出版とジャニーズ
  数あるジャニーズ本の中で、鹿砦社の本がもっとも公平に
  光も影も余すところなく記述していた

                  斎藤美奈子(文芸評論家)

 そろそろ今年1年の出来事を振り返る季節になった。
 今年の事件として旧ジャニーズ事務所の一件は外せないだろう。
 10月に発売された鹿砦社編集部編『ジャニーズ帝国60年の興亡』は旧ジャニーズ事務所65年の歴史(1958年~2023年9月7日)に加え、 週刊誌記事や裁判記録をもとに1960年代から始まる故ジャニー喜多川氏への告発の経緯をまとめた労作である。
 北公次『光GENJIへ』(88年)を出版したデータハウスと並んで、鹿砦社は「週刊文春」の性虐待告発キャンペーン (99年)以前からジャニーズ問題の告発本を出してきた出版社である。だが3月にBBCがこの件を番組化するまで、表立っては誰も相手にしなかった。両社とも怪しげな暴露本を出すイエロージャーナリズムと見なされていたためだろう。
 私もその種の先入観がなかったとはいえない。

 が、事件の経過を調べる過程で『増補新版 ジャニーズ50年史』(鹿砦社・2016年)を読み、認識を改めた。
 数あるジャニーズ本の中で、この本がもっとも公平に、光も影も余すところなく記述していたからだった。
 ジャニーズ告発本が大手出版社から出なかったのはなぜだったのか。持ち込まれても拒否したのではないか。テレビ局や新聞社だけでなく出版社も同事務所との蜜月が長かった。その闇を改めて思う。
           (11月22日「東京新聞」朝刊21面「本音のコラム」より)