2017年11月11日掲載
2022年11月17日改訂・再掲載
和名:アカガシ(赤樫)
学名:Quercus acuta
別名:オオバガシ、チガシ、オオガシ
分布:本州(宮城・新潟県以西)・四国・九州(対馬・壱岐を含む。屋久島・種子島まで)。朝鮮半島南部、台湾、中国。
樹高:15~25m 直径:100cm 常緑高木 陰樹
山地~丘陵の尾根付近や沿海地の照葉樹林に自生する。カシ類としては最も高標高まで生育し、ブナと混生することもある。社寺や屋敷に植栽されることもある。
葉は葉身10~20cm、葉柄2~4cm。全縁であることが多いが、上部に波状の不明瞭な鋸歯がある場合もある。葉はカシ類最大で葉柄が長く、硬い質感である。裏は緑色。
花は5月に開花する。雄花序はやや太い。
どんぐりは翌年の10~11月に熟す。堅果は長さ2~2.5cm。殻斗は毛に覆われ、毛が生えた堅果もある。
樹皮。灰褐色で成長するにつれて鱗状に剥がれ落ち、剥がれた跡は橙色を帯びる。和名は材が赤みを帯びることに由来する。
幹や枝は曲がりくねり、よく枝分かれする。写真の個体(茨城県龍ケ崎市愛宕神社にて撮影)は樹高30m・幹周り370cm・推定樹齢400年である。
【変種・品種】
・オオアカガシ 学名:Quercus acuta var. megaphylla
葉が大形(葉身17~23cm)で多肉質の変種。1954年に、東京都目黒区大鳥神社で林業試験場の学者によって発見された。葉が大形であることと、大鳥神社に因んでオオアカガシの名がつけられたが、標本木は2002年に枯死した。都内では品川区荏原付近を中心とする狭い地域に生育していた。
東京都世田谷区桜小学校のオオアカガシ(都指定天然記念物)。葉が大形というが、筆者には違いがよくわからなかった。
・ヒメアカガシ 学名:Quercus acuta var.yokohamensis
アカガシの葉の狭い型で、葉は全縁で披針形、葉身8~15cm・幅1.8~3cm・葉柄0.8~2.3cm。側脈は9~12対で裏面へ顕著に突出する。東京都・神奈川県の丘陵地帯に分布する。久内清孝が横浜で採集した標本に基づき、牧野富太郎が1929年にツクバネガシの変種として発表したが、1939年に中井猛之進がアカガシの変種に組み替えた。オオツクバネガシの1タイプとする見解(学名:Quercus takaoyamensis var.yokohamensis)もある(※①)。
ヒメアカガシと思われる個体(東京都町田市清水寺)。樹皮はツクバネガシに似ており、筆者はオオツクバネガシの1タイプと扱う見解に共感した。
・ヒロハアカガシ 別名:アツバアカガシ 学名:Quercus acuta var. acutiformis
葉が幅広で上部に鈍鋸歯が見られる変種。福岡県朝倉市古処山の頂上付近で確認されている。
・ヤナギアカガシ 学名:Quercus acuta f. lanceolata
葉が細い品種。長崎県で記録されている。
【交雑種】
・イズアカガシ 別名:ヒメアカガシ 学名:Quercus×idzuensis
アカガシとアラカシの雑種。神奈川県横浜市・伊豆半島・四国などで記録がある(※①)。ヒメアカガシとも呼ばれるが、前者とは別物である。
【関東周辺のアカガシの名木・優占林】
・茨城県:筑波山
・茨城県常陸太田市:高宮神社(市指定天然記念物)
・茨城県日立市:吉田神社
・茨城県龍ヶ崎市:愛宕神社、鹿嶋神社
・栃木県大田原市:滝岡温泉神社(群生・市指定天然記念物)、湯泉神社(社叢は県指定天然記念物)
・埼玉県さいたま市見沼区:南中丸(市指定天然記念物。植栽?)
・埼玉県ときがわ町:姥樫(町指定天然記念物)
・東京都区部:代々木八幡宮、国立科学博物館附属自然教育園、芝公園・もみじ谷、高輪東禅寺、世田谷八幡宮、多摩川台公園、本門寺公園など
・東京都八王子市:高尾山
・千葉県:元清澄山など各地
・千葉県習志野市:誉田八幡神社、天津神社
・神奈川県川崎市中原区:春日神社(社叢は県指定天然記念物)
・神奈川県横浜市港北区:篠原八幡神社
・神奈川県横浜市南区:弘明寺公園
・神奈川県横浜市港南区:上永谷天神社(かながわの名木100選)
・神奈川県逗子市:神武寺
・神奈川県横須賀市:三島社(社叢は県指定天然記念物)、叶神社(社叢は県指定天然記念物)、諏訪大神社
・神奈川県:丹沢・大山
・静岡県:函南原生林、天城峠周辺
関東周辺では筑波山や函南原生林・天城峠周辺などでブナとの混生が見られる。筑波山では気候変動によってブナが衰退し、代わりにアカガシが優勢になってきている。房総半島・三浦半島の海沿いや東京都区部にも多い。内陸丘陵地ではアカガシは殆ど見られず、ツクバネガシに置き換わる傾向がある。
<参考資料>
①高橋秀男・勝山輝男・田中徳久 横浜の植物 横浜植物会 2003年