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日弁連https://www.nichibenren.or.jp/document/statement/year/2025/250410_2.html
日弁連会長声明
「鶴見事件」第3次再審請求特別抗告棄却決定に関する会長声明
最高裁判所第三小法廷(宇賀克也裁判長)は、2025年3月21日、いわゆる「鶴見事件」の第3次再審請求の特別抗告審について、故髙橋和利氏(以下「和利氏」という。)の妻髙橋京子氏(以下「京子氏」という。)による再審請求を棄却した横浜地方裁判所の原々決定(丹羽敏彦裁判長)、即時抗告を棄却した東京高等裁判所の原決定(齊藤啓昭裁判長)を是認し、特別抗告を棄却する旨決定した(以下「本決定」という。)。
鶴見事件は、1988年6月20日に発生した強盗殺人事件である。和利氏は、同年7月1日、警察に任意同行を求められ、当初は殺人について否認していたが自白するに至り、逮捕された。和利氏は、殺人については第1回公判から一貫して無罪を主張しており、確定判決は和利氏の自白の信用性を否定したにもかかわらず、情況証拠のみで、和利氏に対して死刑判決を言い渡した。
和利氏は、2021年10月8日に第2次再審請求の途中で病死し(享年87)、京子氏が、和利氏の遺志を引き継ぎ、同年12月24日に第3次再審請求を申し立てたものである。
第3次再審請求審において、弁護人は、①本件の凶器は確定判決が認定した「バール様の凶器」「プラスドライバー様の凶器」ではないとする法医学鑑定、②和利氏以外の真犯人がいる可能性を示す証拠、③本件現場から採取された黄色ビニール片及び黒色小片は、いずれも和利氏に由来するものではなく、真犯人に由来するものであるとする証拠、④和利氏の自白は虚偽であり、和利氏は犯行を体験していない可能性が高いとする心理学鑑定等、多数の新証拠を提出した。
そして、弁護人は、これらの新証拠の明白性判断のために特に必要な証拠として、現場の指紋等の遺留物、それらについての鑑定書等の客観的証拠、前記真犯人の可能性がある関係者の供述録取書等を具体的に列挙して証拠開示及び証拠開示の勧告を求めた。
前記各証拠は、現在の通常審における証拠開示制度の下であれば当然に開示されるべき証拠であって、再審請求の当否を判断する上でも極めて直接的かつ重要な証拠である。
それにもかかわらず、原々決定は、弁護人が請求していた未開示証拠の開示を検察官に命じることも、弁護人が提出した鑑定等の新証拠について事実の取調べを行うこともしないまま、再審開始を認めないとの判断を示し、原決定及び本決定もこれを追認した。
証拠開示は、証拠収集に関する当事者間の格差及び証拠の偏在を是正することによって公正な裁判を実現し、えん罪を防止するという極めて重要な機能を有しており、その機能は再審請求審においても同様である。
これらの決定は、誤判を是正すべき再審請求審における証拠開示の重要性を軽視し、適正手続をないがしろにしたものといわざるを得ない。
加えて、これらの決定は「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判における鉄則が再審における証拠判断でも適用されることを宣明した最高裁白鳥決定に違反するものであって、この点からしても到底是認することができない。
和利氏は既に他界し、京子氏も現在91歳と高齢である。一刻も早く再審開始決定がなされ、和利氏の名誉回復がなされなければならない。
また、折しも、いわゆる「袴田事件」では、2024年9月に袴田巖氏に再審無罪が言い渡されるまでに58年もの期間を要しており、この再審無罪を契機に再審制度の見直しに向けた動きが本格化し、刑事訴訟法の改正について超党派の国会議員連盟が改正法案の提出を目指している。
当連合会は、引き続き鶴見事件の再審を支援するとともに、袴田事件及び本件のようにえん罪の救済に極めて長い期間を要していること等の現状を踏まえ、改めて再審請求手続における証拠開示の制度化、再審開始決定に対する検察官の不服申立禁止及び再審請求人に対する手続保障を中心とする手続規定の整備を含む再審法改正を実現すべく、全力を尽くす決意である。
2025年(令和7年)4月10日
日本弁護士連合会
会長 渕上 玲子