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12/4(土) 12:01幻冬舎ゴールドオンライン

 

日本の住宅は「先進国中、ダントツで低性能」…“寒さ、結露、高い光熱費”は当たり前ではない

写真提供:HAN環境・建築設計事務所

「日本の住宅性能は先進国では最低レベルだ」と聞くと、驚く方も多いのではないでしょうか。欧州では、新築住宅で結露が起こると施工者が責任を問われるといいます。「結露は発生するもの」…と、当然のように思っていた住宅の不便は、実は性能に気をつければ解消されるものなのです。ここでは、住まいるサポート株式会社代表取締役の高橋彰氏が、「性能にこだわった住まいづくり」に必要な知識を紹介・解説していきます。

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実は…日本の住宅熱性能は先進国で“断トツ最低”レベル
[図表1]ドイツの省エネ基準強化の推移と日本の現行基準 出典:一般社団法人日本エネルギーパス協会

専門家の中では常識なのに、一般の方々はあまり知らない…ということはいろいろありますが、「日本の住宅は先進国の中で断トツに性能が低い」という事実もその一つです。

多くの日本人は、我が国の住宅の性能は、先進国の中でも優れていると思っているようです。ところが実は、先進国はおろか、今や中国や韓国よりも大幅に性能が劣っているのです。その結果として、冷暖房光熱費を無駄にしており、多くの方々が健康を害し、快適な暮らしを送ることができなくなっています。

あまり知られていない驚くような事実が、日本の住宅業界には多くあります。知らないまままで家を建てるのと、知った上で建てるのでは、人生の質までガラリと変わってきてしまいます。

日本は物質的には充足しており、もはや新たに欲しいものはない、という声も耳にします。ですが、こと住宅については、質の面で全く充足していません。

ただ、多くの消費者は「住宅って、そんなものなのだろう」と思っているだけなのです。

◇日本だけ「省エネ基準への適合」が義務化されていない

日本の住宅性能に関わる制度は、2つの面から遅れています。

まず1つは「省エネ性能」です。

先進国は、住宅の断熱性能や省エネ性能について、基準を定めています。特に欧州各国は、近年、住宅の省エネ性能を高める施策に力を入れています。概ね3~5年ごとに省エネ基準が改正され、どんどん厳しくなっていっています。[図表1]は、ドイツの省エネ基準強化の推移に日本の現行基準のレベルを表記したものです。

  図を見ていただければわかる通り、我が国の省エネ基準は、ドイツの1984年と1995年の基準の間ぐらいのレベルにとどまっています。実質的には、平成11年基準といわれる20年以上も前に定められた基準のままです。

その後省エネ基準の改正は何度か行われ、計算のロジック等は変化してきていますが、住宅に要求される断熱性のレベルはほとんど変わっていません。

20年以上前にできた「“次世代”省エネ基準」が今でも…
(写真はイメージです)

平成11年基準は、別名「次世代省エネ基準」と呼ばれています。平成11年に基準ができた際に、「次世代の基準」ということで、このような呼ばれ方をされるようになったのですが、こんな20年以上も昔にできた基準が、いまだに「次世代省エネ基準レベルの高断熱住宅!!」などと、住宅広告のコピーに使われています。

ほとんどの消費者はそんな事実は知りませんから、「きっと、すごく高性能な家なんだろう」と思ってしまうでしょうが、とんでもありません。他の国では違法になってしまうレベルで、極めて低い水準の性能なのです。

そして、もう一つ。ドイツをはじめ、日本以外の先進国では、新築する際には、省エネ基準への適合が義務化されています。それに対して、日本ではいまだに基準への適合が義務付けられていません。つまり、省エネ基準を下回る低性能な住宅が今でも、違法でもなんでもなく、ごく当たり前に新築されているのです。

実は我が国でも、以前は「2020年までに省エネ基準への適合を義務化する」と閣議決定までされていました。建築物省エネ法という新法もできて、建物の用途や規模によって、段階的に義務化されていくことになっていました。実際、オフィスビル等の非住宅建築物は、順次、義務対象が拡大されています。

ところが住宅については、なぜか義務化は見送られています。省エネ基準へ対応できない住宅事業者が多く、業界が混乱しかねないというのがその理由だったようです。他国よりもはるかに緩い基準に対応できない住宅事業者が多い国、というのが日本の実情なのです。

ただ最近になって、住宅の省エネ性能の向上に向けた動きが活発になってきており、各種制度が今後変更されていくことが決まりつつあります。

◇「断熱」と「気密性能」とは?

日本は地震国なので、建築基準法レベルの耐震性能では十分とはいえないまでも、まあまあ優れていると思います。

決定的に劣っているのは、断熱性能と気密性能への取り組みです。

断熱・気密性能の重要性について詳しくご説明する前に、この2つの基本概念を説明しておきます。断熱というのは、冬の服装で例えると、セーターにあたります。どんなに分厚いセーターであっても、真冬にセーター1枚で外出すると寒いですよね。当然風を防ぐウインドブレーカーが必要になります。

住宅もこれは同じです。断熱材をどんなに入れても、隙間だらけですきま風が入ってくる家では、冬は寒く夏は暑い不快な家になります。日本の住宅は、断熱性能もまだまだ不足しているのですが、それ以上にすきま風のない家、つまり気密性能の確保への取り組みが極端に遅れているのです。

ドイツの「難民向け住宅」…“日本との違い”に驚愕


ドイツ・難民向けの仮設住宅

◇欧州で「結露」が起こると施工者は責任を問われる‼

私は、3年ほど前に高気密・高断熱の住まいづくりのサポートを行う会社を立ち上げました。そのきっかけとなったのは、5年ほど前にドイツをはじめとした欧州の省エネ住宅等を視察に参加する機会に恵まれたことでした。

視察では、日本との違いに驚くことばかりだったのですが、特にびっくりしたのが、ドイツで建設中だった難民向け住宅の性能でした。

ちょうど、シリアからの難民が欧州に流入している時期で、ドイツでも難民向けの仮設住宅の建設ラッシュでした。建設中だったその中の1棟を見学する機会に恵まれたのですが、その住宅を見て驚きました。

断熱・気密性能がしっかりしているだけでなく、日本では、ごく一部のトップクラスの性能を誇る工務店やハウスメーカーしか使用していないような高性能な木製サッシが使われていたのです。

他国からの難民向けの住宅が、日本ではほとんど見られないような高性能な住宅だったのです。欧州には、たとえ自国民でなくても人間は十分な断熱・気密の住宅に住む権利があり、国はそのような住宅を供給する義務があるという考え方があると聞きました。

一方日本では、東日本大震災の際、仮設住宅の断熱性能が低すぎて、家の中が結露によるカビだらけになり、被災者の方々が喘息やアレルギーを引き起こしていると、その何年か前にニュースになっていました。欧米と日本とでは、住宅性能に対する考え方が根本的に異なるのです。

ちなみに欧州の多くの国では、新築住宅で結露が起こると施工者は責任を問われるそうです。

当社のお客様に「結露の起きない住宅を建てるなんて、可能なんですか?」とよく聞かれますが、断熱・気密性能をきちんと確保すれば、普通の暮らし方をしていて結露が起きるということはなくなります。

我が国では一流といわれるハウスメーカーの住宅でも、冬には結露が起こるのがいまだに当たり前ですから、大きな違いです。


住宅性能の「情報強者」を目指す人が増えている現状
◇「健康・快適性・経済性」すべての面でデメリットばかり

断熱・気密性能が低い家は、健康、快適性、経済性のすべての面において、デメリットばかりです。逆にいえば、高気密・高断熱住宅は、メリットばかりでデメリットはほとんどありません。

最近は、YouTube等でも住宅性能に関する情報が発信され始めており、住宅性能の重要性に気づいた方が急激に増えてきています。反対に、住宅性能に知識・関心を持たないまま、家を建てたり買ったりする方は徐々に減りつつあるように感じています。

住まいの情報弱者になって、間違った住まいづくりをしてしまうことのないよう、ぜひ必要な知識を身に着けていただければと思います。

高橋 彰
住まいるサポート株式会社 代表取締役

https://news.yahoo.co.jp/articles/30cd571fe7ee0277d44ed9f3d4ac018f297a4030