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9/27(月) 17:12 文春オンライン

 

巡査の年収は360万、警部は705万、では警視長は? 住居補助に天下り…“警察キャリア”の恵まれた“特権”の実態


 かつて、高等文官試験を受けて内務省に入り、警察庁に移った「勅任官」が警察には存在した。彼らは今後の警察を背負って立つ人材として、20代のうちから高級料亭での宴席、40歳での県警トップ就任、専用車での登庁、豪壮な公舎など、破格の待遇を受けてきた。

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 現代の警察には勅任官こそいない。しかし、将来の幹部候補生として警察庁に採用される“キャリア警察官”の待遇は、やはり一般的な警察官に比べると別格だ。いったい“キャリア”と呼ばれる警察官たちはどのような生涯を送るのだろうか。ジャーナリストの時任兼作氏の著書『 特権キャリア警察官 日本を支配する600人の野望 』(講談社)の一部を抜粋し、紹介する。(全2回の1回目/ 後編 を読む)

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ノンキャリアの大多数は警部補止まり
 内務省の影を色濃く背負って警察エリートとしての道を歩んだ先輩と比べると、やや「庶民化」したようだ。とはいえ、ほかの警察官と比べれば、やはり別格である。

 そもそも、一般の警察官すなわちノンキャリアの場合は、巡査からスタートし、最速で昇進したとしても巡査部長になるのは23歳前後。警察に入って1年以上の研修などを受けたうえ、配属されてから大卒で1年、高卒で4年の実務経験を必要とするからだ。

 そして、その後、大卒の場合は1年、高卒だと3年の実務を経て、警部補試験資格が得られるため、警部補は最短でも25~26 歳。以降は、それぞれ数年間の経験を踏めば警部、警視と昇進することも可能だが、大多数は警部補止まりであり、最も昇進しても警視長までである。

 しかも、警部以降の昇進試験は急激に狭き門となり、仕組みとしては30歳で警部、35歳で警視、45歳で警視正、50歳で警視長というコースもあるものの、そんな警察官はほとんどいない。ごくごくまれに35歳で警視、45歳で警視正となれた者がいたとしても、警視長になるのは60歳の退職間際というのが実際のところである。


キャリアと準キャリアの差も歴然
 それから、準キャリアと呼ばれる存在もあるが、やはり昇進など待遇面で明確な違いがある。正式には国家公務員一般職試験(旧国家公務員Ⅱ種試験、国家公務員中級試験)に合格して警察庁に採用された警察官のことである。入庁すると、すぐに巡査部長となり、その後はキャリアと同じく無試験で昇任するが、階級は警視長止まりであって、最も出世した者でも小規模県警の本部長、警察庁の課長に就任するのがせいぜいだ。警視監となって大規模県警の本部長や管区警察局長、警察庁の局長などになることはまずない。

 ちなみに、これは近年、始まった採用制度であって、国家公務員試験が上級、中級、初級と区分されていた時期には中級合格者が警察庁に採用されることはなかった。代わりに、都道府県警から優秀な警察官の推薦を受け、警察庁に採用した。

 が、警察庁採用となると、元の所属先から転籍し、地元には戻らず全国を転々とすることになるため、敬遠する者が増え、次第に必要人数を確保できなくなった。そこで、採用方針を変更した結果、現在のような採用形態になったのである。

給与はスタート時点で2倍近くの差

 警察官の俸給すなわち給与は階級だけでなく実務経験の年数も加味して決まるため、幅があるものの、国と地方の俸給規定を見て平均値をとると、おおよそこうなっている。

階級/月収/年収

●巡査/22万円/360万円

●巡査部長/34万円/557万円

●警部補/40万円/656万円

●警部/43万円/705万円

●警視/47万円/820万円

●警視正/60万円/984万円

●警視長/70万円/1148万円

●警視監/90万円/1476万円

●警視総監/120万円/1968万円

 これを見ると給与面の優遇が明らかだ。そもそもキャリアの場合、警部補からスタートするから、その時点で巡査の2倍近くの給与があり、1年数ヵ月すれば警部に、そして数年のうちには警視となって昇給する。また、最終的に警視総監に就くとすれば、警部補のおよそ3倍、警視正の2倍の給与をもらえる。ほぼ全員がなる警視監であっても、警部補の2倍以上、警視正の1.5倍である。もちろん、退職金額もこれに準じている。

県警の部長、本部長は豪華な公舎住まい
 住居の面でも恵まれている。あるキャリアはこんなことを明かしている。「県警の部長や本部長になった際には、広々とした豪華な公舎住まいがありがたかった。警察庁に戻って東京都内に住むと、家族がいても60平米とか70平米程度。もっとも警視庁は別で幹部用となると90平米4DKなんて部屋もある。家賃も職務によっては無料。払っても数万円程度だから、その点だけを考えると、警察庁の課長や審議官よりも警視庁の部長のほうがいい」

 もちろん、一般の警察官にも官舎はある。が、ここまでの広さは望めない。また、通勤時間がかかる不便な立地になっている事実もある。

 ちなみに、警視庁の本部長たる警視総監の公舎は皇居脇、千代田区隼町にある。正式には「警視庁隼町分庁舎」と言われ、およそ640平米の敷地に立つ鉄筋コンクリート造りの建物だ。また、隣県の神奈川県警本部長公舎は、横浜市の山手町にある5LDKの二階建て。敷地面積は約300平米で、その家賃は無料だ。

専用車、秘書、個室が付いて、捜査にはほぼノータッチ
 職務環境も厚遇されている。

 警察刷新会議以降、自宅や公舎からの送迎専用車は急速に減らされ、現在は警察庁では局長以上、県警では本部長、警視庁では原則、部長以上と限られてきてはいるものの、専用車は捜査官もしくは事務官が運転を担当。また、県警の課長以上になれば、個室があり、庶務係という名目での秘書も付く。

 実務面の優遇もある。さるキャリアは自嘲気味にこう語った。

「県警に課長で出た時には、何十人かの直属の部下がいて、その人事面での管理はしたが、実際の捜査などにはほとんどタッチせず、県警プロパーの課長補佐や管理官がもっぱらその任にあたっていた。楽と言えば楽だが、お客様扱いのように感じた。早く警察庁に戻ってくれればいいというような。

 そのあと警視庁の部長になった時には、重大な捜査事案ですら素通りしていくので、腹が立った。あなたにはわからないでしょう、と思われているのがわかったからだ」

 仮にやる気があっても、実際の捜査案件には触らせてもくれないようなことさえ往々にしてあるというのだ。
高級、高待遇の優良天下り先が待っている
 退職後も恵まれている。かつてキャリアOBがこんなふうに語っていた。

「調査を必要とする生命保険・損害保険会社はとくに、刑事の捜査能力、公安の情報力を必要としているし、鉄道や航空、警備会社も同様だ。それから、交通部門のキャリアは自動車や道路関連の企業に求められ、生活安全部門は管轄するギャンブル業界から請われる。いずれにせよ、給料が高く待遇のいい優良な天下り先には困らない。しかも、どこの企業に行こうと顧問とか役員待遇だ」

 警察キャリアは一生涯、特別待遇というわけだが、最近もそうなのか。調べてみると、おおむねそれが裏付けられた。

 ここ2~3年の天下り先には大手の保険会社が多く、鉄道や交通、警備関連の優良企業、団体も目に付く。事例を列挙しておこう。カッコ内は就任時期を示している。

米田 壯 (警察庁長官)→東京海上日動火災保険顧問(’15年4月)

倉田 潤 (警察庁交通局長)→日本緊急通報サービス理事(’15年4月)

干場謹二 (近畿管区警察局長)→あいおいニッセイ同和損害保険顧問(’15年5月)

鎌田 聡 (中国管区警察局長)→国際交通安全学会役員室付(’15年5月)

横山雅之 (関東管区警察局長)→全日本指定自動車教習所協会連合会専務理事(’15年6月)

竹内直人 (警察大学校長)→明治安田生命保険相互会社顧問(’15年7月)

篠原 寛 (九州管区警察局長)→東京海上日動火災保険顧問(’15年12月)

平野和春 (中部管区警察局長)→三井住友海上火災保険顧問(’15年12月)

鈴木基久 (警察庁交通局長)→総合警備保障常務執行役員(’16年4月)

佐々木真郎 (近畿管区警察局長)→表示灯顧問(’16年4月)

大平 修 (関東管区警察局長)→三井住友海上火災保険顧問(’16 年5月)

久我英一 (皇宮警察本部長)→九州旅客鉄道監査役(’16年6月)

室城信之 (北海道警本部長)→道路交通情報通信システムセンター常務理事(’16年6月)

木岡保雅 (東北管区警察局長)→全日本交通安全協会審議役(’16年6月)

大庭靖彦 (中国管区警察局長)→三井住友海上火災保険顧問(’16年10月)

種谷良二 (警察庁生活安全局長)→あいおいニッセイ同和損害保険顧問(’17年6月)

竹内浩司 (東北管区警察局長)→アメリカンファミリー生命保険顧問(’17年8月)


ただし、ギャンブル関連については、準キャリアのポストになっているようだ。

「パチンコや競馬などは、キャリアにとってイメージがよくないので」

 再就職事情に通じる警察幹部は、そう解説した。

 かつてパチンコ業界に出資したとして、警察官のための損害保険代理店「たいよう共済」に非難の目が向けられたことがあった。また、馬主の身元照会や競馬の公正確保に必要な調査等を行う「競馬保安協会」には、常に暴力団、犯罪者集団の問題がつきまとっている。こうした事情から、キャリアは敬遠しているのかもしれない。

 最近では、準キャリアの2名が天下っている。

笠間伸一 (滋賀県警本部長)→たいよう共済取締役(’16年7月)

村下 治 (中国管区警察学校長)→競馬保安協会関西本部長(’17年7月)

 とはいえ、これは最初の天下りに関してのことで、それ以降になると、パチンコやパチスロ関連の団体、企業に歴代キャリアが天下っている。主なところを挙げておこう。

中田好昭 (関東管区警察局長)= 弁護士→日本電動式遊技機工業協同組合特別顧問

片山晴雄 (四国管区警察局長)= 住友信託銀行→全日本遊技事業協同組合連合会専務理事

小堀 豊 (九州管区警察局長)= 帝都高速度交通営団監事など→日本ゲームカード特別顧問、プリペイドシステム協会理事長

知念良博 (東北管区警察局長)= 西日本旅客鉄道特別顧問→ダイコク電機監査役

芦刈勝治 (警察大学校長)= 新日本製鐵顧問→日本パチスロ特許会長


警察庁長官と警視総監候補は、はなから別格
 警察キャリアはほかの警察官と比べれば、はるかに昇進が早く、給与も高く、住環境などにも恵まれているが、その優遇度合いは一律ではない。前述したように同期15~20人のうち、警察庁長官、警視総監へと上り詰めるのは二人。しかも、この二人はそこに至るまでの過程でも別格扱いされているという。キャリア形成に詳しい前出の警察幹部はこんな解説をした。

「在外の大使館に出向するのであれば、一等国。それから、昔であれば、平穏な小規模県警の本部長から大規模県警の警務部長、本部長を務めるというのが最終階段を上る者の王道だった。いまもそれが王道であることに変わりないが、ただし、内閣人事局ができ、政治の介入度合いが高まって以降、次第に変わりつつある。

 一方、脇道にそれた者は、内閣官房を含めて出向となって戻ってこない。ただし、官房長官秘書官や総理大臣秘書官はむしろ出世コースにある」

 おおまかなキャリア・パスとそれに付随した特権などは、以上のようなものである。

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