◆ まだ残る農薬被害 (東京新聞【本音のコラム】)

鎌田 慧(かまたさとし・ルポライター)


 中学校への登校は、リンゴ畑の中を通り抜けるのが近道だった。リンゴ特有の低い樹木の間から、白い霧が這いだしてくる。
 わたしたちは学生服の袖で口を覆い、顔を背け息を止めて駆け抜けた。噴霧器から流れでてくるのは、農薬のホリドール。子どもたちでも猛毒だと知っていた。その後ホリドールは生産中止。
 水俣病、亜硫酸ガス、アスベスト、そして原発。人間のいのちを犠牲にする大量生産方式は矛盾であり、食べ物をつくる農薬の害毒は、根源的な矛盾である

 青森県の太平洋岸。特産品「長芋」の畑作地帯に住む三浦堅作さん(69)はこの五年間、農薬クロルピクリンの健康被害を、国や県に訴え続けてきた。彼は寺院などの建築を専門にする一級建築士で、農家ではない。


 周りが一面の長芋畑でその生産をクロルピクリンが支えている。
 八年ほど前から、目の痛みやめまいが激しくなった。持ち前の研究熱心さから資料を渉猟し、戦時中、化学兵器として使用されていたクロルピクリンが原因と断定できた。「農薬曝露(ばくろ)に起因する化学物質過敏症」。これが病名である。

 この農薬の使用は農業用ポリエチレンフィルムによる被覆が義務づけられているが「難透過性フィルム」でも、有毒性ガスの漏洩(ろうえい)は防げない。
 「生産中止して他の方法を確立すべきだ」。三浦さんは勇気を奮って強く主張している。

『東京新聞』(2020年2月4日【本音のコラム】)

 

 

パワー・トゥ・ザ・ピープル!! パート2

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