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ジャニー喜多川氏の行為は「レイプ犯罪」 テレビ局も損害賠償金を負担し責任者は辞職せよ 古賀茂明
古賀茂明氏
日本という国はどんな国なのか。 ジャニー喜多川による数百人に対する性加害。そのかなりの部分は未成年レイプという人類史上稀に見る凶悪犯罪はそれ自体驚きだが、この事件をめぐる日本メディアの状況を知れば、世界の人々は二度驚くことになるだろう。 まず、この犯罪の凶悪性、悪質性が日本では明確に認識されていないきらいがある。特に指摘すべき点を4つ挙げておこう。
第一に、「性加害」という言葉の問題。日本のマスコミはこの表現を好んで使う。 だが、単に「性加害」というと必ずしも暴行や虐待とは直結しない。これを英語にするときは、「sexual assault」または「sexual abuse」という言葉しかないのだが、これをもう一度日本語に訳すと「性的暴行」「性的虐待」となる。「性加害」よりかなり強い言葉だ。「レイプ」はこれらの中に含まれる最悪の犯罪形態である。 ジャニー喜多川の行為は、現行刑法で言えば、不同意性交罪だが、ついこの前までは強制性交罪と呼ばれていた犯罪である。それ以前は被害者が男性の場合は性犯罪にはならず、女性に対する犯罪のみ「強姦罪」として処罰された。ジャニー喜多川の行為は、男性に対する「強姦罪」であり、いわゆる「レイプ」犯罪である。これが数百人の少女に対する犯行だとしたら、世論の反応はどうであろうか。人々の憤りは烈火の如く燃え広がり、問答無用でジャニーズ事務所解体!となっていたのではないか。「性加害」という言葉を使うことで日本語での語感が弱められてしまうので、ここでは、あえて「レイプ」という言葉を使うことにより、女性に対する性暴力と同じ意味を持つ行為だということを明確にしておきたい。この言葉を聞くことにより、多くの人々はドキッとし、より強い気持ちで「酷い」と思うはずだ。
第二に、犯罪の対象が未成年者であること。自分や身近な人の子供がレイプされることを想像してほしい。ますます「許せない!」となるだろう。
第三に、一度ではなく、同じ子供に対して繰り返しレイプが行われたということ。一度でも取り返しのつかない心の傷を負わせるのに、それを何度も行っていた。精神的殺人といっても良いだろう。総件数でいえば、数百件になるとされている。驚きの犯罪規模だ。
第四に、優越的立場を悪用した卑劣な犯罪だということ。物理的な暴力を使わなくても、抵抗する術を知らない子供を「手籠にした」のだ。暴力以上に卑劣な手段ではないか。いくら憎んでも憎み足りないと感じる人が多いのではないか。
これだけの犯罪を行った人間に対しては、もし生きていれば最高刑が科されただろう。殺人は犯していないので死刑にはならないが、複数の犯罪を犯しているので、不同意性交罪の加重刑の最高刑である30年の拘禁刑にすべき事案だ(拘禁は、懲役と禁錮を統合してできた刑事罰で、2025年までに施行される)。
以上のことを確認した上で、9月7日のジャニーズ事務所の記者会見を振り返ってみれば、ほとんどの人が、「ふざけるな!」と感じるのではないだろうか。
ようやく事実関係を認めたのは前進などという人もいるが、これだけの大犯罪を隠し通せるわけがない。悔い改めて認めたのではなく、追い詰められて自分たちの保身のために自白したに過ぎない。
その証拠に、前社長の藤島ジュリー景子氏は代表取締役に残り100%株主として君臨する。ジュリー氏の幼馴染で、自らもセクハラ・パワハラ疑惑の渦中にあるジャニーズ事務所所属最古参のタレント東山紀之氏が社長になる。そしてジャニーズの名前は残す。
はっきり言って、何も変えないと言っているに等しい。
ジャニーズタレントが可哀想だという芸能記者の記事を載せる媒体もあるが、これもまた人権感覚ゼロの変われない勢力の一部である。
タレントが可哀想かどうかは、個別に判断すべきだ。東山氏などは、むしろ加害者側にいた可能性があるので、まずは東山氏の性加害を受けたという被害者の声を聞いて、それに白黒をつけるべきだろう。 そうした疑惑のないタレントについては、テレビ局などが他の事務所を紹介するか独立させるなどして、ジャニーズ事務所を介さずに出演する道を開けば良い。ジャニーズ事務所への忖度で出させてもらっていたタレントは、この機会に仕事を失うことになるかもしれないが、やむをえない。 むしろ、これまで、実力がありながらジャニーズ事務所のせいで出演できなかったタレントには新たに公正な機会が与えられるので望ましい。視聴者にとってもその方がプラスだ。 被害者救済について、ジャニーズ事務所は会見で、独立した第三者の委員会を設けて、時間的な制約なく、厳密な証拠も求めない柔軟な方針で進めるという趣旨の発言をした。 これは評価に値すると思ったのだが、13日に発表された被害者への補償策を見るとほとんど具体性がなく、本気度が疑われるものになってしまった。 「被害者救済委員会」が設置されるが、そのメンバーの独立性が担保されていない。本来は、日本弁護士連合会の推薦によるなど独立性の保証を明確にすべきだった。また、補償の基準も示していない。これではどんな救済になるのか全く不明のまま相談に来いと言っていることになる。あまりにも横柄な態度ではないか。 また、今後1年間は広告出演と番組出演などで発生する出演料は全てタレント本人に支払い、芸能プロダクションとしての報酬は受け取らないとしているが、それは、タレントが逃げ出さないように予防策をとっただけだと考えた方が良い。そもそも、1年だけという理由も不明だ。1年経てば批判も収まると考えているのだろうか。 今回の救済策では、ジャニー喜多川の性加害だけが対象となっている。東山氏など他のメンバーの疑惑については蓋をするという宣言でもある。 救済の原資も不明だ。ジャニーズ事務所の財産に限定するつもりかもしれないが、それは許されない。ジュリー氏の個人財産も拠出すべきだ。彼女の財産も元を正せば未成年者を犠牲にして得た利益である。それを守ることは正義に反することだと誰にもわかるだろう。
そのBBCは、元人気司会者ジミー・サビル氏による児童性虐待の問題が、2011年の同氏の死後明らかになった後、責任を認めて、同氏の遺産に加えて損害賠償資金を提供した。この事件については、Netflixが昨年検証ドキュメンタリーを配信して話題になったので、ご存じの方もいるだろう。 そして、その時の教訓がしっかりと生かされていることがつい最近の出来事で明らかになっている。BBCのある司会者が10代の子供に性的な写真を要求し、金銭を払い続けたとする報道があった後、単なる疑惑段階で、BBCは警察にコンタクトし、この司会者を出演停止にしたのだ。 過去のことでもしっかり責任を取り、次の事態で教訓を生かす。日本のテレビ局とは天と地ほどの差がある。 日本のテレビ局が変われないという話を書いたが、おそらく彼らも逃げきれなくなる時が来たようだ。 まず、スポンサーが脱ジャニーズで動き出した。テレビ局はそれに向き合わざるを得ない。 さらに、この問題がBBCで報じられた後もなお説明責任を果たすこともなくジャニーズタレントを使い続け、事実であるとジャニーズ事務所が認めた後でさえジャニーズタレントを使い続けるテレビ局は苦しい立場に立たされる。担当プロデューサーの責任ですということでは済まないはずだ。ことの重大性からいえば、経営トップは辞職に値する。 この問題がどうなるのかについて、あるテレビ局関係者は、「カギは文春ですよ」と小声で囁いた。真っ先にこの問題を報じながら、すべてのテレビ局に黙殺された「週刊文春」が手ぐすね引いてテレビ局批判を展開するだろうというのだ。 残念な気もするが、それに期待するしかないのが、日本メディアの現状である。
古賀茂明