上岡直見さんは、

地域の足「ローカル線」・地方の交通問題を、「ローカル線は郷愁で残せ」と複合的観点で考え議論しようと提起されています。

 

 この問題は「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(社会権規約)の活用が不可欠であると考えます。

 

 日本政府は、1979年に批准しています。

 しかし、ほとんど無視しています。

 

 2013年4月、社会権規約第3回日本政府報告書審査から、すでに11年経過。

 

第4回日本政府報告書作成に向けたNGOと市民社会の意見聴取の日程について、昨年来問い合わせしていますが、外務省は意見聴取・ヒヤリングを設定していません。

 

 ご参考までに、前回第3回日本政府報告書審査 勧告

 

■日弁連HPより

第3回政府報告書審査

経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会の最終見解

icon_pdf.gifブックレット「社会権規約委員会総括所見の活かし方と今後の課題~第3回日本政府報告書審査をふまえて(PDFファイル;8.3MB)

 

 

 

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6月1日「毎日新聞」朝刊18面より

 

 複合的観点で議論を

「ローカル線は郷愁で残せ」
 【地域の足どうする?交通問題を考える】
  上岡直見(環境経済研究所代表)


インフラ危機

―採算性を考えると鉄道の赤字ローカル路線の存続は困難では。
上岡:「郷愁ではローカル線線は残せない」といわれる。
 しかし、特別な感情を抱けるからこそ残す価値がある。「ローカル線は郷愁で残せ」ということを強く主張したい。
 特に地域と共に歩んできた駅の役割は重要だ。
 福井県北部の第三セクター・えちぜん鉄道が評価されるのは、駅を町の拠点にしようと努力しているから。
 ところが鉄道各社は、駅の無人化を進めている。
効率性だけで赤字路線の問題を議論することは間違いだ。

―とはいえ、特に地方では人口減少が急速に進んでいます。


上岡:だからこそ、駅の存在意義は大きい。

北陸3県の1995年と2015年の国勢調査データを比較したところ、「駅の半径2キロ圏内の地域」は「駅のない地域」に比べ、人口の減少率が明らかに緩やかだった。
 確かに地方では駅周辺のシャッター街化が進んでいるが、車の運転が困難な高齢者らには歩いて暮らせる大切な生活拠点だ。
 廃線は住民の足を奪い、生活を脅かすことになりかねない。


―鉄道会社、自治体などはバスへの転換を模索しています。


上岡:利用者が増加に転じるとは思えない。運転本数が減り、さらに利用者が減るという負のスパイラルに陥りかねない。
 「2024年問題」による運転手不足も深刻で、結局はバス路線も維持できなくなるのでは。
鉄道のバスへの転換は、公共交通機関が失われる最初のステップとなる

―では鉄道路線をどうすれば維持できるのでしょうか。


上岡:「クロスセクター・ベネフィット」という考え方がある。
 これは
「ある部門で実施された施策が、他の部門に利益をもたらす効果」を意味する。

公共交通機関が赤字であっても、その利便性が医療、福祉、都市整備などの行政費用の節約につながるという発想だ。
 

人口5万人程度の地方都市を想定したとき、公共交通機関の維持のために国・県・市が計7000万円を補助することで、3億5600万円の便益を生み出すとの試算もある。
 
道路を整備するより、既にある鉄路を維持する方がはるかに安上がりだ。

公共交通機関という観点から、鉄道の存続を考えなければならない。
地方の赤字路線では微々たる収入を得るより、いっそ運賃を無料にしてしまうのはどうか


―これは地方だけの問題でしょうか。


上岡:都市部でも、鉄道会社は列車のワンマン運転化、駅の有人窓口の廃止などを進めている。廃線の恐れはなくとも、サービスの低下は招きかねない。
 
そもそも日本人は「公共性」を軽視しがちになった。

これは交通分野だけではなく、福祉、教育、水道にも共通する問題だ
 赤字路線の廃止がやむを得ない面も確かにある。
 しかし、それを認めてしまうと
取り返しがつかなくなる

路線維持には上下分離方式という方法もある

赤字だから廃線、という安易な考えには抵抗すべきだ
 【聞き手・高橋昌紀】

かみおか・なおみ
 1953年生まれ。東京都出身。早大大学院理工学研究科修了。
 技術士(化学部門)。交通権学会会長などを務めた。
 著書に「持続可能な交通へ―シナリオ・政策・運動」「鉄道は誰のものか」「時刻表が薄くなる日」など。原発問題にも取り組んでいる。
               (6月1日「毎日新聞」朝刊18面より)