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西日本新聞

日本郵便、過労自殺で異例の謝罪 

「遺族が10年以上、声上げ続けた」

過労で亡くなった男性の墓に手を合わせる日本郵便幹部(中央)と、その様子を見つめる妻(右)=昨年6月16日、埼玉県(郵政産業労働者ユニオン提供)

 

 2010年に埼玉県の郵便局員の男性=当時(51)=が年賀はがきの販売ノルマなどを苦に過労自殺した問題で、日本郵便が昨年6月、男性の遺族に謝罪していたことが分かった。遺族は一貫して謝罪を求めていた。同社は16年に解決金を支払うことなどで遺族と和解している。訴訟が和解で決着した後、企業が対応を改めて謝罪するのは異例。和解後に男性の自殺が労災認定されたことを受け、遺族の心情への配慮が必要と判断したとみられる。  遺族側の尾林芳匡弁護士(東京)は「遺族が10年以上にわたり、声を上げ続けたことが会社側の謝罪につながった。社会から過労死をなくす上でも、大きな意義がある」と話している。  日本郵便によると、遺族と面会して謝罪したのは本社人事部の部長ら幹部3人で、謝罪内容は「遺族との間で開示しないこととしている」として明かさなかった。同社は西日本新聞の取材に「今後、このようなことが起こらないよう風通しのよい職場づくりに努める」とコメントした。

 郵便配達員だった男性は、さいたま新都心局(さいたま市)で06年から勤務し、約2年後にうつ病と診断された。病気休暇と復職を3回繰り返し、10年12月、勤務時間中に局舎の4階から飛び降りて亡くなった。  遺族側は、男性が年賀はがきの販売で年間7千~8千枚のノルマを課されて自腹で購入せざるをえなくなり、ミスをすると大勢の局員の前に立たされて報告を求められる職場環境がストレスになったと主張した。

 遺族は15年、さいたま労働基準監督署に労災申請したが退けられ、労働局に審査を請求。同局の労災保険審査官は20年3月、厳しい販売ノルマなどがうつ病の発症や自殺につながったと認定し、労基署の判断を覆した。  日本郵便は労災認定後も、民事訴訟で遺憾の意を示すなどして和解したことを理由に謝罪を拒否した。だがこの問題は20年11月の参院総務委員会でも取り上げられ、衣川和秀社長は「遺族の意向を踏まえ、真摯(しんし)に対応するよう担当部署に指示したい」と答弁し、方針を転換した。  (宮崎拓朗)

  

 

【写真】夫の死後、日本郵便の責任を追及するために使ってきた横断幕を見つめる女性