日本政府は直ちに死刑執行停止せよ!
ティム・ヒッチンズ元日本駐箚英国特命全権大使(2012~17年)が、日弁連シンポジウムで
「英国では、死刑制度を50年も前に停止している。日本も(死刑制度を廃止)できる」と講演しています。
駐日英国大使に就任してから4年が経ち、いよいよ帰国することになりました。振り返ってみると様々な思い出がよみがえってきます。前回の日本赴任から数えて20年ぶりに来日した2012年の21世紀の日本の姿。2014年の春のケンブリッジ公が来日した際の福島への訪問。しかし、記憶に残るのはこれらのような大きなイベントと並んで、47都道府県を訪れたときの日本人との出会いです。経済界のリーダーからタクシー運転手まで様々な出会いがありました。人との触れ合いはまさに外交の基盤です。
これらの出会いを通じて強く印象に残ることは、世界でも有名な日本のおもてなしや和食はもちろんのこと、文化・言葉の相違点がありながら、私たちイギリス人は、日本と基本的価値観を共有しているということです。この二つの島国は歴史を重視し、民主主義を尊重しています。また、共に現実主義であり、EU諸国や他の国との連携関係を大切にしています。今夏英国は国民の決断を尊重し、EU離脱に向けて動き出しました。この先、短期的には難しい状況が生まれるかもしれません。しかし共有する価値観を基に、日本と英国は今後も更なる緊密なパートナーシップを築いていくと信じています。
パートナーというのは、意見を共有することだけにとどまらず、意見が違ったときにも自由に話し合える関係であることが重要ではないかと思います。その一つの例として、最近話題となった死刑制度について、イギリス人としての意見を紹介します。英国は全てのEU諸国とともに、いかなる場合においても死刑には反対です。英国にもかつて死刑制度が存在しました。どのような議論を経て制度が廃止されたかをお話しいたします。
英国で最初に死刑廃止法案が出されたのは1948年でした。シルバーマンという下院議員が法案を提出しましたが、議会の反発にあい否決されました。ところが、1950年代に一人の男性が殺人罪で死刑に処された後、真犯人が名乗り出るなど、誤審事件が相次いだことから、国民の間に「誤審の危険性」と「死刑の不可逆性」に対する問題意識が高まりました。更なる議論の結果、1965年に死刑執行停止を定めた法律が成立し、2004年には死刑制度を永久に撤廃することを決めました。
死刑制度の議論では、死刑が持つ抑止力と、被害者やその家族も含めた国民の支持をよく耳にします。しかし、英国の経験は異なっています。
英国での殺人事件発生率は、廃止前の1952年よりも廃止後の2002年の方が低かったという結果が出ています。
つまり、死刑制度がどれほど抑止力として働くかを判断することは非常に難しいのです。
国民の意識にも変化があり、1978年から2015年の約40年の間で死刑支持率は77%から48%に減少しました。
また、処罰の面だけでなく被害者へのサポート体制も重視されるようになってきました。
冤罪・世論・犯罪抑止力・被害者の家族の思いや感情など、慎重に考えるべき課題がたくさんあります。
それらの議論を重ねて死刑廃止を選んだ英国は、この経験を日本の皆様と共有したいと考えております。
その一環として、私はこの四年間、大使として日本国内で死刑制度廃止についてのお話をしてきました。
世界的にも死刑制度廃止へ動きが見られる今、日本でも死刑廃止に向けての議論が高まるよう、期待しております。
https://www.chosakai.or.jp/essay/201612/index.html
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死刑制度を考える懇話会発足 「廃止・存続どちらがベターなのか」前検事総長ら発言
日本における死刑制度のあり方を議論するため、映画監督の坂上香さん、前検事総長の林眞琴さんをはじめ学者、ジャーナリスト、国会議員ら16人が委員となった「日本の死刑制度について考える懇話会」が2月29日に発足した。死刑制度の廃止と、死刑に代わる刑罰の提案をしてきた日本弁護士連合会(日弁連)が呼びかけて誕生したもので、日弁連が事務局を務める。今秋には関係諸機関に対して提言を伝える予定だ。
日本の死刑制度をめぐっては、かつて民主党政権が「死刑の在り方についての勉強会」を法務省内に発足させ、2012年3月には報告書をまとめたが、国民的な議論にはつながらなかった。 初会合となった2月29日は委員たちが自己紹介。死刑制度のあり方について、自分がどのように考えているかを率直に述べた委員もいた。筆者がとりわけ強い印象を覚えたものとして、紙幅の事情から坂上さんと林さんの2人の発言を紹介したい。
「廃止してからがスタート」
坂上さんは、自分の経験を次のように語った。 「日本で取材をしていくうちに出会った死刑囚と、番組は作らなかったものの、20年余り個人的に面会を続けました。死刑囚と死刑囚の家族と付き合う中で、死刑制度は被害者遺族に対しても何の問題の解決にもつながらず、死刑囚の家族にとっても大きな負担になるということを実感しました」
さらに、こう続けた。 「その中で私自身は『死刑というのは廃止して終わりではない。むしろ死刑を廃止してからがスタートなんだ』と(考えた)。加害者に対して社会はどのような働きかけをしていくのか。被害者に対してどのような回復支援をしていくのか。日本には本当に被害者に対して冷たい制度があり、社会があると実感してきた。そのことを踏まえてこの懇話会に参加したい」
一方、一昨年6月まで検事総長だった林さんは、まずフランスの死刑廃止に至る経緯を挙げ「国民の調査でも当時、存続の方が多かったが、廃止になったのは政治的なイニシアチブによるものだった。国民の選挙によって、政策の選択によって、死刑が廃止された」と説明。そのうえで「私は、死刑を廃止すべきだという『マスト(絶対にやらなくてはならない)の議論』ではなく、今後の日本にとって死刑制度を存置したままの方がいいのか、あるいは見直しを加えた方がよいのか、どちらがベターなのか。こういった観点での議論に参加したい」と述べ、政策の選択として判断すべきだという自分の考えを強調した。
国会議員からは「日本の死刑制度の今後を考える議員の会」の会長を務める平沢勝栄衆議院議員(自民党)や同会の西村智奈美衆議院議員(立憲民主党)、上田勇参議院議員(公明党)の3人が委員となった。平沢議員が正直に現状を語った次の言葉が、なぜ国会で死刑廃止への動きが弱っているかを教えてくれた。 「この問題は難しい。地元を歩いて死刑廃止に賛成、死刑に反対だなんていうと、すぐに選挙で落っこちてしまう。それくらい厳しく、触らない方がいいぐらいの問題。しかし寝ているわけにはいかないので、しっかり取り組まなければならない」
懇話会は3月11日に第2回を開き、元裁判官で最高裁の調査官を務めた木谷明さんから、死刑と無期懲役判決を区別する基準のあいまいさ、法テラス多摩法律事務所の弁護士・村井宏彰さんから「死刑事件弁護の現場」について聞いた。4月22日の第3回は死刑廃止派と死刑存置派の刑事法学者1人ずつから話を聞く予定だ。
佐藤和雄・ジャーナリスト