東京都の野川公園には、ミズナラが多数植栽されているのだが、その中に1本だけフモトミズナラが紛れている。

フモトミズナラは、園内北西部の「武蔵野の森」エリアにある。

 

野川公園のフモトミズナラの葉。ミズナラよりも鋸歯は丸みを帯びる。

野川公園のミズナラの葉。鋸歯は鋭い。

フモトミズナラのどんぐり。殻斗は厚く、鱗片が突起状になる。

園内のミズナラが8月下旬~9月下旬に落ちるのに対し、フモトミズナラは8月中旬~9月上旬に落ちる。

フモトミズナラの樹皮。ミズナラよりもコナラに似ている。

 

私が野川公園のフモトミズナラの存在に気づいたのは2005年。

どんぐりが異様に早く落ちる個体があり、どんぐり・殻斗の形状も変わっていたいて違和感を感じた。

ちょうどその時、ネットで「モンゴリナラ(当時の呼称)」の存在を知り、野川公園の個体の特徴と一致したのである。

また、2005年は愛知県で愛・地球博が開催中であり、会場にモンゴリナラが多数生育していることが話題になった時でもあった。

 

フモトミズナラは根が斜めに伸びるというので、私は過去に野川公園の個体のどんぐりを植えて検証してみたところ、確かに斜めに伸びた。

どんぐり・殻斗の様子も、私が愛知県や群馬県で見たフモトミズナラとほぼ同じであるため、フモトミズナラで間違いないと思う。

 

しかし、東海・北関東に隔離分布するフモトミズナラが何故、野川公園のミズナラの植栽の中に紛れているのだろうか?

ミズナラの苗は実生で増やすものと思われるが、ミズナラは冷温帯、フモトミズナラは暖温帯と生育環境が異なる。そのため、苗木生産者が採集したミズナラのどんぐりの中にフモトミズナラが混入していたことは考えにくい。苗木生産者がフモトミズナラをミズナラと誤認して、東海や北関東の暖温帯からどんぐりを採集して苗木を作り、ミズナラと扱って販売したということなのだろうか?

同様の事例は他の地域にもあるらしく、フモトミズナラは東海・北関東以外の地域でも時折見られるようである。

 

ちなみに、野川公園にはコナラ、ミズナラ、フモトミズナラ、クヌギ、アベマキ、シラカシ、アラカシ、スダジイ、マテバシイ、ピンオークの計10種類のどんぐりがある。この中で珍しいのはアベマキとピンオークで、アベマキは園内南東部、ピンオークはサービスセンター付近に植栽されている。