《労働情報-特集:Corona vs Union[コールセンター]》
 ◆ 呟きから始まった“3密”との闘い
   SNSでの繋がりから団交申し入れへ

青木耕太郎(総合サポートユニオン共同代表)


 4月上旬の緊急事態宣言の前後から、数十のTwitterアカウントがコールセンター職場の“3密”について告発を始めた。職場では声を上げづらい非正規労働者が一斉にSNS上で声を上げたのだ。

 多くのコールセンターで、換気もできない状態で数百名のオペレーターが密集し、隣や前の人とは1メートルにも満たない距離で電話対応。マスクやアルコール消毒は義務化されず、机・椅子・ヘッドセットも共有で使い回されていた。
 私たちは、Twitterの投稿を見て、コールセンターの“3密”の深刻さと、全国各地のコールセンター労働者が企業を超えて繋がり始めていることの画期性に気づき、当事者のツイートにリプライやDMをして連絡を取り合うようになった。


 そして、複数の当事者から、コールセンターで働く者同士が匿名で議論できるプラットフォームがほしいという意見があり、匿名のグループチャット(LINEのオープンチャットという機能)を開設した。

 グループチャットでは、コールセンターの“3密”を社会問題化するための作戦が話し合われた。
 当初は、雇用主による報復を恐れてユニオンでの団体交渉という方法は採られず、ネット署名、マスメディアでの発信、行政への申し入れといった方法が選ばれた。
 全国の60名ほどのメンバーが協力して、ネット署名を2万5千筆以上集めるとともに、テレビや新聞の取材を受けた。
 その結果、コールセンターの“3密”問題は広く知られるようになった。
 こうした運動と「成功体験」によってエンパワーメントされた労働者が徐々にユニオンに加入するようになり、自らの職場でも声を上げるようになった。

 4月末にKDDIエボルバの契約社員が総合サポートユニオンに加入し、職場の“3密”の改善を求めて団体交渉を申し入れた。
 申し入れから間もなく、出勤人数を減らしたりマスクを支給したりするなどの措置が講じられるなど改善がみられた。

 その動きを知ったグループチャットの複数のメンバーが、5月末に、さっぽろ青年ユニオンに加入し、業界最大手のトランス・コスモスに団体交渉を申し入れた。
 さっぽろ青年ユニオンも団体交渉で。3密”の改善を勝ち取っている。
 6月に入ると、コールセンターで働く派遣労働者が休業や雇い止めにされるケースが増えた。
 そうしたところ、キャスティングロードという派遣会社から複数名が総合サポートユニオンに加入し、休業補償100%や雇い止め撤回を求めて団体交渉を申し入れた

 コロナ禍以前からコールセンター業界では、9割以上の労働者が不安定な非正規雇用の地位に置かれ、厳しい監視・査定を通じた競争的な労務管理によって労働者同士が分断されてきた。
 そうした分断された労働者たちが、コロナ禍に、SNSを通じて労働者同士の繋がりをつくり共に声を上げるなかで、徐々に自分たち労働者のもつ力に気づいて、組合加入・団体交渉申し入れを決断したことの意義は小さくないだろう。

『労働情報』(2020年8月)