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 NHK

性別変更の手術要件めぐり 特例法の規定は憲法違反 最高裁

 

性同一性障害の人が戸籍上の性別を変更するには生殖能力をなくす手術を受ける必要があるとする法律の要件について、最高裁判所大法廷は「意思に反して体を傷つけられない自由を制約しており、手術を受けるか、戸籍上の性別変更を断念するかという過酷な二者択一を迫っている」として憲法に違反して無効だと判断しました。
 

法律の規定を最高裁が憲法違反と判断するのは戦後12例目で、国会は法律の見直しを迫られることになります。

 

性同一性障害の人の戸籍上の性別について定めた特例法では、▽生殖機能がないことや▽変更後の性別に似た性器の外観を備えていることなど複数の要件を満たした場合に限って性別の変更を認めていて、事実上、手術が必要とされています。

この要件について戸籍上は男性で女性として社会生活を送る当事者は「手術の強制は重大な人権侵害で憲法違反だ」として、手術無しで性別の変更を認めるように家庭裁判所に申し立てましたが、家裁と高等裁判所は認めませんでした。

 

25日の決定で、最高裁判所大法廷の戸倉三郎 裁判長は、生殖機能をなくす手術を求める要件について「憲法が保障する意思に反して体を傷つけられない自由を制約しており、手術を受けるか、戸籍上の性別変更を断念するかという過酷な二者択一を迫っている」として憲法に違反して無効だと判断しました。

一方、そうした制約の必要があるかどうかについて、
▽子どもが生まれ、親子関係の問題が生じるのは極めてまれで解決も可能なこと、
▽特例法の施行から19年がたち、これまで1万人以上の性別変更が認められたこと、
▽性同一性障害への理解が広がり、環境整備が行われていること、
▽海外でも生殖機能がないことを性別変更の要件にしない国が増えていることなどを挙げて「社会の変化により制約の必要性は低減している」と指摘しました。

憲法違反の判断は、裁判官15人全員一致の意見です。法律の規定を最高裁が憲法違反と判断するのは戦後12例目で、国会は法律の見直しを迫られることになります

一方、手術無しで性別の変更を認めるよう求めた当事者の申し立てについては、変更後の性別に似た性器の外観を備えているという別の要件について審理を尽くしていないとして、高等裁判所で審理をやり直すよう命じました。

申し立てた当事者「先延ばしになり残念」



 

最高裁判所大法廷の決定を受け、今回申し立てた当事者の代理人弁護士が都内で会見を開きました。南和行 弁護士は冒頭で申し立てた当事者のコメントを読みあげました。


「予想外の結果で大変驚いています。今回はわたしの困りごとからなされたことで、大法廷でも性別変更がかなわず、先延ばしになってしまったことは非常に残念です」としました。

一方、「今回の結果が良い方向に結びつくきっかけになるとうれしいです」としています。

南弁護士は「『法令違憲で無効だ』という判断は本当に数も少なく、法律家という意味ではとても意義がある。しかしやっと認めてもらえると思い、本人も勇気を振り絞って先月審問で裁判官に直接話したにもかかわらず、結局、大事なところは見てもらえなかった。本人が望む一番良い結論にたどりついていないことが悔しい」と述べました。

特例法の要件と過去の判断


2004年に施行された性同一性障害特例法では、戸籍上の性別変更を認める要件として、専門的な知識を持つ2人以上の医師から性同一性障害の診断を受けていることに加え、▽18歳以上であること▽現在、結婚していないこと▽未成年の子どもがいないこと▽生殖腺や生殖機能がないこと▽変更後の性別の性器に似た外観を備えていることの5つを定めていて、すべてを満たしている必要があります。

このうち▽生殖腺や生殖機能がないことと▽変更後の性別の性器に似た外観を備えていることの2つが事実上手術が必要とされています。

司法統計によりますと、2022年までに全国の家庭裁判所で1万1919人の性別変更が認められました。

一方、「手術無しで性別変更を認めてほしい」という申し立てもあり、最高裁判所はその1つに対し、2019年1月、「変更前の性別の生殖機能によって子どもが生まれると、社会に混乱が生じかねない」として、4人の裁判官全員一致で憲法に違反しないと判断し、申し立てを退けました。

ただ、4人のうち2人は「手術は憲法で保障された身体を傷つけられない自由を制約する面があり、現時点では憲法に違反しないが、その疑いがあることは否定できない」という補足意見を述べました。

性別適合手術 リスクや負担も


戸籍上の性別を変更するのに必要な性別適合手術とはどういうものなのか。性同一性障害学会の理事長を務め、医師として当事者の診療にあたっている岡山大学の中塚幹也教授に手術内容や患者の負担について聞きました。

中塚教授によりますと、性別適合手術とは精巣や卵巣などの生殖腺を取り除いて生殖能力を永久的に無くし、男性器や女性器に似た外観を備える手術のことを指します。女性から男性への手術の場合、あわせて乳房を取る手術を希望する人も多いということです。

 
 

手術は半日から1日かかり、輸血が必要になったり、合併症が起きたりするリスクはあるということです。また、高齢の人などはリスクが高まる傾向にあるということです。

費用は手術内容などによって異なり、自己負担の場合、数十万円から200万円以上かかるということです。手術自体に保険は適用されますが、手術の前に継続的にホルモン療法を受けていた場合、手術も含めて保険の適用にはなりません。

こうしたホルモン療法が保険適用外で、手術も含めて一連の治療とみなされるためです。このため実際は今も、高額の手術料を自費で負担している人が多いということです。

中塚幹也 教授
「合併症のリスクなど医学的な理由で手術ができない人がいるし、お金がなくて手術を受けたくても受けられない人もいる。手術をした人もできない人も、戸籍上の性別を変更できるようになることが重要だ。それが自分らしい人生を送ることにつながると思う」

「撤廃」「必要」手術要件めぐり意見

性別変更の手術要件に関する最高裁判所の審理をめぐっては、要件を▽撤廃すべきだという団体と▽必要だとする団体の双方が要請活動を行うなど、さまざまな意見が出ていました。

「LGBT法連合会」のメンバーなどは10月5日、最高裁を訪れて違憲判断を求めました。団体では「体の負担が大きい手術をしなければ性別を変えられないのは人権侵害だ。戸籍上の性別が違う人たちの不利益を改善してほしい」などと主張しています。

一方、「女性スペースを守る会」などの団体も10月17日に最高裁を訪れ、憲法に違反しないとする判断を求めました。団体では「要件がなくなると手術を受けなくても医療機関の診断で性別変更が可能になり、女性が不安を感じるほか、法的な秩序が混乱する」と主張しています。

《政府や各党の反応》

 

政府「関係省庁で精査し対応」


森屋官房副長官は記者会見で「決定が出されたことは承知しているが、それ以上の詳細は現時点で掌握していない。今後、関係省庁で決定内容を精査の上、適切に対応していくものと考えている」と述べました。

立憲民主党の長妻政調会長は「性的マイノリティーの方々の権利を守るためのまずは第一歩を踏み出したということで当然の判断だ。判断を受け、わが党としても今国会の法案提出を目指して準備を加速させたい」と述べました。

日本維新の会の馬場代表は「きょうの結論も議論道半ばという感じだ。人間の体が関わる部分はそれぞれの倫理観や宗教観が複雑に絡み合い、政治の場で簡単に多数決で決める話ではない。司法も世論も議論を深めるべきで、もう少し時間をかけるべきだ。 拙速に政治で結論を出すのはやめた方がいい」と述べました。

公明党の石井幹事長は「裁判官全員一致での憲法違反の判断なので、重く受け止める必要がある。公明党は手術を受ける必要があるとする法律の要件自体は人権の観点から見直すべきと従来から主張している」と述べました。

共産党の志位委員長は「自分の体のことは自分で決める当然の権利を認めた重要な判断だ。特例法を制定した当時は、国際的にも医学的疾患とされていたが、その後、本人の性自認のあり方を尊重するモデルへの移行が進み、そういう流れに沿った当然の判断だ。今回の最高裁の決定を踏まえ、法改正への責任を果たしていく」と述べました。

 

 

 

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最高裁が「違憲」判断 性別変更の手術要件 政府「適切に対応」

 

戸籍上の性別を変更する際に、生殖能力をなくす手術を必要としている今の法律の規定について、最高裁が初めて「違憲」とする判断を示したことを受け、森屋官房副長官は「今後、関係省庁で適切に対応する」と述べました。

 

 森屋宏 官房副長官 

 

「詳細については現時点では掌握をしておりません。今後、関係省庁におきまして、決定内容を精査の上、適切に対応をしていくものと考えております。詳細につきましては、法律を所管をする法務省にお尋ねをいただきたい」 

 

森屋官房副長官は午後の会見で、「関係省庁で適切に判断する」と述べるにとどめました。 また、社会情勢の変化に伴い、同性婚の導入を求める声があがっていることに対しては「国民1人1人の家族観と密接に関わるものであり、国民の意見や、国会における議論の状況、同性婚に関わる訴訟の現状、または地方自治体におけるパートナーシップ制度の導入状況等を注視していく必要がある」と慎重な姿勢を示しました。 選択的夫婦別姓の導入については、「現在でも国民の間に様々な意見があることから、しっかりと議論をし、より幅広い国民の皆さん方の理解を得る必要がある」としています。

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