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特殊詐欺のラスボスは中国人 「受け子」に日本人を利用する狡猾手口

 

警察官になりすまして高齢者から多額の現金をだまし取ったとして、大阪府警は6月下旬、詐欺容疑で中国籍の男2人を逮捕した。2人は詐欺グループの一員で、だまし取った金を回収して保管する「金庫役」。府警はこれまでにグループのメンバー10人超を逮捕したが、被害者と直接やりとりする実行役を担っていたのは、いずれも日本人だった。捕まるリスクの高い末端は日本人から〝調達〟し、上位者には中国人が就いて国外から詐欺を主導する-。こうした詐欺グループが複数暗躍している可能性が高いが、府警幹部は「中国の拠点から指揮しており、実態の解明が困難になっている」としている。 

 

【図でみる】特殊詐欺の詐取金の流れ 

 

■帰化人が「金庫役」 

 

6月下旬、新大阪駅(大阪市淀川区)で、府警の捜査員数人に囲まれ、うつむきながら歩く男2人の姿があった。腰縄をかけられ、捜査員が東京から大阪へ身柄を移送する最中だった。 府警に詐欺容疑で逮捕されたのはいずれも中国籍の顔騰(イエンタン)(34)と沈琪(シェンチー)(44)の両被告=ともに詐欺罪で起訴。警察官をかたり「家にあるお金が偽札の可能性があり、調べるため預かる」などとだまし、2人の高齢者から現金計8200万円を詐取した疑いが持たれている。2人は特殊詐欺グループの一員で、「受け子」や「出し子」の上位にいる回収役から金を受け取る金庫役だった。 2人の下には、交流サイト(SNS)で集められた23~55歳の日本人計7人が実行役として活動。

 

警察官や銀行員などになりすまし、被害者と直接会ったりATMから金を引き出したりする役割を請け負っていた。

 

詐取した金のうち、2人には計7400万円が渡り、差額は実行役の報酬に使われたとみられる。 このグループをめぐっては、府警が6月に東京都江東区内の貴金属関連企業を家宅捜索。翌7月には2人が保管した現金を回収したとして、詐欺容疑でこの会社の役員を務める横山征龍(せいりゅう)容疑者(40)を逮捕した。会社を詐欺の隠れ蓑に、被害金の回収を行っていたと考えられる。横山容疑者は中国から日本に帰化しており、「ビジネス」として中国への送金も繰り返し行っていたという。 府警によるとこれまでに、両被告や横山容疑者と同一の詐欺グループのメンバーとみられる計10人超を逮捕。

 

被害額は少なくとも1億円以上に上る。 

 

■足取りつかみにくく 

 

大阪府警では他にも、特殊詐欺を主導したとして中国人を摘発している。

 警察官をかたって大津市の80代女性から現金100万円を窃取したとして6月、中国籍の男女2人を逮捕した事件では、女の自宅から帯が付いた札束計3千数百万円を発見。2人は「回収役」を担っており、まとまった金をグループの上層部へ送金する直前だったという。この事件でも、日本人が受け子や出し子として摘発された。 いずれの事件も、グループの上層部は中国にいるとみられるが、詳しい拠点などは判然としていない。グループ内で役割が細分化され、上下のつながりが見えにくいためだ。被害者への電話はIP電話を使用するなどして発信元を容易にたどれず、送金にも足取りのつかみにくい暗号資産が使われる場合が大半という。 

 

■中国本土でも横行 

 

府警によると、詐欺に関与していた中国人は従来、受け子や出し子といった末端の実行役まで担うケースが多かった。しかし、新型コロナウイルス禍で海外との往来が少なくなったためか、在日中国人が指示役などを担い、SNSで簡単に集まる日本人を実行役に従えるようになったという。 指示役の在日中国人が中国本土とのパイプ役も果たしていたとみられ、捜査関係者は「中国国内でも日本と同様の特殊詐欺が横行している。

拠点を中国本土に置いたグループが、日本にも犯行の手を広げているのではないか」と指摘する。 警察庁によると、中国人犯罪グループは地縁や血縁を利用したり、職場の同僚を誘い込むなどして結成される場合が多いと分析している。府警幹部は「府警が摘発した中国籍の容疑者は氷山の一角。彼らは独自のコミュニティーを持っており、全国に同様のグループが複数暗躍しているとも考えられる」と推察。

「詐欺グループの実態解明と撲滅に向けて、着実に捜査を進めたい」と述べた。

(石橋明日佳)