分類:モクレン科モクレン属
和名:ホオノキ(朴の木)
別名:ホオガシワ
学名:Magnolia obovata
分布:北海道、本州、四国、九州、南千島。
樹高:15~30m 直径:1m 落葉高木
山地~丘陵の落葉広葉樹林に点在する。寒冷地に多い。
葉は互生し、枝先に集まる。葉身25~45cm、葉柄2~4cm。葉裏は白っぽい。葉と花は日本の樹木の中で最大。遠目に見ると掌状複葉であるトチノキに似ているが、ホオノキは単葉である。巨大な葉には殺菌作用もあり、かつては紙皿やアルミホイルの用途で使った。朴葉味噌や朴葉寿司は、岐阜県飛騨地方の名物。
花は5~6月。葉の展開後に直径15~20cmほどの花を枝先に上向きにつける。芳香があり、花被片は9~12枚。雌性先熟で、花の性別は雌から雄に性転換する。
雌性期。開花1日目は、雌蕊が張り出して雌花として機能し、昆虫によって運ばれた他の花の花粉を受けて受粉する。雌蕊が機能するのはこの1日だけで、2日目は花は一旦閉じる。
雄性期。開花3日目は雌蕊はくっついて受粉する能力を失い、雄蕊が張り出して雄花として機能し、昆虫に花粉を他の花の雌蕊に運んでもらう。ホオノキの花は、雌蕊と雄蕊の成熟時期をずらすことによって、1つの花の中で自家受粉による近交弱勢が起こらないようにしている。但し、自家不和合性は持たないため「同じ木の中の別の花同士」で自家受粉が起こってしまう。3~5日で花の生殖期間が終わると、雄蕊と花弁は散る。花は一斉には咲かず、開花日がバラバラになるように咲き、1ヶ月程度も次々と開花する。
モクレン科は広葉樹の中でも原始的であるといわれ、花の構造に広葉樹の初期の姿の一面を残している。広葉樹(被子植物)は針葉樹(裸子植物)が進化したものといわれ、一億年前の中生代白亜紀中頃に現れた。
ホオノキの花は、沢山の雌蕊と雄蕊が花軸に螺旋状に配列しており、雄蕊の下に6~9枚の花弁(内花被片)、その下に3枚の萼片(外花被片)がある。雌蕊・雄蕊・花弁・萼片は、いずれも葉が変化した「花葉」と総称され、葉の集まりがそれぞれ役割分担して、茎の先端に「花」という器官を獲得したといわれている。
また、広葉樹が出現し始めた頃は、虫を誘引するのに蜜は使われなかったとされる。ホオノキは虫媒花だが、花からは蜜が出ず、強烈な香りと食料としての花粉で虫を引き付けている。
果実(8月)。袋果が集まった集合果で、長さ10~15cm。9~10月に紅色に熟し、袋の中に赤い種子を含む。自家受粉を完全に防げるわけではないため、健全に育たない種子もある。
樹皮。灰白色で皮目が多く見られ、薬用となる。生長は早く、萌芽力も旺盛である。
東京では、里山のコナラ・クヌギ林から山地のブナ林まで見ることができる。落葉期に山を歩いている時でも、巨大な落ち葉で存在に気付く。花が性転換することや、原始的な被子植物の姿をとどめている点など、興味深い樹種である。