日本政府は、1999年6月29日 「拷問 、 及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷 つける取扱い又は刑罰に関する条約」の加入書を国際連合事務総長に寄託し、本条約の 締約国となり、同年7月5日に公布され、本条約第27条2に従って、同 年7月29日に我が国について効力を生じた。

 

 

 

拷問及び他の残虐な,非人道的な 又は品位を傷つける取り扱い又は, 刑罰に関する条約 

第一部

第一条

 

  1. この条約の適用上、「拷問」とは、身体的なものであるか精神的なものであるかを問わず人に重い苦痛を故意に与える行為であって、本人若しくは第三者から情報若しくは自白を得ること、本人若しくは第三者が行ったか若しくはその疑いがある行為について本人を罰すること、本人若しくは第三者を脅迫し若しくは強要することその他これらに類することを目的として又は何らかの差別に基づく理由によって、かつ、公務員その他の公的資格で行動する者により又はその扇動により若しくはその同意若しくは黙認の下に行われるものをいう。「拷問」には、合法的な制裁の限りで苦痛が生ずること又は合法的な制裁に固有の若しくは付随する苦痛を与えることを含まない。

     

  2. 1の規定は、適用範囲が一層広い規定を含んでおり又は含むことのある国際文書又は国内法令に影響を及ぼすものではない。

第二条

 

  1. 締約国は、自国の管轄の下にある領域内において拷問に当たる行為が行われることを防止するため、立法上、行政上、司法上その他の効果的な措置をとる。

     

  2. 戦争状態、戦争の脅威、内政の不安定又は他の公の緊急事態であるかどうかにかかわらず、いかなる例外的な事態も拷問を正当化する根拠として援用することはできない。

     

  3. 上司又は公の機関による命令は、拷問を正当化する根拠として援用することはできない。

 

 

 

拷問及び他の残虐な,非人道的な 又は品位を傷つける取り扱い又は, 刑罰に関する条約 

 

拷問禁止委員会委員会によって第 50 回会期に採択された 日本の第 2 回定期報告に関する総括所見

 

 (2013 年 5 月 6-31 日)

 

 国連 CAT/C/JPN/CO/2 

(仮訳)

 

オリジナル:英語

 

 

 1.拷問禁止委員会は,2013 年 5 月 21 日及び 22 日に開催された第 1152 回及び 1155 回会合に おいて,日本の第 2 回定期報告(CAT/C/JPN/2)を審査し,以下の総括所見を,2013 年 5 月 29 日の第 1164 回会合において採択した(CAT/C/SR.1164)。 

 

A.序論

 

 2.委員会は,締約国が任意の報告手続を受諾し,これに従って定期報告を提出したことに感 謝の意を表明する。このことは,締約国と委員会との協力関係を促進し,報告書の審査と 代表団との対話に焦点を当てるものである。

 

 3.委員会は,締約国のハイレベル代表団と建設的対話が行われたこと,そして代表団によっ て委員会に提供された追加的な情報と説明を歓迎する。

 

 B.肯定的要素

 

 4.委員会は,締約国が以下の国際的文書を批准したことを歓迎する:

 (a) 2009 年 7 月 23 日の強制失踪からの全ての者の保護に関する国際条約;

 (b) 2007 年 10 月 1 日の国際刑事裁判所ローマ規程。

 

 5.委員会は,締約国によって講じられた以下の立法措置を歓迎する: (a) 2009 年 7 月に発効した出入国管理及び難民認定法の改正; (b) 2008 年 1 月に発効した配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律の改正。 

 

6.委員会は,締約国によって講じられた以下の行政的及び他の措置を歓迎する:

 (a) 2011 年 7 月の最高検察庁監察指導部の設置; 

 (b) 2010 年 12 月の第 3 次男女共同参画基本計画の承認;

 (c) 2010 年 7 月の入国者収容所等視察委員会の新設;

 (d) 2009 年 12 月の人身取引対策行動計画 2009 の策定;

 (e) 2008年1月の警察捜査における取調べ適正化指針の取りまとめ。

 

C.主な懸念事項及び勧告 拷問の定義 

 

7.委員会は,締約国が,条約第 1 条に含まれている全ての要素を網羅した拷問の定義を採用 するためのいかなる措置も取っていないことに懸念を有する。(第 1 条)

 

 委員会は,締約国が,条約第 1 条に含まれる拷問の定義を,適切な刑罰と共に,特定の犯罪 として拷問を特徴づける全ての構成要件を含める形で国内法に取り込むべきであるとする前回 の総括所見における勧告(CAT/C/JPN/CO/1, para. 10)を繰り返す。

 

委員会は,締約国による第2条の履行に関し,一般的意見第 2 号(2007)に言及しつつ,締約国が,拷問を他の犯罪とは異なるものとし,条約に従ってそれを命名し,定義することで,拷問を防止するという条約の包括的な目的を直接的に前進させていくと考えている。

 

 時効 

 

8.特定の犯罪に関して時効を廃止又はその期間を延長する 2010 年 4 月の法律第 26 号に留意 しつつ,委員会は,拷問の未遂及び拷問の共謀または参加を構成するいかなる者による行 為を含め,拷問行為や不当な取扱いについて,時効が依然として有効であることに懸念を 有する。(第 4 条及び 12 条)

 

 委員会は,締約国が,時効に関する立法を条約上の義務に完全に一致させ,そうすることで 時間の制限なく,条約第 4 条で求められているように,その行為の重大性に従って拷問行為の実行者が訴追され,有罪が宣告されるとする前回の勧告(パラ 12)を繰り返す。

 

 

 ノン・ルフールマン原則と退去強制までの収容 

 

9.委員会は,以下の事項について懸念を表明する:

 

 (a) 出入国管理及び難民認定法(入管法)に従って行われる退去強制命令の下,長期間の,とき には無期限の収容が庇護申請者に対して行われていること。また,そのような収容の決定に 関する独立した審査が欠如していること; 

(b) 庇護申請者に対して,収容以外の手段がほとんど利用されていないこと;

 (c) 入国者収容所等視察委員会に,その任務を果たすための資源と権限が不十分であること。ま た,法務省及び入国管理局によって同委員会委員が任命されていること;

 (d) 同伴者のいない児童が,しばしば定員超過で,通訳者を確保するための資源が不足している 3 児童相談所において保護されていること; 

(e) 条約第 3 条に規定された,拷問される可能性のあるいかなる国への送還を禁止する入管法第 53 条第 3 項の効果的な実施が欠如していること。

 

 委員会の前回の勧告(パラ 14),及び移民の人権に関する特別報告者が 2011 年に日本を訪問 した際に行った勧告(A/HRC/17/33/Add.3, para. 82)に照らして,締約国は以下の事項を行うべ きである:

 

 (a) 条約第 3 条の下のノン・ルフールマンの絶対的な原則に沿って,移民及び庇護申請者の収容 と退去強制に関する全ての法令及び運用を行うよう引き続き努力すること;

 

 (b) 庇護申請者の収容は最後の手段であり,必要な場合であっても可能な限り短い期間に留める こと。また,退去強制までの収容に最長期間を設定すること;

 

 (c) 出入国管理及び難民認定法に定められているように,収容に代わる手段を利用すること;

 

 (d) とりわけ,入国者収容所等視察委員会に対して,収容施設を効果的に監視するための十分な 資源と権限を与え,収容されている移民又は庇護申請者からの不服申立てを受理し,審査で きるようにするため,その独立性,権限及び有効性を強化すること;

 

 (e) 無国籍の人々の地位に関する国連協定(1954 年)と無国籍の削減に関する条約(1961 年) への加入を検討すること。 代用監獄(代替収容制度)

 

 10. 刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律の下,警察の捜査機能と留置機能が 公式に分離されていることに留意しつつ,委員会は,締約国の条約上の義務順守を弱める ことになる代用監獄制度における保護措置の欠如について深刻な懸念を表明する

特に委 員会は,この制度上,とりわけ逮捕から最初の72時間は弁護士へのアクセスも制限され, 被疑者に保釈の可能性がなく,最大で23日間警察の留置施設に収容されうることを遺憾に 思う。

 

警察の留置施設における起訴前拘禁について効果的な司法的コントロールが欠如し ていること,また,独立した効果的な監査及び不服申し立て制度が欠如していることも, 深刻な懸念事項である

更に委員会は,かかる起訴前拘禁制度の廃止又は改定が必要では ないという締約国の姿勢に遺憾の意を表明する(A/HRC/22/14/Add.1, para. 147. 116)。(第 2条・16条

 

委員会は,締約国が以下の事項を実施すべきであるという前回の勧告(パラ15)を繰り返す

 (a) 捜査機能と留置機能の分離を実際に確実なものにするため,立法及びその他の措置を取るこ と;

 (b) 被留置者を警察の留置施設に身柄拘束できる最長期間を制限すること;

 (c) 取調べの全過程において,弁護士に秘密裏にアクセスする権利,逮捕された瞬間から法的支 援を受ける権利,自らの事件に関する全ての警察の記録にアクセスする権利,独立した医療支援を受ける権利,そして親族に会う権利を含む,全ての被疑者の起訴前勾留におけるあら ゆる基本的な法的保護措置を保障すること;

 (d) 締約国の法制度とその運用を,国際基準に完全に合致させるように,代用監獄制度の廃止を検討すること。 

 

取調べ及び自白 

11.

 委員会は,拷問及び不当な取扱いによって得られた自白に法廷における証拠能力がな いと規定している憲法第 38 条 2 項及び刑事訴訟法第 319 条 1 項,有罪判決が自白のみに基づいて下されることはないという締約国の発言,そして被疑者が犯罪の自白を強制されてはならないということを保障する取調べガイドラインに留意する。しかし,委員会は引き 続き以下の事項に懸念を有している:

 (a) 締約国の司法制度は,実務上,自白に広く依拠しており,その多くは弁護士の立会いのない 中で代用監獄において得られている。委員会は,暴行,脅迫,睡眠妨害,休憩のない長時間 の取調べなど,取調べ中に行われた不当な取扱いに関する報告を受けている;

 (b) 全ての取調べにおいて,弁護人の立会いが義務付けられていないこと;

 (c) 警察の留置施設において,被勾留者に対して適切な取調べがなされたのか検証する手段が欠 けており,とりわけ,一回あたりの取調時間に厳格な制限がないこと;

 (d) 検察官に対する被疑者及びその弁護人による取調べに関する 141 件の不服申立てのうち,訴訟に至ったケースがないこと。(第 2 条及び15 条)

 

 委員会は,憲法第 38 条 2 項,刑事訴訟法第 319 条 1 項及び条約第 15 条に沿って,締約国が, あらゆる事件において,拷問及び不当な取扱いによって得られた自白が,実務上,法廷において証拠能力が否定されることを確保するため,全ての必要な手段を講じるべきとの前回の勧告 (パラ 16)を繰り返す。

特に:

 (a) 取調べの時間制限について規則を作り,その不順守の場合に適切な制裁を設けること;

 (b) 刑事訴追の際,自白に証拠の主要かつ中心的な要素として依存するような慣行を終わらせる ため,捜査手法を改善すること;

 (c) 取調べの全過程を電子的に記録するなどの保護措置を実行し,その記録を裁判で使用できるよう保証すること;

 (d) 強制,拷問,脅迫,または長期間にわたる逮捕や勾留の末になされた自白で,刑事訴訟法第 319 条 1 項に基づき証拠として認められなかったものの件数を委員会に提供すること。

 

 不服申立制度

 12. 

刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(2007 年)において確立された不服申立制度に関する情報がある一方で,委員会は,警察に身柄を拘束されている者を含む自由を奪われた者に対する拷問及び不当な取扱いの申立てを受理し,公正な立場から調査し, また,有罪となった公務員が適切に罰せられることを担保する独立かつ効果的な不服申立制度が欠如していることに,引き続き懸念を有している。

委員会は,国家賠償の申立て及 び懲戒処分に関する情報の欠如について遺憾に思う。(第 2 条,4 条,12 条,13 条及び 16 条) 

 

委員会は,締約国が実施すべき以下の事項について,前回の勧告(パラ 21)を繰り返す:

 (a) 特に設けられた独立的かつ効果的な不服処理機関を設置し,公務員による拷問や不当な取扱 いに関する全ての申立てを迅速,公正かつ十分に調査し,事案の重大性に応じて責任者を刑罰により罰すること;

 (b) 実務上,不服の申立て又は証拠の提供の結果としていかなる報復も受けることがないように, 申立者が保護されることを保障すること;

 (c) 公務員による拷問及び不当な取扱いに関する不服申立件数,及び刑事上及び懲戒上の両面に おける手続の結果に関する情報を含む,項目ごとに分類された情報を収集すること。

 

 収容状況 

13. 

収容状況を改善し,刑事施設の収容定員の拡充に向けた締約国の努力にも関わらず, 委員会は,以下の点につき引き続き懸念を有する:

 (a) 女性刑務所を含む,いくつかの施設における過剰収容;

 (b) 不十分なヘルスケアへのアクセスと収容施設における深刻な医療スタッフの不足;

 (c) 刑事施設における不十分なメンタルヘルスケアの提供,及び精神疾患を患っている受刑者が 長期間昼夜間単独室収容に付され,結果として自殺を試みる危険性が高まっているとの報告 があること;

 (d) 第二種手錠や拘束衣などの拘束具の使用において,適切な保護措置や監視制度が欠如してい ること。(第 11 条及び 16 条) 

 

締約国は,以下により,「国連被拘禁者処遇最低基準規則」に従って,刑事施設における収容 状況の改善努力を強化しなければならない:

 (a) 「非拘禁措置に関する国連最低基準規則(東京ルールズ)」及び「女性被拘禁者の処遇及び 女性犯罪者の非拘禁措置に関する国連規則(バンコク・ルールズ)」に沿って,とりわけ非 拘禁措置を収監の代替措置としてより広く適用することで,高い過剰収容率を減少させるこ と;

 (b) 自由を奪われた全ての者に対して,適切な身体上及び精神上のヘルスケアを提供すること;

 (c) 第二種手錠の使用方法及びその使用時間については,条約上の締約国の義務に適合させるため,これを厳格に監視し,また,収容されている者を拘束する器具の完全な使用禁止を検討すること。 

 

 昼夜間単独室収容 

14. 

委員会は,昼夜間単独室収容がしばしば時間の制限なく,過度に長期間にわたって用いられ続けていること,また,被収容者の隔離措置が刑事施設の長の裁量に委ねられていることに引き続き深い懸念を有している。

 

委員会は,刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律の下,刑事施設の医師が昼夜間単独室収容に付されている被収容者の定期的な健康診断に直接関与していることに遺憾の意を表明する。そうした運用は,被収容者の健康状態を保護する上で重要な要素となっている医者と被収容者の関係を悪化させる可能 性がある。(第 2 条,11 条及び 16 条)

 

 条約上の諸規定及び「国連被拘禁者処遇最低基準規則」に従って,委員会は以下の事項を締約国に要求する:

 (a) 昼夜間単独室収容は,最終的な手段であり,厳格な監視の下で可能な限り短期間適用し,ま た,司法審査の可能性を保証することも含め,関係法令を改正すること。締約国は,隔離の 判断に関する明確で具体的な基準を設定すべきである;

 (b) 昼夜間単独室に収容されている期間を通して,資格を有する医療職員によって,被収容者の 身体的・精神的状況を定期的に調査し,点検する制度を構築すること。また,医療記録を当 該被収容者とその弁護士に開示すること;

 (c) 昼夜間単独室収容に付されている間,当該被収容者にとって心理的に意味のある社会的な接 触の機会を拡大すること;

 (d) 昼夜間単独室収容の適用に関する現行の運用を評価・査定し,昼夜間単独室収容の使用及び 状況に関する詳しい,項目ごとに分類された情報を提供すること。

 

 死刑

 15. 

委員会は,締約国内における死刑確定者の収容状況について深く懸念する。

とりわけ, 以下の事項について深い懸念を有している。

 (a) 死刑確定者の死刑執行に関する不要な秘密主義と不確定性。超法規的・即決・恣意的な処刑 に関する国連特別報告者が指摘するように,死刑確定者及びその家族に死刑執行の日時を事前に知らせないことは,明白な人権侵害である。(E/CN.4/2006/53/Add.3, para. 32); 

 

(b) 死刑確定者に対する昼夜間単独室収容が長期に及ぶことが頻繁にあり,いくつかの事例では 30年を超えていること,また,外部との接触が限られていること; 

 

(c) 弁護士との秘密交通の制約を含む,弁護士による支援を受ける権利の侵害;

 

 (d) 上訴権を行使せずに死刑判決が下され,罪が確定する被告人が増加していることを踏まえ, 死刑事案に関する義務的な上訴制度が欠如していること;

 

 (e) 2007年以降,恩赦がなされていないこと。また,恩赦,減刑,執行停止の恩恵を追求す るための手続が不透明であること

 

 (f) 心神喪失の状態にある死刑確定者に対して死刑の執行を禁じる刑事訴訟法第 479 条 1 項に反 7 し,藤間静波氏のケースのように,精神疾患を患っていると裁判所によって判断された場合 においても,死刑が執行されたとの報告があること。(第 2 条,11 条,16 条) 

 

委員会が前回行った勧告(パラ 17),人権委員会(CCPR/C/GC/32, para. 38),及び超法規的・ 即決・恣意的な処刑に関する国連特別報告者が発出したメッセージ (A/HRC/14/24/Add.1, paras. 515 以下参照)に照らして,委員会は,締約国に対し,以下の事項により,死刑確定者が条約上 のあらゆる法的保障措置及び保護を受けられるよう,確保することを要求する。

 

 (a) 死刑確定者とその家族に対し,死刑執行の予定日時を合理的な範囲で事前に知らせること; 

(b) 死刑確定者の昼夜間単独室収容に関する規則を改定すること;

 (c) 手続のあらゆる段階における弁護士による死刑確定者に対する効果的な支援及びあらゆる 打合せにおける弁護士との厳格な秘密交通を保障すること; 

(d) 死刑確定者に対し,恩赦,減刑,及び執行停止を実際上可能にすること;

 (e) 第一審の死刑判決の後に,その執行の停止効果を伴った,死刑事案の義務的レビュー制度を 導入すること;

 (f) 死刑確定者が精神疾患を患っているとの信頼できる証拠がある場合,それらについて個々に独立した審査を行うこと。更に締約国は,刑事訴訟法第491条1項に従って,精神疾患を有する死刑確定者の死刑が執行されないことを保障すること;

 (g) 性別,年齢別,民族別及び犯罪別に集計された死刑確定者の情報を提供すること;

 (h) 死刑廃止の可能性を検討すること。

 

 国内人権機構

 16.

 委員会は,締約国が人権の促進及び保護のための国内機構の地位に関する原則(パリ 原則)に準拠した国内人権機構を未だに設置していないことに懸念をもって留意する。(第 2条)

 

 普遍的・定期的レビューにおいて示された締約国のコミットメント(A/HRC/22/14/Add.1, para. 147.47 以下参照)に留意し,委員会は,締約国に対し,パリ原則に準拠した,独立した国内人 権機構の設置促進を要求する。 

 

研修

 17.

 

 様々な人権研修プログラムが締約国によって実施されていることに留意しつつ,委員会は,条約に関する研修を全ての入国管理局職員に提供していないこと,また,拷問及び 他の残虐な,非人道的な又は品位を傷つける取り扱い又は,刑罰の効果的な調査及び証拠 書類作成に関するマニュアル(イスタンブール議定書)が研修プログラムの中に導入され ていないことにつき,懸念をもって留意する。

ジェンダーに基づく暴力及び不当な取扱い を含む拷問事例の数を減らすための,こうした研修プログラムの効果と影響に関する情報が欠如していることも懸念事項である。(第 11 条)

 

 締約国は以下のことをすべきである:

 (a) 全ての公務員,特に裁判官並びに法執行官,刑事施設及び入国管理局の各公務員が条約の規定を認識することを確保するため,研修プログラムを更に発展・強化させること; 

(b) 拷問事件に関する調査及び証拠書類作成に関与する医療職員や他の職員に対して,イスタン ブール議定書についての研修を定期的に行うこと;

 (c) 法執行公務員の研修に,非政府組織の関与を慫慂すること; (d) ジェンダーに基づく暴力と不当な取扱いを含む,拷問の絶対的禁止と予防に関する研修プロ グラムの効果と影響を評価すること。

 

 

 補償とリハビリテーションを含む救済

 18. 

被害者が,もって国または公的団体に対して損害賠償を求めることができる国家賠償 法第 1 条にもかかわらず,委員会は,

(a) 被害者が,拷問又は不当な取扱い行為に係る救済及び十分な賠償を得るに際して困難に直面しているという報告を受けていること,

(b) 法令上の制約や移民についての相互規定のような,補償の権利が制約されていること,

(c) 拷問又は不当な取扱いを受けた被害者が請求し,受け取った補償に関する情報が欠如していること(14 条),について引き続き懸念を有している。

 拷問の被害者に対して完全な補償を提供するとの締約国の義務の内容と範囲を明確にした, 条約第 14 条に関する一般的意見第 3 号(2012 年)に関連して,委員会は,締約国に対し,拷問や不当な取扱い行為の被害者が,公平で十分な補償と可能な限り完全なリハビリテーション,更には真実の権利を含む救済の権利を完全に行使できることを確保すべく,そのための努力を強化するよう勧告する。締約国はまた,委員会に対して,

(a) 裁判所によって命じられ,拷問 又は不当な取扱いの被害者又はその家族に対して行われた救済及び補償措置。この情報は,申 し立てられた数,提供された数,命じられた額,そしてそれぞれの事例において実際に支払わ れた額に関する情報を含まなければならない,そして

(b)拷問及び不当な取扱いの被害者のため に行われているあらゆるリハビリテーションプログラム,そしてそのようなプログラムを効果的に実施するために割り当てられた適切な資源に関する情報を提出すべきである。 

 

軍による性的奴隷の被害者 

19. 

第二次世界大戦中の日本軍の性的奴隷行為の被害者,いわゆる「慰安婦」に対する虐待を認めるべく取られたいくつかの措置に関する締約国からの情報にもかかわらず,委員会は,本件に関し,特に以下との関係で,締約国が条約に基づく義務を履行していないことに引き続き深い懸念を有する。 

(a)被害者に対する適切な補償とリハビリテーションを提供していないこと。委員会は,公的資金というよりも民間の寄付金によって出資された補償が,不十分かつ不適当であることを遺憾に思う。 

(b)このような拷問行為の実行者を訴追し,裁判手続にかけていないこと。委員会は,拷問の影響の継続性という性質にかんがみ,被害者から救済,補償及びリハビリテーションの機会を奪 うことになるため,時効が適用されるべきではないことを想起する。 

(c)関連する事実及び資料を隠ぺいしていること,あるいは公開していないこと。 

(d)国及び地方の政府高官並びに国会議員を含む政治家による,継続的な公的事実否認及び被 害者の再トラウマ。 

(e)学校の歴史教科書で本件に関する記述が減少していることに,とりわけ示されているよう に,ジェンダーに基づく条約違反を防止するための効果的な教育的措置が実施されていないこと。

 (f)委員会及びその他多くの国連人権メカニズム,とりわけ,人権委員会(CCPR/C/JPN/CO/5, para.22), 女性差別撤廃委員会 (CEDAW/C/JPN/CO/6, para.38), 社会権規約委員会 (E/C.12/JPN/CO/3, para.26)及び人権理事会の何人かの特別手続マンデート・ホルダー(第 1 条,第 2 条,第 4 条,第 10 条,第 14 条及び第 16 条)によってなされた勧告と類似する,普遍的・定期的レビュー(UPR,A/HRC/22/14/Add.1. para. 147.145ff.)の文脈の中で行われた本件に関連するいくつかの勧告についての締約国の受入れ拒否。 一般的意見 No.3(2012)を想起しつつ,委員会は,締約国に対し,「慰安婦」問題に関する被害者中心の解決策を見出すべく,とりわけ以下の手段による,即時かつ効果的な立法上及び行政上の措置を取ることを要請する。

 (a)性的奴隷犯罪の法的責任を公に認め,実行者を訴追し,適切な刑をもってその者を罰す ること。

 (b)政府当局及び公人による事実否認並びにこのような度重なる否認を通じた被害者の再ト ラウマへの試みに反論すること。 

(c)関連資料を開示し,事実を徹底的に調査すること。

 (d)被害者の救済の権利を認め,そしてそれに応じて,被害者に対して,補償,満足感そし て可能な限りの完全なリハビリテーションの手段を含む,完全で効果的な救済と償いを提供す ること。

 (e)締約国の更なる条約上の義務違反を防ぐ手段として,国民一般に対して,本件に関する 教育を行い,また,全ての歴史教科書にこの出来事を含めること。

 

 女性に対する暴力とジェンダーに基づく暴力 

20.

 ジェンダーに基づく暴力に対処するための締約国の努力に留意しつつ,委員会は,と りわけ家庭内暴力,近親相姦,配偶者強姦を含むレイプといったジェンダーに基づく暴力事件が続いているという報告があること,かかる事案に対する告訴,捜査,訴追,有罪判決の数が少ないこと,そして被害者の法的保護が不十分であることにつき懸念を有している。

更に委員会は,性的暴力の罪で訴追するためには,刑法上,被害者の告訴が必要とさ れていることに懸念を表明する。(第 2 条,12 条,13 条,14 条,16 条) 

 

前回の委員会の総括所見(パラ 25)と女性差別撤廃委員会の総括所見(CEDAW/C/JPN/CO/6, paras. 31-34)に照らして,締約国は,家庭内暴力,近親相姦,配偶者強姦を含むレイプなど,あらゆる形態のジェンダーに基づく虐待を防止し,訴追する努力を強化しなければならない。 

 

特に以下の事項を強化すべきである:

 (a) 法的,教育的,財政的,及び社会的要素を含む,女性に対する暴力を撤廃するための一貫した包括的な国内戦略を採択し,実施すること;

 (b) そのような暴力の被害者に対して,不服申立て制度へのアクセスを保障し,被害者の身体 的・精神的なリハビリテーションを促進すること。そのような支援は,締約国内に駐留する 外国軍兵士を含む,全ての軍人の被害者に拡大されるべきである;

 (c) 女性に対する暴力事件を速やかに,効果的かつ公平に捜査し,責任者を訴追すること。

委員 会は,被害者の告訴がなくとも性的暴力の罪が訴追されるよう確保されるため,法律を改正することを締約国に求める; 

(d) あらゆる形態の女性に対する暴力及びジェンダーに基づく暴力に関する公衆の啓発活動を拡大すること。 

 

人身取引

 21.

 人身取引対策行動計画 2009 を含む,締約国の人身取引対策への努力に留意しつつ,委員会は,この行動計画のために投入された資源に関する情報が欠如していること,人身取引事犯での逮捕者数と起訴され有罪判決を受けた人数との間に大きな相違があることに懸 念を有している。

委員会は,とりわけ児童に関し,調整・監視機関に関する情報や,人身取引対策の効果に関する情報が欠如していることに遺憾の意を表明する。(第 2 条,12 条, 13 条,14 条,16 条) 

委員会は締約国に対して,人身取引に関する国連特別報告者が 2009 年に訪日した後に作成した勧告を完全に実施することを要求する。

 

特に,締約国は以下を確保すべきである:

 (a) 人身取引の被害者に,身体的,精神的な回復のために適切な支援を提供すること;

 (b) 人身取引の被害者が誤って不法移民とみなされ,補償や救済なく退去強制させられることがなくなるよう明確な本人確認手続が実施されること;

 (c) 加害者が訴追され,適切な刑罰に処せられること;

 (d) この点に関して,関連する公務員に対して専門的な研修が提供されること; 加えて,締約国は国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する人(特に女性及び児童)の取引を防止し,抑止し及び処罰するための議定書(パレルモ議定書)の批准を検討するべきである。 

 

精神医学的ヘルスケア

 22.

 精神保健施設の「各運用基準」の根拠となる精神保健及び精神障害者福祉に関する法律や,締約国代表団から提供された追加情報にも関わらず,委員会は,自らの意志に基づかずに,しばしば長期間にわたって精神保健施設に入所している,心理社会的及び知的な精神障害のある者の数が多いことに引き続き懸念を有している。

委員会は更に,頻繁な昼夜間単独室収容,拘束及び強制的な医療行為及び非人道的で品位を傷つけるような取り扱 いに値する行為に懸念を有している。

精神ヘルスケアに関する計画についての対話を行っ た際に得られた情報を考慮し,委員会は,締約国が精神障害を持つ者を入院させること以外の代替手段に対して注目を欠いていることにつき引き続き懸念を有している。

 

最後に, 委員会は,拘束的措置の過度な利用に対する効果的で公平な調査がしばしば欠如している こと,また,関連する統計データが欠如していることに懸念を有する。(第 2 条,11 条,13 条,16 条) 

 

委員会は,締約国が以下の事項を確保することを要求する:

 (a) 自らの意志に基づかない処置や入院への効果的な司法的コントロール,及び効果的な上訴制 度の設置;

 (b) 外来やコミュニティサービスを発展させ,入院患者の数を減らすこと;

 (c) 精神医学及び社会ケア施設を含む,自由が剥奪される全ての場所において,効果的な法的保 護措置が尊重されること;

 (d) 効果的な不服申立制度へのアクセスを強化すること;

 (e) 拘束具又は昼夜間単独室収容は,それを避けるか,コントロールするための他の管理手段が 全て尽くされた場合に,可能な限り短い期間,厳格な医学的管理の下,最後の手段として適 用されること。また,そうした行為は正しく記録されること;

 (f) そのような拘束的措置の過度な利用が患者の負傷につながった事例について,効果的で公平 な調査を行うこと; (g) 被害者に救済と補償が提供されること;

 (h) 独立した監視機関が全ての精神科施設を定期的に訪問すること。 

 

体罰 

23. 

 

児童虐待防止法第 3条により児童虐待が禁止されていることに留意しつつ,委員会は, 家庭や,その他の代替保護環境において,体罰が法的に明確には禁止されておらず,そし て,民法や児童虐待防止法が適切な懲罰の利用を認め,ある場合には体罰の許容の度合い が不明確であるという,子どもの権利委員会が示した懸念を共有する。(第 16 条)

 

 締約国は,全ての状況において,体罰と,あらゆる形態の児童の品位を傷つけるような取扱いを,法によって明確に禁止すべきである。 

 

他の諸問題 

24. 

 

締約国は,公務員による拷問や不当な取扱いの事例に関する告訴,捜査,訴追,有罪判決,人身取引並びに家庭内及び性的暴力,更には被害者に提供される補償やリハビリテ ーションを含む救済手段を含めた,国内レベルでの条約履行の監視に関連する,性,年齢 及び信頼性ごとに分類された全ての統計データを取りまとめる効果的な制度を構築すべきである。

 

 25.

  委員会は,締約国に対し,恣意的拘禁作業部会の訪問を許可し,その勧告を実施する 努力を含む,国連人権メカニズムとの協力を強化することを勧告する

 

締約国は,当条約 を含む国連人権メカニズムの下での義務の履行を監視するための,よく調整され,透明で 公的に利用可能な手段を確保するために更なる措置を取るべきである。 

 

26.

  締約国の普遍的・定期的レビュー(A/HRC/22/14/Add.1, para. 147.9)におけるコミ ットメントに留意しつつ,委員会は,締約国が現在の国内的議論を加速し,一刻も早く拷問及び他の残虐な,非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約の選択議定書を批准することを促す。

委員会はまた,条約第 22 条の下での宣言実施を検討するよう 勧告する。201

 

27.

 委員会は,締約国が未加入の主要国連人権条約,すなわち,市民的及び政治的権利に 関する国際規約の第二選択議定書,全ての移住労働者及びその家族の権利の保護に関する条約(,そして障害者権利条約;(※2014年批准し2月19日発効)を批准することを招請する。 

 

28.

 締約国は,公式ウェブサイト,報道機関及び非政府組織を通じて,適切な言語におい て,委員会に提出された政府報告並びに委員会の総括所見について,幅広い広報を行うこ とを要請する。

 

 29. 

委員会は,締約国に対し,

(1)被拘禁者に対する法的保護措置を確保又は強化する, 

(2)迅速,公平かつ効果的な捜査を実施する,そして

(3)拷問又は不当な取扱いの被 疑者を訴追し,その加害者を罰するという,当文書の第 10,11 及び 15 段落に含まれてい る委員会の勧告について,2014 年 5 月 31 日までにフォローアップ情報を提供することを要 請する。加えて,委員会は,本総括所見の第 19 段落に含まれている被害者への賠償と救済 についてのフォローアップ情報を要請する。

 

 30. 

委員会は,第 3 回目となる次回の報告書を,2017 年 5 月 31 日までに提出するよう締約国に招請する。その目的のため,委員会は,締約国が任意の報告手続の下で委員会に報告 することを受諾していることを考慮し,然るべき時期に,締約国に対して,報告に先だち 質問票を送付する。