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待機児童「5年連続過去最少」の〝ウソ〟「隠れ待機児童」が増えている理由

 

 

 保育所などに入れなかった未就学児の「待機児童」は5年連続の過去最少になった。近年のピークだった2017年の約10分の1まで減少し、全国の調査対象の自治体の9割近くで「ゼロ」を達成している〝快挙〟だ。ところが、特定の園を希望するなどして除かれる「隠れ待機児童」は高止まりが続く。

 

 

 「待機児童数が減少しても保育園に未だに入れない人たちが多くいるんです」 

 

 保育園を考える親の会(東京都豊島区)で顧問を務める普光院亜紀さんはこう訴える。  こども家庭庁は9月1日、保育所などの空きを待つ「待機児童」の数が今年4月時点で2680人と、前年と比べて264人減ったとの調査結果を公表した。近年のピークだった2017年の2万6081人と比べて、約10分の1にまで減った。背景には、少子化のほか、保育所の増設などが挙げられる。

 

  だが、この数字は現状とは大きく乖離しているという。 

 

 普光院さんは「認可の利用を申請したのに入れなかったため、認可外の保育園を利用しているとか、特定の園を希望しているといった理由で、国の集計から除外されている人たちがいる」と指摘する。

 

  それらは「隠れ待機児童」と呼ばれる。 

 

 保育園を考える親の会は独自に、保育政策にかかわるアンケート調査を全国の自治体に実施し、それらの結果を毎年秋に「100都市保育力充実度チェック」として公表している。

 

 その調査を踏まえて、普光院さんは「自治体に認可の保育(保育所、認定こども園、小規模保育など)の利用を申請して利用できなかった児童数(待機児童数+隠れ待機児童数)、いわゆる未決定児童数は全国で8万7343人になり、前年よりも4585人増加しています」と指摘する。 

 

「隠れ待機児童数には、育児休業延長制度を利用するために意図的に人気の高い園1園のみを希望する人なども含まれているのは確かですが、認可への入園を希望しているのに自治体から認可外を案内されて辞退した人も含まれています。こども家庭庁の統計では、保護者も惑わされますし、現状を正しく把握できず政策を見誤ることにもなりかねません」

 

(普光院さん)  こういった事態に行政も対策を打っていない訳ではないが、十分とは言い切れない。普光院さんは「ここ数年で保育園の入園事情は確かに改善しているものの、待機児童ゼロを謳う自治体でも入れない状況は続いている」と主張する。 

 

 こども家庭庁によれば、2000年度までは待機児童数は、認可保育園を希望して利用できなかった児童の数を単純に算出していた。ところが、2001年度以降は、東京都の認証保育所などの自治体の認可外助成事業(地方単独事業)を利用できた児童はカウントしなくてもいいことになり、その後、さまざまな定義でカウントしない数が増えていった。

 

  一方で、厚労省は18年度から「親に復職の意思がある場合は育児休業中も待機児童に含める」という定義の見直しも行っている。

 

 

 

 子育て事情に詳しいジャーナリストの小林美希さんはこう指摘する。 「国の目玉の政策として、待機児童の減少を掲げて20年以上が経過しました。元々の待機児童数が多く、それに急ピッチで応じなければいけない。待機児童の定義に〝特定の保育園を希望している〟を外したほうが待機児童数は少なく見えるため、行政にとって都合がいいのです」 

 

 小林さんによれば、特に国が待機児童問題に注力したのは、第二次安倍政権時代だという。政権発足後、成長戦略の柱として「待機児童ゼロ」を掲げた。13年に「待機児童問題を17年度末までに解消する」と宣言。15年に打ち出した「新3本の矢」では「希望出生率1.8」の実現のため、施設整備を進めた。 

 

 その後、16年には匿名ブログで投稿された「#保育園落ちた」が話題となり、SNSで大きく拡散された。政府は保育士配置基準の緩和を進め、受け入れる子どもの数を一人でも多く増やすことを狙った。また、切り札として「企業主導型保育」を新設した。これにより、約8万6000人分の「受け皿」が用意されたという。 

 

 ところが……。 

 

 小林さんはこれらの政策の危険性についてこう説明する。 

 

「規制緩和により、保育の質が問題視されるようになりました。保育士による園児への虐待が報道されて社会の注目を集め、保育士が逮捕されるケースも出てきました。こうしたことから、評判の良い特定の園を希望する人は少なくはありません。なのに、待機児童にカウントされないのはおかしい」

 

 園児への暴行や虐待などが全国の保育園で相次いでいることから、こども家庭庁は22年に初めて、全国調査に乗り出した。同庁はその調査結果を23年5月に公開。22年4月から12月の間に、子どもの人格を尊重しない不適切な保育は全体で1316件に上り、このうち虐待は122件となった。  小林さんはこう言う。

 

 「そもそも余裕のある人員の配置が必要です。そのためには配置基準の引き上げと保育士の待遇改善をセットで行わなければなりません。とはいえ、保育の現状を知るための要素として、待機児童数が適切にカウントされていなければ、実態の改善は遠い」 

 

(AERAdot.編集部・板垣聰旨)