◆ 性差別による命の危機
   コロナ禍が生み出した「女性による女性のための相談会」の画期的意義
 (週刊新社会)

許すな!憲法改悪市民連絡会事務局次長 菱山南帆子


 ◆ 女性と子どもの自死の激増

 2008年のリーマン・ショックの時は「男性不況」といわれた。米国発の金融ショックが大企業の製造ラインを止め、多くの派遣労働者から収入や寮などの住居を奪い路頭に投げ出した。
 このむき出しの命の危機に対して、日比谷公園を舞台にして「年越し派遣村」が生まれた。そこでは炊き出しによる温かい食事の提供から緊急避難的な居住の案内、生活保護申請の協力などが展開された。
 この時の相談者数は505名であり、そのうち女性は5名だった


 新型コロナウイルスの感染拡大防止の柱が「人流」や「会食」の制限ということになり、飲食店や接客業、サービス業、そしてリモートワークができない職業に大打撃を与え続けている。
 このような産業や職業には女性の就労者が多く、しかも非正規という不安定な雇用状況のため、いわゆる「調整弁」としてダメージが集中的に押し付けられている。これが女性の自死の激増の背景であり、原因であることは明らかだ。

 2020年から21年の年末年始に「年越し支援・コロナ被害相談村」が、労働組合、市民団体によって東京・新宿区大久保公園で3日間にわたって開催された。この時の相談件数は341名であり、女性はそのうち62名だった
 リーマン・ショックの時の約12倍もの女性の相談があったことに「性差別による命の危機」を、まざまざと目の当たりにした女性スタッフの現場での話し合いの中から「女性だけの相談会をやろう」というアイディアが生まれた。


 ◆ 総勢300人でやり切る

 それからオンラインでの話し合いを重ね、3月13、14日の東京・新宿区大久保公園での「女性による女性のための相談会」の実現にこぎつけた。

 街頭や「夜回り」と称したネットカフェ・女性専用カプセルホテル・24時間保育園・コンビニなどに置きチラシをお願いする宣伝活動を連日連夜繰り広げながらやっと迎えた当日、何と朝から晩まで大雨、雷、強風の大嵐。2日目は晴れたものの、テントが吹き飛ばされそうになるほどの強風だった。

 それでも集まった女たちからは「撤収・中止」という言葉は最後まで出ることなく、その場にとどまり、何度もテントに溜まった雨水を滝行のように浴び、強風で飛ばされないようにとテントの柱にしがみついて「重し」となり、やり切った。

 2日間で現場に寄せられた相談件数は125件。天候が良かったらきっともっと多くの方が来られたのではないかと思われるが、それでもあの悪天候の中でこれだけの相談があったことは、状況がとても深刻であることを示している。

 「助けて!」と声を上げることを禁止する法律があるわけでもないのにも関わらず、声を上げることがこんなにも勇気がいるのはなぜか?
 目に見えないけれども「人に迷惑をかけるな」「人の世話になるのは恥ずかしいこと」「女はわきまえて、耐え忍べ」「和を乱すな」等の染み込んだ通念のバイアスが壁となって立ちはだかっていることを痛感した。

 それだけに、相談会はとにかく「来やすい」こととプライバシー保護を第一に考え工夫した。
 例えば「フラワー型」と名付けた設営では、DV被害者の来訪を想定し、テントは目隠しをし、外から見えないようにぐるりと一周円を書くように配置し、中心には暖かいお茶を飲みながら気楽に相談までの順番を待てるようなカフェスペースを設けた
 様々な労働組合、弁護士、カウンセラー、医療関係者、市民運動、農家、メディア関係者と、職業も組織的立場の違いも超えて女たちが総勢300人結集して、テント作りをはじめ全てをやり切ったことは実に画期的だった。

 「命のために居ても立っても居られない」という思いを一つにして馳せ参じ、行動を共にしたことは、冷たい国政、冷たい都政に対しての「女の一揆(いっき)」であった。
 菅首相の言う公助の「公」は滅私奉公の「公」、五公五民の「公」であり、私たちが考え創り出す「公」とは全く相いれないものだ。

 「女性が輝く社会」を掲げて女性を不安定雇用の環境に導いた安倍前首相、「観光立国」を掲げて「GoToキャンペーン」を展開して感染を拡大した菅首相。コロナ禍によってあぶりだされた性差別による命の危機は人災であり、政治災害に他ならない。

 世界的な「MeToo」運動、日本におけるフラワーデモ「KuToo」運動など、新たに胎動する女性解放運動も「女性による女性のための相談会」の力になったことは明らかであり、この相談会はまさに「女の総がかり」運動として、これからもさらに大きな連帯のうねりとして波及していくだろう。

『週刊新社会』(2021年4月6日)