▼ 放射能汚染水の海洋放出をくいとめる (Greenpeace)


小野春雄さん


 ▼ 10年かけてここまできたのに

 福島県新地町の小野春雄さんは三代続く漁師一家
 東日本大震災の津波の被害に遭った上、水揚げされた魚から放射性物質が検出されたため、福島県沖での漁業は約1年間自粛することになりました。
 2012年6月に試験操業が認められ、2020年2月にようやく全魚種の出荷制限が解除、月に10回まで漁に出られるようになったその矢先に、海洋放出が決まったのです。

 国や東電は汚染水から放射性物質を分離し、基準値以下に薄めて放出するので環境には影響はないとしていますが、小野さんは「じゃあなんで10年前に流さなかったの。流しちゃいけなかったからだろ」。
 決定後に新地町でも政府の住民説明会があり、小野さんも出席しました。



 「午後3時半に担当者が来て、5時に終わる。質問は30分。いきなり分厚い資料を出されても分かるわけない。我々にも聞く権利、知る権利はある。海洋放出をするしかないのであれば、それについて納得のいく答えがほしい


 ▼ 頼むから誰か、この声を聞いて

 そもそも東電は2015年、福島県漁業協同組合連合会に対して、建屋内の汚染水は「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」と約束していました。

 「なんでそこまで東電を優先するの。守るべきは被害者の住民でないの。誰も納得していないのに、心ない決定をしてよ。海は我々の仕事場だってばよ。それを勝手に汚される。この気持ち、分かるか?」

 汚染水を薄めても、海に流れ出る放射性物質の総量は変わりません。多核種除去設備(ALPS)で取り除けない炭素14の半減期は5730年いったん放出された放射性物質は、決して回収できません

 「影響が出るのは30~40年後。もう因果関係はわからなくなり、証明のしようもない。子どもたち、孫たちの将来はどうなるか。責任を誰がとるかもはっきりしていないのに

 政府と東電は、風評被害対策や損失の補償を約束していますが、「風評被害や魚の買い上げとかばかり一生懸命だが、どうでもいいこと。我々は捨てるために魚をとっているんじゃない。美味しく食べてもらうためにとっているんだよ」と小野さんはいいます。

 「そもそも何で陸で放射能を出すのはだめで、海はいいのよ。山があって、川が海に流れて、プランクトンが育って、それを小魚が食べて、それをさらに大きな魚が食べて回っている。汚すのは簡単だけど、もう戻らない。海だって生き物なんだ。われわれだって国民なんだって。頼むから誰か、この声を聞いてくれよ」

 グリーンピースは、なんとしても海洋放出をくいとめるためにこれからも行動を続けます。


 ▼ 国際法にあっていない東京電力の「ALPS処理水の海洋放出に係る放射線影響評価告書」

 いつまでかかるのか誰もわからない廃炉作業中の東京電力福島第一原発。その間、1日平均150トン(2021年)発生し続ける放射能汚染水は、政府の方針で海洋放出で処分されることになっています。
 東電が昨年発表した海洋放出による環境への影響をシミュレーションした報告書を、グリーンピースの核問題専門チームが詳しく分析したところ、汚染水の環境へのリスクを十分に分析できていないことが明らかになりました。

1.太平洋側の沿岸地域やアジア・太平洋地域の、広範囲の影響を分析していない
2.海の生態系や食物連鎖への、長期間にわたる累積の影響を分析していない
3.2011年の原発事故が原因で、すでに環境中にある放射性物質を考慮していない
4.今後の廃炉プロセスによる事故リスクやこれから増え続ける汚染水の影響を考慮していない
5.汚染水に含まれる炭素14やストロンチウム90といった放射性核種の影響について正しく説明していない
6.そもそもこの報告書は国際法で求められている環境影響評価ではない


 ▼ 解決策はある

 グリーンピースは「長期保管しながら放射性物質を取り除く処理をする」という、放射能リスクを大幅に抑えることができる実現可能な代替案を提案しています。

 政府は、廃炉のためにデブリを建屋内から取り出すことにしています。
 そのための遠隔操作装置のメンテナンスや補修や訓練に使用する施設、取り出したデブリを保管する施設が原発敷地内に必要だから、汚染水タンクを撤去してそのスペースを確保するために海洋放出を決めたといいます
 取り出したデブリは数百年にわたって安定的に管理するとしていますが、880トンものデブリをいつどうやって取り出して管理するのか、具体的な方法は決められていません。

『Greenpeac
e NewsLetter』(2022 spring)