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バングラデシュ nhk

バングラデシュ なぜ首相が国外逃亡?いったい何が?

 

首相公邸から家具を持ち出し食料をあさるデモ隊の人々。

政府に対する激しいデモが続いていた南アジアのバングラデシュで、15年にわたって政権を握っていた首相が国外に逃亡する事態に。

アパレルメーカーなどを中心に日本企業も数多く進出するバングラデシュでいったい何が起きているのか。
そもそもバングラデシュってどんな国?
詳しく解説します。

バングラデシュってどこにある?


バングラデシュはインドの東、ミャンマーの西に位置する南アジアの国です。

面積は日本の4割程度ですが、人口はおよそ1億7000万。

首都のダッカには2000万人を超える人が暮らしています。

そもそもバングラデシュってどんな国?

国民のおよそ9割がイスラム教徒で、1971年にパキスタンから独立しました。

軍事政権が続いた後に民政移管したものの、世界で最も貧しい国の1つとして知られていました。

しかし、1990年代後半からは経済発展を続け、コロナ禍で一時落ち込んだものの、最近でも7%前後の高い経済成長率を達成しています。

「世界の縫製工場」とも呼ばれ、勤勉で安い労働力を求めて各国からアパレルメーカーが相次いで進出。

 

現地の日本企業も300社を超え、外務省によりますと、去年10月現在で1100人あまりの日本人が暮らしています。

何が起きているの?

7月以降、政府に反発するデモ隊と警察との激しい衝突が続き、最終的には首相が辞任する事態に発展しました。

デモの発端は、1971年の独立戦争を戦った退役軍人の家族のために公務員採用の優先枠があったことでした。

2018年にいったんは撤廃されたものの、ことし6月に高等裁判所が撤廃は違憲だとして、優先枠を復活させる判断を下したことに学生たちが猛反発したのです。

 
デモ隊と警察の衝突(7月21日 ダッカ)

その後、いったんはデモが沈静化したものの8月に入って再燃。学生のデモ隊に野党支持者も多く加わり、一部が暴徒化する中、デモ隊と警察の激しい衝突で少なくとも300人が死亡したと伝えられています。

デモ隊がハシナ首相の辞任を強く求める中、8月5日、軍のトップがハシナ首相が辞任し国外に逃れたことを明らかにしました。

辞任が伝えられると、デモ隊は首相公邸や議会を次々と占拠。首相公邸では、家具などを持ち出したり食料をあさったり、不満を爆発させていました。

 
首相公邸から持ち出したソファでくつろぐデモ隊(8月5日)

国外に逃れたハシナ首相ってどんな人?

シェイク・ハシナ氏は1947年生まれの76歳。

政治家の家族で育ち、みずからも学生時代から政治活動に積極的に関わってきました。父親のムジブル・ラーマン氏は、1971年の独立後、最初の首相に就任。

 
ムジブル・ラーマン氏

ハシナ氏は「建国の父」の長女として知られ、その性格については「父親譲りの強い個性と信念の人」とも評されます。

1996年に初めて首相に就任し、その後、いったん下野しましたが、2009年からは15年にわたって長期政権を率いてきました。

アジアを代表する「強い女性リーダー」とも呼ばれてきたハシナ氏。

 
シェイク・ハシナ首相

ハシナ政権のもとで、バングラデシュの経済発展は勢いを増した一方、その政治手法をめぐっては、強権的だとの批判が野党や人権団体などから出ていました。

アムネスティ・インターナショナルは、拘束された人の行方が分からなくなるケースや、死亡するケースが増えているとして懸念を表明。

ことし1月の総選挙でも野党側や人権活動家が次々に拘束されるなど、強権的な対応をとるハシナ政権に対して野党側は選挙をボイコットしていました。

こうした中で起きた今回の事態。いったい現地で何が起きたのか。

ノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏が暫定政権の最高顧問に就任する中、バングラデシュはどこに向かうのか。

首都ダッカに駐在するジェトロ・ダッカ事務所の安藤裕二所長に話を聞きました。

 
ジェトロ ダッカ事務所 安藤裕二所長

(以下、ジェトロ・ダッカ事務所の安藤裕二所長の話。インタビューは8月7日に行いました)

現地はどんな状況だった?

7月のデモの時はインターネットを遮断された上に、その翌日からは外出禁止令が出され非常に緊張感が高まりましたし、発砲音が聞こえたというような地域もありました。

インターネットの遮断はこれまで誰も経験したことがなく、抗議活動などで何が起こってるのか分からない、情報も入手できないという不安な状況でした。

ハシナ政権が倒れた今回のデモでも、私の自宅からも発砲音が複数回聞こえるような状況で非常に緊張感が高まっていたと肌身に感じました。

 

首相が国外逃亡 予想できた?

ここまで治安が悪化するというのは誰も予想していなかったと思います。

現地にいる邦人は完全に自宅待機で、安全を確保するという状況が続いていました。

8月に入ってデモが全国に広がりハシナ首相の辞任を求める、その1点で国中が動いたというところは非常に驚きでしたし、実際にハシナ首相が辞任に追い込まれるとは思いませんでした。

 
ハシナ首相を乗せたとみられるヘリコプター(8月5日 ダッカ)

なぜデモは広がったの?

学生のデモは当初、あくまで公務員採用の優先枠という1つの問題に対するものでした。

本来であれば対話を通して解決できるようなものだったのですが、ハシナ政権がその抗議活動に対して、治安当局を持ち出して死傷者を伴う大規模なものになってしまいました。

それが全国民の反感を買い、多くの国民が路上で抗議活動をしてハシナ政権の退陣を求めるという大きな動きにつながっていったと感じています。

 
ダッカ市内でハシナ首相の辞任を求める人々

政権に対する不満は大きかったの?

ハシナ政権が高い経済成長を実現したという実績はある一方、国民の中の格差が明らかに広がっていったことが、非常に若者の不安、不満につながったと考えています。

実際にバングラデシュで経済活動を行うにしても、ハシナ政権に近しい関係を持たないとなかなかビジネスはできないという現状がありました。

ハシナ政権に近い人たちがどんどん裕福になっていき、ビジネスで成功していくという現状に対して、若者はどんどん発言権を失っていく、職業を得られる機会を失っていくというところが非常に大きな不満としてたまっていました。

 
ハシナ首相の父親ラーマン初代首相の銅像にのぼるデモ隊

公務員採用の優先枠は、あくまでもその一例でしかありませんでしたが、そこが一気に突破口になってしまったと感じています。

日本企業への影響は?

きのう(8月6日)こちらの日本企業にアンケートをとったところ、約4割が在宅勤務、3割が自宅待機で、合計7割の企業が自宅待機もしくは在宅勤務をされているという状況でした。

残りの3割は工場を中心にすでに操業は再開されているという状況ですが、安全面、治安面での懸念は非常に大きいですし、一刻も早く警察の機能が回復されて、治安、安全の維持というところが担保されることを待ち望んでいるところです。

 
軍の装甲車両の上で国旗を掲げるデモ隊

今後どうなる?

まずは暫定政権がうまく機能するかどうか。

ムハマド・ユヌス先生が暫定政権のトップに立つと発表されていますが、軍やその他の政党とのバランスをいかにうまく取るか、かじ取りをいかにうまくして政権を運営していくかというところが大きな課題だと感じています。

 
暫定政権の最高顧問に就任したムハマド・ユヌス氏

ユヌス先生自体は非常に国民に尊敬されている方ではありますが、軍との関係、政治との関係という意味ではやはり今後力量を試される局面が来ると感じています。

その上で、いかに次の民主的な選挙を実現していくのか。ここは大きなポイントになっていくと感じています。