オキナワウラジロガシと同様に、奄美大島以南の琉球地方固有のブナ科樹種がアマミアラカシとオキナワジイです。
お気づきになられるかもしれませんが、屋久島以北と奄美大島以南では、生物種の分布が大きく異なっており、この境界線を生物地理学で渡瀬線と呼ぶそうです。また、渡瀬線は温帯と亜熱帯の境界線にもなっています。かつての琉球王国の統治下も奄美大島以南となっているのも興味深いです。
【アマミアラカシ】
沖縄島では限られた場所にしかありませんでしたが、徳之島の低地では至る所で見られました。アマミアラカシは、オキナワジイ・オキナワウラジロガシと違って琉球石灰岩地にも生育します。河川沿いには特に多かったです。
基本種アラカシ(屋久島以北に分布)に比べると葉が細長いです。また、主脈に折れ目が入ることが多く、葉の断面図はV字形になります。葉が細長く、河川沿いで見られることから、遠目にはオキナワウラジロガシに似ていました。
樹形はオキナワウラジロガシが一般的に単幹なのに対し、アマミアラカシは株立ちになることが多いです。また、オキナワウラジロガシの小枝は灰黒色なのに対し、アマミアラカシは緑色でした。
アマミアラカシが優占する河川沿いの林です。オキナワウラジロガシが山地の渓流域に生育するのに対し、アマミアラカシは中流~下流域の河川沿いに生育するようです。
アマミアラカシの葉です。葉身14.1cm、葉柄2.2cmでした。
どんぐりは落下最盛期のようで沢山落ちていました!基本種アラカシは堅果が丸いことが多いですが、変種アマミアラカシは細長いです。堅果の長さは約3cmです。
今回は行きませんでしたが、国指定天然記念物の徳之島明眼の森はアマミアラカシの優占林になっているそうです。
【オキナワジイ(イタジイ)】
スダジイの地理的亜種です。図鑑ではオキナワジイと表記されていますが、地元ではイタジイと呼ぶのが一般的です。基本種スダジイ(トカラ列島以北に分布)と区別しない場合もあります。
琉球列島の二次林はオキナワジイが優占します。萌芽力旺盛で、根元から複数本の幹を伸ばした個体が多いです。枝葉は基本種スダジイと殆ど変わらない気がします。
しかし、オキナワジイはどんぐりが少し違います。
堅果はやや丸みを帯びることが多く、スダジイとツブラジイの中間的な印象です。堅果の長さは1.6~1.9cmでした。
殻斗は熟してもスダジイほど裂開せず、殻斗の突起の先端は殻斗に合着します(基本種スダジイは殻斗の突起の先端が反るといいますが、個体によって変異がある気がします)。
オキナワジイは不作のようで、どんぐりを落としている個体は僅かでした。琉球地方には数回来ていますが、オキナワジイの豊作には当たったことがありません。奄美地方では、昭和60年代まで奄美栗の名で市場で販売されたそうです。
琉球列島は島によってブナ科樹木の分布が異なっており、オキナワジイ・オキナワウラジロガシ・アマミアラカシの琉球固有のブナ科3種が全て分布する島は、奄美大島・徳之島・沖縄島となっています。