東京都八王子市・神奈川県相模原市の陣馬山(標高854.8m)に行きました。高尾山からも近いですが、意外にも初めての訪問です。
陣馬山とその周辺には、カシワが多数自生しています。カシワは関東では農家などに植栽されたものは見かけますが、自生のものは珍しいです。この地域では相模川左岸(小仏山地)の標高160~850mの地帯にカシワの分布が集中していて、相模川右岸(道志山塊)の一部にもあるそうです。この地域のカシワは、八ヶ岳方面から酸性土壌伝いに分布が伸びてきたものなのだそうです。
カシワは有用な樹種で、柏餅の葉、樹皮のタンニンを染料利用、木炭など幅広い用途があります。この辺りでは自生していたカシワを保護・育成して人工林化し、前述のような用途に用いたそうです。八王子市の恩方地区ではかつて、葉の出荷のため野生の柏葉の採取に加えて山麓にかけて大々的に栽培が行なわれており、江戸時代の八王子には柏餅用の葉を販売する「柏葉の市」もあったそうです。沢井村(現:相模原市緑区北部)でもカシワの樹皮が販売されていたそうです。
中央本線の藤野駅からバスに乗り陣馬登山口で下車、そこから一ノ尾尾根コースを通って陣馬山山頂を目指します。
初めはスギ・ヒノキの人工林です。林床にはアラカシ、モミ、アカマツの稚樹があるので、人工林化する前はこれらの樹種が混生する林だったのでしょう。
天然林が現れました。天然林ではコナラが優占し、クヌギ、カシワ、アラカシ、ヤマザクラなどが混生しています。
天然林と人工林が交互に出現します。人工林は樹種が単調で面白みがありません。
山頂に到着です。青空が綺麗な季節になりました。山頂は陣馬高原とも呼ばれます。
山頂にはカシワが多数生えています。シラカバもありますが、これは植栽したものでしょう。
サルトリイバラも生えていました。東海地方以西ではカシワが少ないため、サルトリイバラやナラガシワの葉を柏餅に使うといいます。京都の老舗の和菓子屋では、今でもナラガシワの柏餅が売られていると本で読んだことがあります。
カシワの葉です。日本のブナ科では最大の葉です。落葉樹ですが、冬になっても枯葉が枝についたままです。現在の柏餅の葉は中国・韓国産が殆どで、国産は青森で僅かに生産されるだけのようです。ハヤシミドリシジミという蝶の幼虫は、ほぼカシワしか食べないそうです。
今年の5月5日に食べた柏餅です。5月にツブラジイの花を撮影しに静岡県藤枝市に行きましたが、藤枝市の和菓子屋で売られていた柏餅もカシワの葉でした。柏餅の葉がどの辺りからサルトリイバラ・ナラガシワになるのか、調べたら面白そうです。
帰りは栃谷尾根コースを通って藤野駅まで歩きました。
里には多数のカシワが植栽されていました。この地域では現在でも柏餅の葉に使われているのかなと思いましたが、カシワは春の葉の展開が遅いので、葉が採取できるのは旧暦の5月5日(新暦の6月7日)になるかもしれません。
尚、どんぐりは不作年のようで殻斗ですら殆ど見つかりませんでした。昨秋は千葉県柏の葉公園のカシワも不作でした。関東では2年連続で不作なのか、地域が違うから不作なだけなのかよくわかりません。
関東周辺では群馬県榛名山・赤城山、栃木県那須高原、富士山西北麓・御坂山地西麓(富士川流域)にもカシワ林があるそうです。また、房総半島南部の海岸近くの崖や稜線にも点々と自生しているそうです。カシワは北海道に多いことから寒冷地を好むイメージが強いですが、暖温帯にも自生するようです。