ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

 

有名タレントが住む都心の超一等地に建つマンションが、なぜか空き室だらけ…廃墟寸前のヤバすぎる実態

 

----------

 

 日本でもっともマンションの坪単価が高い都心の超一等地に建ち、有名タレントも住んでいる超稀少物件は、なぜ「幽霊マンション」と化したのか。 

 

----------

 

  【実名公開】いまマンションを「買っていい街」「ダメな街」を実名公開する…!

人の気配が感じられない薄暗い空間

 

photo by istock(写真はイメージです)

 

 

 間もなく廃墟になりそうな幽霊マンション――それが建つのは、郊外のうらぶれた場所ではない。日本ではもっともマンションの坪単価が高い、都心の超一等地だ

 

。  交通スペックは最寄りの東京メトロの駅から「徒歩1分」。実際には、駅の出口から10メートル程度のところに、マンションのエントランスがある。

 

  「僕たち、監視カメラで撮られていますよ。集音マイクで会話も聞かれていますので、気を付けてくださいね」  建物に入ると、弁護士の岸先生(仮名)がそう言ったので、私は目で頷いた。 

 

 そのマンションの1階はもともと事務所用の区画だったらしいが、使われなくなってから何年も経っている感じだった。照明がほとんど点いていない1階の共用内廊下を、岸先生の先導で奥へと進んでいく。

 

  「ここには(不動産会社の)S社に雇われた管理員がいるはずです。きっとモニターで僕たちを見ていますよ。出てきてくれると挨拶できるんですけどね」

 

  事務所スペースの端っこにあるドアを指して、岸先生が説明してくれた。

 

  エレベータは建物の奥まったところにあった。それに乗って私たちが移動したのは、そのマンションの共用スペースがあるフロア。100平方メートルくらいのガランとしたスペースには何も置かれていない。壁側に折り畳み式のパイプ椅子が、何十脚も立てかけられていた。 

 

 「ここで住人たちは集会をしていました。いつでも集会を開けるように椅子だけは残されています」  

 

確かに、打ち捨てられているようには見えなかった。薄暗いものの、照明も点く。 

 

 その後、賃貸住戸のある区画に案内された。

 

  「もう誰も住まなくなってから、何年も経っています」

 

  当然というべきか、人の気配がまるで感じられない。その時、岸先生に案内してもらったのは私を含めて3人。大人4人だから恐怖感はほとんどなかったが、それでもなんとなく、背筋に薄ら寒いものを感じた。 

 

 (これじゃあ、まるで「幽霊マンション」じゃないか……) 

 

 区分所有者の一人である岸先生に遠慮して、その場では口にすることができなかったが、そう感じたのを覚えている。

 

  この原稿を書くにあたって、いくつか事実関係を確認すべく岸先生とメールのやり取りをした。その際に「幽霊」のことを伝えたら「私の家族もそう言っていました」といった返信をいただいた。

 

本当はタワマンにしたかった

 

 なぜ、都心の超一等地に立つ物件が「幽霊マンション」になっているのか?

 

   答えを先に言ってしまえば、壮大な「地上げの失敗」なのである。 

 

 地上げというのは、マンションでも行われる。1戸1戸を買い集め、ある程度買収が進んだら、管理組合の総会で「建て替え決議」を発議する。法的には全体の5分の4の賛成が得られれば、建て替えが可能となる。

 

  都心に立地する老朽マンションであれば、新しく建て替えることによって資産価値が高まる。区分所有者にとっては、建て替え決議に賛成しやすい条件が整っているケースが多い。  その「幽霊マンション」は、すでに築50年超となっている。ただし、私が見た感じでは、建物は確かに老朽化しているが、まだまだ「住めない」レベルには達していない。岸先生によると、全120戸のうち、34戸には使用実態があるという。 

 

 ただし、この物件の構成はやや複雑だ。

 

  岸先生が使用する住戸も含めて、80戸が区分所有。その他、このマンションができた時からS社という不動産会社が所有する賃貸向け住戸が40戸。その他にも、床面積割合で全体の6分の1が事務所スペースとなっている。やはりS社が所有。

 

  岸先生がそのマンションに住み始めたのは、約27年前。最初の6年は賃貸だったが、気に入ったので21年前に1住戸を居住用に購入したという。

 

  それから数年経った頃、管理組合で建て替えの話が本格的に始まった。それを先導するのは、マンション業界のリーダーを自任する財閥系デベロッパーのM社。

 

  建て替え計画案には、「22階建てのタワーマンション、全263戸」の概要が示されていた。現状の区分所有者には、ほぼ同程度の面積の新住戸を所有することになる――ということをほのめかす内容だったという。

 

 しかし、各住戸には追加負担が2000万円前後必要、ということも次第に判明してきた。 

 

 

 岸先生が知る限り、区分所有者はほとんど富裕層らしい。その程度の負担なら出せなくもない。中には昭和期に大活躍したタレント夫妻とか、広告業界の有名人なども混じっている。

 

  そんな有名人の一人が管理組合の総会で、建て替え計画を積極的に推進する発言をしたという。 

 

 「みなさん、2000万円程度のご負担で、ここがタワマンに生まれ変わるのです。新しいタワマンのオーナーになれるのなら、そのくらいの負担はなんとか……」 

 

 有名タレントの区分所有者たちは、なぜか話し合い初期からことごく建て替え賛成派に回っていた――。 

 

 都心の超一等地に建ち、多くの富裕層が住まうマンションーーそこを舞台に、財閥系デベロッパー・不動産会社と建て替え反対派住民との間では、どのようなやり取りが繰り広げられたのか。

 

  後編記事「財閥系デベロッパーのタワマン計画が頓挫…あまりにもズサンで横柄な「マンション地上げ失敗」の悲惨な末路」では、その様子をさらに詳述する。

 

榊 淳司(住宅ジャーナリスト)/週刊現代(講談社)

 

 

 

住民側に不利な設定が次々発覚

都心の超一等地に立つマンションの住人たちに対し、財閥系デベロッパーのM社側から、徐々に詳しい建て替え計画の内容が提示されていく。ただ、区分所有者の中には「2000万円以上の負担なんて、おかしいのではないか」「この場所で住戸数も倍近くに増えるのだから、負担がゼロでも可能ではないのか」といった意見が出るようになる。

そのマンションに住む岸先生(仮名)の職業は弁護士である。彼も疑問に思うところがあり、計画案の内容を細かくチェックしていった。

 

すると、さまざまな疑問点が浮かび上がってきた。区分所有者側には著しく不利で、賃貸住戸を所有する不動産会社のS社や、開発するM社側に有利に設定されている部分が、いくつも見つかったのだ。

 

 

例えば、区分所有者の現有住戸の権利は内法面積を基にしているのに、建て替え後の取得住戸の面積は壁芯が基準となっていた。壁芯とは躯体である鉄筋コンクリートの真ん中のこと。壁芯で面積を測ると、実際の有効面積である内法と比べると5~10%前後広くなる。

それは建築や不動産の業界にいる人なら誰でも知っていること。ただし、一般の方には知らない人も多い。

 

要するに、S社とM社は区分所有者たちを舐めてかかった、という疑いが濃厚であった。

岸先生の指摘に、M社側はしどろもどろとなる。彼らのあまりにもズサンな計画と横柄な対応に、区分所有者たちの間に不信感が広まる。当然、反対派グループが形成された。そのリーダー格はもちろん岸先生である。

 

そうこうするうち、反対派の区分所有者たちの元には怪しい社名を名乗る業者から、頻繁に電話がかかってくるようになった。

 

「そちらの住戸を買わせてください」

 

いくらで買いたいの、と聞くと「どうぞ金額をおっしゃってください。その値段で買わせていただきます」。

 

地上げ屋の登場である。

 

反対派の所有住戸を買い進めていき、建て替えを強行できる5分の4をめざそうというのだ。後手に回ったM社側の、苦し紛れの手だてだったのだろう。

 

しかし、地上げ屋に売却する区分所有者はほとんどいなかったそうだ。

 

やがて岸先生は、M社やS社側の手続き上などの不法行為を追及する訴訟を、いくつも提起。何といっても現役弁護士である岸先生本人が区分所有者の一人として、訴訟の原告になっているのだ。訴訟を起こす心理的、金銭的負担は一般人に比べると極めて軽微。すでにそれらの訴訟の一部では勝訴の判決も出ている。

 

 

 

完全に失敗した財閥系デベの策略

計画案が示されてから、すでに何年もの年月が経過している。建て替え計画は一向に前進する気配がない。それどころか、M社側は建て替えによる再開発を諦めたふしもある。

岸先生によると、最近そのマンションを売却して引っ越した人が2組ほどあったそうだ。

 

「M社系の地上げ屋に売ったのですか?」と私が聞くと、

 

「いや、そうではない一般人が買ったみたいだね」と岸先生。

 

金額は、私が数年前に「先生、3億円以上で売れますよ」と半ば冗談で示した額よりも3割強は高くなっていた。その間、東京都心のマンション価格は値上がりを続けているのだ。

 

 

 

どうやらそのマンションの地上げは、今のところ完全に失敗した様子である。

 

それにしても、惜しい話だと思う。あれだけの一等地の物件が「幽霊マンション」として、ほとんど使われていないのだ。権利全体では半分前後を所有するS社は、貴重な超一等地の資産を寝かせたままにしておかざるを得ない。相当な固定資産税や都市計画税がかかっているはずだ。

 

M社も、建て替えが成功すれば都心の目玉物件にできた案件を、ズサンな仕事を仕掛けたばかりに逃してしまった状態。

 

 

地上げというのは、平成バブルの時代はよく話題になった。嫌がる権利者から半ば暴力的に物件を買い取る、というイメージだった。

 

 

しかし、時代は変わっている。

 

逆に今は、不動産を活用するために重要な役割を担う仕事になっている。地上げを丁寧に、誠実に行うことで生かされる不動産は多い。また権利を売り渡す側にとってのメリットも創り出せる。

 

 

だが残念なことに、この岸先生のマンションは何とも悲惨な失敗例といえよう。

 

誰の利益にもならず、超一等地の不動産がいつまでも「幽霊」のままになっている。

 

 

 

 

 

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

 

有名タレントが住む都心の超一等地に建つマンションが、なぜか空き室だらけ…廃墟寸前のヤバすぎる実態

 

----------

 

 日本でもっともマンションの坪単価が高い都心の超一等地に建ち、有名タレントも住んでいる超稀少物件は、なぜ「幽霊マンション」と化したのか。 

 

----------

 

  【実名公開】いまマンションを「買っていい街」「ダメな街」を実名公開する…!

人の気配が感じられない薄暗い空間

 

photo by istock(写真はイメージです)

 

 

 間もなく廃墟になりそうな幽霊マンション――それが建つのは、郊外のうらぶれた場所ではない。日本ではもっともマンションの坪単価が高い、都心の超一等地だ

 

。  交通スペックは最寄りの東京メトロの駅から「徒歩1分」。実際には、駅の出口から10メートル程度のところに、マンションのエントランスがある。

 

  「僕たち、監視カメラで撮られていますよ。集音マイクで会話も聞かれていますので、気を付けてくださいね」  建物に入ると、弁護士の岸先生(仮名)がそう言ったので、私は目で頷いた。 

 

 そのマンションの1階はもともと事務所用の区画だったらしいが、使われなくなってから何年も経っている感じだった。照明がほとんど点いていない1階の共用内廊下を、岸先生の先導で奥へと進んでいく。

 

  「ここには(不動産会社の)S社に雇われた管理員がいるはずです。きっとモニターで僕たちを見ていますよ。出てきてくれると挨拶できるんですけどね」

 

  事務所スペースの端っこにあるドアを指して、岸先生が説明してくれた。

 

  エレベータは建物の奥まったところにあった。それに乗って私たちが移動したのは、そのマンションの共用スペースがあるフロア。100平方メートルくらいのガランとしたスペースには何も置かれていない。壁側に折り畳み式のパイプ椅子が、何十脚も立てかけられていた。 

 

 「ここで住人たちは集会をしていました。いつでも集会を開けるように椅子だけは残されています」  

 

確かに、打ち捨てられているようには見えなかった。薄暗いものの、照明も点く。 

 

 その後、賃貸住戸のある区画に案内された。

 

  「もう誰も住まなくなってから、何年も経っています」

 

  当然というべきか、人の気配がまるで感じられない。その時、岸先生に案内してもらったのは私を含めて3人。大人4人だから恐怖感はほとんどなかったが、それでもなんとなく、背筋に薄ら寒いものを感じた。 

 

 (これじゃあ、まるで「幽霊マンション」じゃないか……) 

 

 区分所有者の一人である岸先生に遠慮して、その場では口にすることができなかったが、そう感じたのを覚えている。

 

  この原稿を書くにあたって、いくつか事実関係を確認すべく岸先生とメールのやり取りをした。その際に「幽霊」のことを伝えたら「私の家族もそう言っていました」といった返信をいただいた。

 

本当はタワマンにしたかった

 

 なぜ、都心の超一等地に立つ物件が「幽霊マンション」になっているのか?

 

   答えを先に言ってしまえば、壮大な「地上げの失敗」なのである。 

 

 地上げというのは、マンションでも行われる。1戸1戸を買い集め、ある程度買収が進んだら、管理組合の総会で「建て替え決議」を発議する。法的には全体の5分の4の賛成が得られれば、建て替えが可能となる。

 

  都心に立地する老朽マンションであれば、新しく建て替えることによって資産価値が高まる。区分所有者にとっては、建て替え決議に賛成しやすい条件が整っているケースが多い。  その「幽霊マンション」は、すでに築50年超となっている。ただし、私が見た感じでは、建物は確かに老朽化しているが、まだまだ「住めない」レベルには達していない。岸先生によると、全120戸のうち、34戸には使用実態があるという。 

 

 ただし、この物件の構成はやや複雑だ。

 

  岸先生が使用する住戸も含めて、80戸が区分所有。その他、このマンションができた時からS社という不動産会社が所有する賃貸向け住戸が40戸。その他にも、床面積割合で全体の6分の1が事務所スペースとなっている。やはりS社が所有。

 

  岸先生がそのマンションに住み始めたのは、約27年前。最初の6年は賃貸だったが、気に入ったので21年前に1住戸を居住用に購入したという。

 

  それから数年経った頃、管理組合で建て替えの話が本格的に始まった。それを先導するのは、マンション業界のリーダーを自任する財閥系デベロッパーのM社。

 

  建て替え計画案には、「22階建てのタワーマンション、全263戸」の概要が示されていた。現状の区分所有者には、ほぼ同程度の面積の新住戸を所有することになる――ということをほのめかす内容だったという。

 

 しかし、各住戸には追加負担が2000万円前後必要、ということも次第に判明してきた。 

 

 

 岸先生が知る限り、区分所有者はほとんど富裕層らしい。その程度の負担なら出せなくもない。中には昭和期に大活躍したタレント夫妻とか、広告業界の有名人なども混じっている。

 

  そんな有名人の一人が管理組合の総会で、建て替え計画を積極的に推進する発言をしたという。 

 

 「みなさん、2000万円程度のご負担で、ここがタワマンに生まれ変わるのです。新しいタワマンのオーナーになれるのなら、そのくらいの負担はなんとか……」 

 

 有名タレントの区分所有者たちは、なぜか話し合い初期からことごく建て替え賛成派に回っていた――。 

 

 都心の超一等地に建ち、多くの富裕層が住まうマンションーーそこを舞台に、財閥系デベロッパー・不動産会社と建て替え反対派住民との間では、どのようなやり取りが繰り広げられたのか。

 

  後編記事「財閥系デベロッパーのタワマン計画が頓挫…あまりにもズサンで横柄な「マンション地上げ失敗」の悲惨な末路」では、その様子をさらに詳述する。

 

榊 淳司(住宅ジャーナリスト)/週刊現代(講談社)

 

 

 

住民側に不利な設定が次々発覚

都心の超一等地に立つマンションの住人たちに対し、財閥系デベロッパーのM社側から、徐々に詳しい建て替え計画の内容が提示されていく。ただ、区分所有者の中には「2000万円以上の負担なんて、おかしいのではないか」「この場所で住戸数も倍近くに増えるのだから、負担がゼロでも可能ではないのか」といった意見が出るようになる。

そのマンションに住む岸先生(仮名)の職業は弁護士である。彼も疑問に思うところがあり、計画案の内容を細かくチェックしていった。

 

すると、さまざまな疑問点が浮かび上がってきた。区分所有者側には著しく不利で、賃貸住戸を所有する不動産会社のS社や、開発するM社側に有利に設定されている部分が、いくつも見つかったのだ。

 

 

例えば、区分所有者の現有住戸の権利は内法面積を基にしているのに、建て替え後の取得住戸の面積は壁芯が基準となっていた。壁芯とは躯体である鉄筋コンクリートの真ん中のこと。壁芯で面積を測ると、実際の有効面積である内法と比べると5~10%前後広くなる。

それは建築や不動産の業界にいる人なら誰でも知っていること。ただし、一般の方には知らない人も多い。

 

要するに、S社とM社は区分所有者たちを舐めてかかった、という疑いが濃厚であった。

岸先生の指摘に、M社側はしどろもどろとなる。彼らのあまりにもズサンな計画と横柄な対応に、区分所有者たちの間に不信感が広まる。当然、反対派グループが形成された。そのリーダー格はもちろん岸先生である。

 

そうこうするうち、反対派の区分所有者たちの元には怪しい社名を名乗る業者から、頻繁に電話がかかってくるようになった。

 

「そちらの住戸を買わせてください」

 

いくらで買いたいの、と聞くと「どうぞ金額をおっしゃってください。その値段で買わせていただきます」。

 

地上げ屋の登場である。

 

反対派の所有住戸を買い進めていき、建て替えを強行できる5分の4をめざそうというのだ。後手に回ったM社側の、苦し紛れの手だてだったのだろう。

 

しかし、地上げ屋に売却する区分所有者はほとんどいなかったそうだ。

 

やがて岸先生は、M社やS社側の手続き上などの不法行為を追及する訴訟を、いくつも提起。何といっても現役弁護士である岸先生本人が区分所有者の一人として、訴訟の原告になっているのだ。訴訟を起こす心理的、金銭的負担は一般人に比べると極めて軽微。すでにそれらの訴訟の一部では勝訴の判決も出ている。

 

 

 

完全に失敗した財閥系デベの策略

計画案が示されてから、すでに何年もの年月が経過している。建て替え計画は一向に前進する気配がない。それどころか、M社側は建て替えによる再開発を諦めたふしもある。

岸先生によると、最近そのマンションを売却して引っ越した人が2組ほどあったそうだ。

 

「M社系の地上げ屋に売ったのですか?」と私が聞くと、

 

「いや、そうではない一般人が買ったみたいだね」と岸先生。

 

金額は、私が数年前に「先生、3億円以上で売れますよ」と半ば冗談で示した額よりも3割強は高くなっていた。その間、東京都心のマンション価格は値上がりを続けているのだ。

 

 

 

どうやらそのマンションの地上げは、今のところ完全に失敗した様子である。

 

それにしても、惜しい話だと思う。あれだけの一等地の物件が「幽霊マンション」として、ほとんど使われていないのだ。権利全体では半分前後を所有するS社は、貴重な超一等地の資産を寝かせたままにしておかざるを得ない。相当な固定資産税や都市計画税がかかっているはずだ。

 

M社も、建て替えが成功すれば都心の目玉物件にできた案件を、ズサンな仕事を仕掛けたばかりに逃してしまった状態。

 

 

地上げというのは、平成バブルの時代はよく話題になった。嫌がる権利者から半ば暴力的に物件を買い取る、というイメージだった。

 

 

しかし、時代は変わっている。

 

逆に今は、不動産を活用するために重要な役割を担う仕事になっている。地上げを丁寧に、誠実に行うことで生かされる不動産は多い。また権利を売り渡す側にとってのメリットも創り出せる。

 

 

だが残念なことに、この岸先生のマンションは何とも悲惨な失敗例といえよう。

 

誰の利益にもならず、超一等地の不動産がいつまでも「幽霊」のままになっている。