2017年8月28日掲載

2022年8月24日改訂・再掲載

2024年10月16日改訂

 

和名:ミズナラ(水楢)

別名:オオナラ

学名:Quercus crispula

分布:北海道・本州・四国・九州(壱岐を含む。鹿児島県高隈山が南限)。南樺太、南千島、朝鮮、中国東北部。

樹高:15~30m 直径:150cm 落葉高木 陽樹

 

冷温帯の落葉広葉樹林の代表種で、山地から亜高山にかけて生える。ブナと混生することが多く、二次林では優占種になる。関東では標高約600m以上に生育するが、北の地域ほど生育標高は低くなる。渡島半島以北の北海道の低地から低山では、トドマツなどの針葉樹と混生することもある。北海道北部海岸には、カシワとの浸透交雑によってカシワの遺伝子を取り込んだミズナラの個体群(海岸性ミズナラ)が存在する(後述)。東アジアの大陸部東部に分布するモンゴリナラに対し、本種は島嶼部に分布する。

 

葉は葉身7~20cm。葉柄は殆どなく、大振りで鋭い鋸歯がある。葉裏は淡緑色。

 

花は4~5月に開花する。

 

どんぐりは10月に熟すが、都市部に植栽されたものは8~9月に成熟する。堅果は長さ2~3cm。乾燥に弱く、落下するとすぐに発根する。

 

樹皮は灰褐色で、若木では剥がれやすい。老木になると黒っぽくなる。木材としての利用価値が高く、高級家具・建築材・洋酒樽などに使われる。和名は材に水分が多く、燃えにくいことに由来する。

 

萌芽力旺盛で株立ちになることも多い。二次林に多く、極相林ではブナが優勢になるため、大木は少ない。写真は栃木県日光市西ノ湖畔にある「千手楢」と呼ばれるミズナラで、樹高21m・幹周り597cmもの巨樹である。千手ヶ浜には樹齢200年以上のミズナラやハルニレの林があり、奥日光では土地的極相となるようである。

 

【北海道北部海岸に分布する海岸性ミズナラ(旧:モンゴリナラ)】

 北海道北部の海岸ではカシワが分布せず、代わってミズナラが分布する。カシワ海岸林の北限は天塩町・雄武町となる。

 天塩川河口より北の海岸(幌延町~枝幸町)に分布するミズナラ(以下、海岸性ミズナラと表記する)は従来、モンゴリナラと呼ばれていたが、近年の研究でカシワとの浸透交雑によってカシワの遺伝子を取り込んだミズナラであることが明らかになった。海岸性ミズナラはカシワのように毛が多く、丸い葉や太い枝をつけ、内陸のミズナラとは形態が異なる。また、単なるミズナラとカシワの雑種とも異なる。当年枝の芽鱗痕のすぐ上には、内陸部のミズナラよりも冬芽が多くついている。これはカシワの性質と共通している。カシワは風ストレスを受けて先端の葉が枯れても、予備の芽で葉を補うことができる。海岸性ミズナラは、カシワとの浸透交雑によって海風のストレス耐性を獲得した。

 

【変種】

ミヤマナラ 学名:Quercus crispula var.horikawae

ミズナラの高山型変種で、東北~中部の日本海側の亜高山帯に分布する。多雪・風衝地の急斜面や湿原に自生し、積雪のため低木状となる。樹高1~3mで、萌芽力旺盛である。葉・堅果はミズナラよりも小形で、紅葉が美しい。ミズナラと交雑することもある。

葉は葉身4~10cm。写真は群馬県沼田市玉原湿原にて撮影。尼ヶ禿山の山頂でも見られる。

群馬県谷川岳のミヤマナラ。地面を這うような樹形となる。匍匐した萌芽枝から発根し、無性繁殖することもできる。多雪・風衝作用により亜高山針葉樹林(オオシラビソ林)が成立しない場所では、ミヤマナラ低木林が見られる。豪雪のため森林(高木林)が成立せず、遮るもののない明るい景観が広がる場所を偽高山帯という。

谷川岳では山地帯のブナ林上限(標高約1600m)が森林限界となり、標高約1600~1700mにはミヤマナラ低木林が広がっている。チシマザサ・ミネカエデ・ナナカマド・ミヤマハンノキなども混生している。利根川源流域では、多雪のためブナ林域である標高900mまでミヤマナラが分布している。

葉が色づき始めたミヤマナラ(2024年10月13日、谷川岳にて撮影)。

モンゴリナラ 学名:Quercus mongolica

モンゴル・中国東北部・ウスリー・アムールに分布する。かつては北海道・本州(丹波以北)にも分布するといわれたが、近年では北海道北部海岸の個体群は海岸性ミズナラ、北海道・東北のものはミズナラとカシワの雑種、北関東・東海のものはフモトミズナラと扱われるようになった。しかし、北海道の北見の海岸部にモンゴリナラが分布するという説もあり、まだ謎が残る。ミズナラをモンゴリナラの変種と扱うこともある。