=たんぽぽ舎です。【TMM:No3950】「メディア改革」連載第33回=
◆ 「新規メディア、フリー排除は多様性の阻害」
新聞労連はキシャクラブ問題から逃げるな
浅野健一(元同志社大学大学院教授、アカデミックジャーナリスト)
いま、日本の既成メディアで最も活躍しているのは東京新聞社会部の望月衣塑子記者だろう。
最近も、安倍晋三記念小学校疑獄事件で文書改竄を命じられて自死した赤木俊夫さんの妻、赤木雅子さんや、山口敬之元TBSワシントン支局長の性暴力で民事裁判を起こしている伊藤詩織さんにインタビューした記事を書いている。
望月氏と初めて会ったのは、モリ・カケ事件で2017年5月に国会議員会館で開かれた市民集会でパネリストとして隣り合わせになった時だった。その後、取材現場や集会で頻繁に会ってきた。
望月氏は、警視庁高輪署の刑事が山口氏の逮捕状をとっていたのに、中村格警視庁刑事部長(現在、警察庁次長)の指示で逮捕が見送られたことに関心を持ち、菅義偉官房長官の記者会見に出るようになった。
菅氏が望月記者の質問を嫌がり、内閣記者会に質問制限を求める言論弾圧の暴挙まで行なっている。
官邸報道室はコロナ禍を口実に、内閣記者会と共謀して、4月9日から、官邸での会見の参加者を1社1人に制限(反対したのは毎日新聞と東京新聞だけ)したため、政治部ではなく社会部所属の望月氏は会見に出られなくなっている。
望月氏は映画化もされた望月氏の著書『新聞記者』の中で、地方支局の警察記者クラブに詰めていた時に、捜査官に食い込んで取材したことを肯定的に書いているので、気になっていた。
私は望月氏に『記者クラブ解体新書』(現代人文社)などを送って、キシャクラブが日本のメディアの大本営報道化している最大の要因であることを認識してほしいと働き掛けてきた。
望月氏から5月2日夜、「明日夜、新聞労連が協力するネットの番組に出るので、安倍首相が4月17日の会見で、フリーの畠山理仁さんの質問で、『記者クラブ問題について皆さんで議論を』と発言したことを取り上げたい」というメールがあった。
私は、首相のキシャクラブに関する発言を評価し、ネットに記事を書いている。
https://hbol.jp/219327/5
この番組は5月3日午後8時から、Choose TVで「#コロナ時代のメディア~自由の気風を保つために~」と題してライブ配信された。
5月5日に動画がユーチューブにアップされている。
https://www.youtube.com/watch?v=7TAtI3fCHSs
司会(MC)は南彰・新聞労連委員長。
第1部の討論者は、木田修作・テレビュー福島記者、阿部岳・沖縄タイムス編集委員、松原文枝・元テレビ朝日「報道ステーション」プロデューサー。
第2部は、安田菜津紀・フォトジャーナリスト、望月記者、せやろがいおじさん・“時事問題”You Tuber。
第1部の最後のところで、司会の南氏が「一般の方からの質問で、これから内閣記者会、また各省庁の記者会のあり方、改善点はどのようなものとお考えか。また、それを実現するに当たって一番障害になるものは何か、という問いがあります。阿部さん、いかがでしょうか」と阿部氏に振った。
「記者クラブは、私も沖縄県内の記者クラブに所属していたこともありますので、記者クラブは改革というか、そのフリーの方とかにオープンにして、『残す派』なんですね。ただ、そのフリーランスの方をこれまで排除してきたし、不信感はもうものすごく強いし、時間切れが近いということも知っているのですが、やはり権力の建物とかの中に、いろんな記者が居座ってそこにいて、うろついていること自体が知る権利に貢献しますので、そういった意味では、拠点としては残したらいいのではないか」
南氏が「ジャーナリストの連帯がいま問われている。菅の会見が1社1人にして、それ以外の人を排除してしまう。(労連の)アンケートの結果で報道の自由を阻害しているのは、メディア幹部の姿勢、メディア内部の問題という声が多く寄せられている。メディアの体質を変えるにはどうしたらいいか」と述べ、望月氏に振った。
望月氏は次のように発言した。
「首相会見で、畠山理仁さんが記者クラブ制度についてどう考えるかを聞かれ、安倍さんは『今まで、まさにこの時代において、メディアが全てカバーしているかと言えば、そうではない時代になり始めました。その中でどう考えるかということについては、まさに、皆様方に議論をしていただきたい』という言葉を返した」
「実は、共同通信のジャーナリストだった浅野健一さんがこの言葉について、いま官邸側と内閣記者会に質問したいというお話を耳にしたので、改めてそうだなと思った。(南氏が「ふん」と小声で言う)。
この質問への首相の答えがあって以降に、内閣記者会の記者の側がもっともっと議論をすべきではないかと思う」
「今、ネットメディアは、新たに出てきたビジネスインサイダーとかハフポストなどの新規メディアの記者は全然参加できていない。その他にも専門性を持った優秀なフリーランスの記者たちがたくさんいるが、民主党政権時代に交代した時に入った何人か入れるようになったフリーランス協会に所属する記者たちだけが今入れているだけで、それも官房長官の会見は週一回、金曜日の午後だけ、首相会見だけという制限です」
「ほとんどの新規のメディアやフリーランスの記者が入れていない。これが多様性を阻害している。これだけ新たなメディアがどんどん出てきて、様々な考え方とか視点を持った記者たちが出てくる中で、既存の記者クラブ制度の記者だけに、会見の質疑のやり取りを限定していいのか。これは逆に、官邸側ではなく、記者クラブの中にいる私たちの社の人間たちが、もっともっと、それぞれ考えて、知る権利にこたえ、報道の自由を高めていくために話し合って変えていかなければならない」
「まさに、外側のせいにするのではなく、記者会側にいる私たちがこういう声を外に広げていかなければならない。この首相の発言をもとに、記者会側、この問題に関わってくるみんなで考えなければならないと思う」
南氏は「この問題は長年言われてきたことだ。自民党はフリーランスを入れる記者会見をやっていない。そういう自民党の安倍首相に言われる前に、メディア自身がしっかり動かなければならない。視聴者の方々からも、記者クラブのことや、会見にフリーをもっと入れた方がいいという意見が多い」と締めくくった。
沖縄タイムスの阿部記者は、キシャクラブは取材拠点だから残すべきと主張した。これは、あまりに稚拙だ。
前回も論じたが、キシャクラブを廃止し、官公庁の中にある記者室をメディアセンター、広報センターが使えばいいのだ。
南委員長は視聴者から関心が強いキシャクラブ問題に踏み込まない。
「長年言われてきた」のに、企業メディアの労使はキシャクラブ問題を社会化してこなかった。
新聞労連やメディア改革を目指す市民組織は、安倍首相と望月氏の呼び掛けに応えるべきだ。
この番組での討議内容について、次回も論じたい。
今、東京の教育と民主主義が危ない!!
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