある。硬葉ガシ類は小形で肉厚、鋸歯のはっきりした葉をもつ特徴があり、ヒマラヤのQuercus semecarpifolia、地中海のコルクガシ(Q.suber)、セイヨウウバメガシ(Q.ilex)などがある。
写真1:海沿いに群生するウバメガシ(愛知県羽豆岬)
・ナラガシワ
沖積低地や山麓部の沢沿いに自生するが、生育地点は限られる。河川沿いの氾濫原ではハルニレ・ケヤキ・エノキ・クヌギなどと混生し、優占種になる。生育標高はナラ類の中で最も低い。関東では縄文時代の遺跡から多数出土しており、当時は普通に生育していたようである。生育環境が水田・農地や人工林・竹林に転換されたことによって激減したのかもしれない。林縁などの明るく開けた場所に生え、林内では衰弱していることから、同所的に生えるコナラやアベマキよりも陽光を求めるようである。里山の放置に伴う遷移の進行も、本種の生存には痛手となる。
写真2:河川沿いの氾濫原で優占群落を形成するナラガシワ(東京都八王子市北浅川)
・アベマキ
東海地方以西に分布し、東海の痩せた丘陵地では優占種になる。関東にも稀にあるが、クヌギと誤植されたものと思われる。
・クヌギ
関東では低地や丘陵の雑木林でコナラと混生するが、奥山では殆ど見られない。河川沿いで野生状のものを見ることもある。しかし、古い時代に中国大陸から持ち込まれたという説があり、薪炭利用やシイタケ栽培の原木用として植林されてきたため、国内のものは自生ではないのかもしれない。
写真3:河道内に群生するクヌギ(埼玉県毛呂山町越辺川)
・フモトミズナラ
分布は東海と北関東に限られる。丘陵や低山に自生し、コナラ・アカマツ・リョウブ・ツツジ類などの陽樹と混生する。痩せ尾根・砂礫地・岩場・崖などの土壌が浅く、乾燥した場所に多い。東海ではアベマキが多い場所にはフモトミズナラは少なく、遷移が進むとフモトミズナラからアベマキが優勢になるようである。
写真4:フモトミズナラ・コナラ・アカマツが優占する陽樹林(愛知県愛・地球博記念公園)
・コナラ
暖温帯の二次林に広く生育する。関東の放置された雑木林ではシラカシが侵入しており、放置状態が続けばシラカシ林に遷移していくものと思われる。
写真5:コナラ・クヌギが優占する雑木林(東京都浅間山公園)。よく手入れされた雑木林では定期的な萌芽更新が行われるため、幹が細い個体が多い。
・クリ
低地~山地の二次林でコナラやミズナラと混生するが、特に中間温帯に多い。伐採跡地や林縁などの明るく開けた場所で見られることから、陽光を求めるようである。
・カシワ
北海道や日本海沿岸地域では海岸に自生するというが、太平洋沿岸地域では殆ど見られない。火山地帯では先駆的な群落を形成し、関東周辺でも那須、榛名山、朝霧高原、霧ヶ峰などに分布している。ススキなどが繁茂する草原で疎林を形成するが、これは刈り取り・放牧・火入れなど草原の管理を停止した後に遷移したものである。
明るく開けた場所に多く、樹林内では殆ど見られないことから、コナラやミズナラよりも陽光を求めるようである。生長が遅いため、コナラやミズナラと混生すると生存競争に負けるものと思われる。
写真6:草原的環境で疎林を形成するカシワ(東京都陣馬山)
・ミズナラ
冷温帯の二次林に広く生育する。生育標高の下限は東京では標高600m辺りとなる。極相林ではブナが優勢になりミズナラは少なくなるが、ブナが出現せずミズナラが極相となる場所もある。
写真7:ミズナラの巨樹(栃木県奥日光)。奥日光にはミズナラの巨樹が多く、ここでは土地的極相となるようである。
・ミヤマナラ
東北~北陸地方の日本海側に分布し、山地~亜高山帯の多雪・風衝地の急斜面に自生する。多雪・風衝作用により亜高山針葉樹林(オオシラビソなど)が成立しない場所では、偽高山帯と呼ばれるミヤマナラ低木林となる。
写真8:群馬県尼ヶ禿山(標高:1466m)からの眺め。山頂直下の急斜面ではミヤマナラの低木林が見られた。
2021年11月9日更新