大阪地検特捜部の検事
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NHK
検事の取り調べ“悪質”認定も裁判開かず 大阪高裁に抗告
大阪地検特捜部の検事が捜査した事件で関係者に行った取り調べについて、大阪地方裁判所は「一方的に責めたててどなるなど悪質だ」と批判し、公務員による陵虐行為にあたると認定しました。しかし、検事の裁判を開くことは認めなかったため、この事件で無罪が確定した男性が、検事の刑事責任を問うよう求めて、大阪高等裁判所に抗告しました。
大阪地検特捜部に横領事件に関わったとして逮捕・起訴され、裁判で無罪が確定した、大阪の不動産会社の前社長、山岸忍さん(60)は、50歳の検事が違法な取り調べをしたとして、特別公務員暴行陵虐の疑いで刑事告発しましたが、大阪地検が不起訴にしたため、公務員の事件について、裁判所に刑事裁判を開くよう求める「付審判請求」を行いました。
これについて、大阪地方裁判所は先月末、この検事が山岸さんの部下に行った取り調べについて「机をたたき、およそ50分の長時間、ほぼ一方的に責めたて続け、このうち15分は大声でどなっている。相手に精神的苦痛を与える行為で、みずからの意に沿う供述を無理強いしようとしている。取り調べの範囲を超えて悪質だ」と指摘し、陵虐行為にあたると認定しました。
しかし、「こうした言動は、取り調べのうちの一部だ」などとして、この検事の裁判を開くことは認めませんでした。
このため山岸さんは7日、裁判所の判断を不服として、大阪高等裁判所に抗告しました。
無罪確定の男性「不起訴を許しては えん罪がまた起こる」
抗告したあとに記者会見した山岸さんは「録音録画を見れば、問題のある取り調べが一部ではないことは一目瞭然だ。こうした取り調べを行った検事を不起訴にすることを許してしまっては、私のようなえん罪がまた起こってしまう。大阪高裁には公正な判断をしてほしい」と話していました。
また、弁護団の中村和洋弁護士は「検事の取り調べが厳しく非難されたのは極めて異例だ。大阪高裁は司法の信頼を担っていると認識して、きぜんとした判断をしてほしい」と話していました。
大阪地検「コメントは差し控える」
大阪地方検察庁の北岡克哉次席検事は、「付審判請求に対する裁判所の決定と、請求人がこの決定に抗告を行ったことは承知しているが、コメントは差し控える」としています。
なぜ 陵虐行為認めたのに 刑事裁判を認めなかった?
大阪地裁の決定では、検事の取り調べの一部について陵虐行為にあたると認めたのに、刑事裁判を開くことを認めなかったのはなぜなのでしょうか。
【付審判請求とは 公務員の不起訴 甘い判断でないかチェック】
「付審判請求」は、公務員の事件について検察官が不起訴とした処分が妥当かどうか、裁判所に判断を求める制度です。
起訴すべきだと認めると、裁判が開かれます。
検察官が、同じ公務員に対して甘い判断をしていないかどうかチェックするために設けられ、取り調べや刑務所での暴行や陵虐事件など、対象となる事件が限られます。
【検事の取り調べ 特別公務員暴行陵虐の疑いで付審判請求】
山岸さんは、当時の部下の取り調べを担当した50歳の検事が、罵倒するなどの違法な取り調べを行ったとして、特別公務員暴行陵虐の疑いで去年6月、付審判請求を行いました。
【大阪地裁 陵虐行為にあたると認定】
これについて、大阪地方裁判所は先月31日に出した決定で、「検事の取り調べ」とは、「ある程度の時間をかけて容疑者の言い分を確認し、証拠と突き合わせて食い違いなどの説明を求め、その供述が真実かうそかを明らかにするという性質や機能がある」ものだとして、陵虐行為にあたるかどうかは、「検事がそうした言動を行うことの必要性や相当性を考慮して社会通念に従って判断すべきだ」としました。
そのうえで、「検事は机をたたき、およそ50分という長時間にわたって前社長の部下をほぼ一方的に責めたて続け、このうちおよそ15分は大声でどなっている。精神的苦痛を与える行為で、みずからの意に沿う供述を無理強いしようとしている。取り調べの範囲を超えて悪質で、強い非難を向けなければならない」と指摘し、陵虐行為にあたると認めました。
また、別の日の取り調べで、検事が部下に対して「会社の評判をおとしめた大罪人だ」と発言したことについても、「大げさで侮辱的だ」と指摘しました。
決定文では、「録音録画された中で、このような取り調べが行われたこと自体が驚くべきゆゆしき事態である」とも非難しました。
【大阪地裁 付審判請求は退ける】
しかし、刑事処分としては、「机をたたいたのは1回で、こうした言動も取り調べのうちの一部である。部下は当時、机をたたいたり声を荒げたりしたことによって『怖いとも精神的につらいとも思わなかった』と話している」などとして、不起訴の処分は相当だと判断し、付審判の請求を退けました。