原子力緊急事態宣言は2011年3月11日発令後、現在も続いています。
本日11月30日 2022年 信濃毎日新聞 北海道新聞の社説
信濃毎日新聞・社説
〈社説〉原発の建て替え 経済的に成り立つのか
https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2022113000173
経済産業省が、原発活用の行動計画案をまとめた。
これまで「想定していない」としてきた新たな原発の建設について、廃炉が決まった原発を建て替える形で推進する方針を示した。老朽化した原発の運転期間延長も認めるとした。
岸田文雄政権は今年8月、原発推進への政策転換を表明した。その具体案がわずか3カ月ほどの検討を経て、姿を現した。
2011年の福島第1原発事故後、多くの国民が求めていた脱原発の道を捨て去る計画である。認めることはできない。
来月のGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議で政府として決定する方針という。
政府は、高まる脱炭素化の機運に乗じ原発回帰を急ピッチで進めている。ウクライナ戦争に伴う燃料高騰も重なり、電力供給面でも必要性を訴えている。
新たな原発の建設を認めるかどうかは、そこから出る核廃棄物の問題などを含め、将来を長期的に左右する問題だ。国民的議論もなく決めてよいはずがない。拙速な対応と言わざるを得ない。
新たに原発を造ることが、脱炭素に本当に役立つのだろうか。
原発は、計画から稼働まで優に10年以上はかかる。政府は安全性を高めた「次世代型」の建設を予定しているが、新型となればさらに年数を要するだろう。
地球温暖化対策は今後10年ほどが重要とされ、それには間に合わない。また、原発が直接は二酸化炭素(CO2)を出さなくても、依存すれば脱炭素の技術革新を停滞させることになりかねない。
原発の運転は現在、法律で「原則40年、最長60年」と決まっている。この上限は残し、安全面の審査などで停止していた期間を運転期間から除外することで、実質的に60年超を可能にする計画だ。
上限撤廃も検討したが、自治体から老朽化に不安の声が出ていることに配慮したという。さらなる制度改変には含みを残す。
うかがえるのは、世論を気にして正面からの議論を避け、既成事実を積み重ねる政府の手法だ。
電力市場は変化している。再生可能エネルギーのコストが下がっていく中で、原発の価格競争力は低下した。福島事故以降、安全対策費の増加などで原発の建設費は大幅に上昇している。
原発ありきは、経済的にも成り立たない可能性が高い。
建て替えを持ち出すより先に、コスト比較なども含めた電力供給全体の将来像の議論を深めるべきだ。
北海道新聞・社説
<社説>原発60年超運転 乱暴な変更認められぬ
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/767470/?rct=c_editorial
東京電力福島第1原発事故を教訓に国が国民と約束した「原則40年、最長60年」の運転期間ルールを骨抜きにする乱暴な変更だ。
経済産業省が原発活用の行動計画案を示し、原子力規制委員会の再稼働審査などで停止した期間を除外して運転延長できるとした。
長期化する北海道電力泊原発の審査は10年目だ。北電の説明不備が主な原因とされるが、これだと運転期間は70年を超えかねない。
現行の原子炉等規制法では40年を超える運転には規制委の認可が必要だ。行動計画案ではこれに加え、経産省が電力安定供給や防災対策面から認定するという。
安全審査は福島事故後に経産省の原子力安全・保安院から独立性の高い規制委に移った。再び経産省が主導権を握るかのごとき一方的な原発回帰は認められない。
行動計画は政府のグリーントランスフォーメーション(GX)実行会議で来月決定を図るという。
岸田文雄首相が8月、唐突に「原発の最大限活用」を打ち出してから3カ月しかたっていない。
GXは脱炭素化実現が主眼だ。それがロシアのウクライナ侵攻や原油高による電力逼迫(ひっぱく)で原発復活を前面に出し、再生可能エネルギーは脇に追いやるかのようだ。
行動計画案には廃炉後の次世代型への建て替え、立地地域振興、人材育成も盛り込まれた。福島事故前に逆戻りした印象を受ける。
運転期間の原則40年ルールは事故後に法制化された。原子炉容器の劣化防止だけでなく、期限がきたら廃炉にすることで依存度を減らす意義があった。
計画案を審議した経産省の小委員会では当初、期間の上限撤廃まで踏み込んでいたが、国民の反発に配慮し修正したという。
とはいえ今、審査期間を運転年数から除外しても直近の需給情勢に影響はない。泊審査は北電の説明だけで来年9月までかかる。
電力危機対応というより原発主力化の地ならしではないか。規制委に圧力をかける意図もにじむ。
経済界や与党の一部からは「審査が長すぎる」との声も出る。だが本来は審査期限を設定し、電力会社が安全性を証明できなければ再稼働を認めないのが筋だろう。
停止中も維持管理に累計6千億円超を計上し安全対策費も膨らむ北電の経営は危うさが否めない。
行動計画案では裁判所の仮処分命令による停止期間も運転年数から除外するという。上級審で取り消された場合のみとするが、司法軽視といえる姿勢は問題だ。