7/16(火) 沖縄タイムス

 沖縄で昭和の街並みが残る飲み屋街、那覇市栄町。日付が変わる午前0時ごろ、飲食店が次々と店を閉め始めても、明かりがともり続ける店がある。街の本屋「ブックスおおみね」だ。約30年、家族4人で沖縄の書店で唯一24時間営業を続けている。コンビニエンスストアの台頭で、街の本屋は雑誌や漫画が売れなくなり、出版不況もあってシャッターを閉じていく中、20坪弱の店舗が生き残っている理由とは。(デジタル部・與那覇里子)

飲み屋街で24時間営業の本屋さん 親子3人でシフトを回して約30年 支持される理由とは

なぜ24時間営業?
 「いらっしゃいませ」。
 午後6時、店頭で迎えてくれたのは、大嶺輝浩さん(47)だ。


 「記者さん、この前も来てくれてましたよね。あそこに貼ってある光GENJIのポスターを見て、ジャニーズが好きだと話していたので覚えています」

飲み屋街で24時間営業の本屋さん 親子3人でシフトを回して約30年 支持される理由とは


店内には、1990年代からのポスターや雑誌の販促グッズが飾られている。ポスターは蛍光灯で焼け、白壁は長年の細かなほこりで所々薄黒く、多くの人が歩いたであろう床のタイルは擦れている。営業してきた長い歴史を店内の一つ一つが教えてくれるが、インクの匂いは新しい。

 「ブックスおおみね」は1982年、輝浩さんの父、浩邦さん(69)が始めた。元々は、木材関係の営業職として働いていたが、ケガで思うように動けなくなった。無類の本好きだったこともあり、脱サラをして書店を開いた。朝8時ごろ店を開け、夜8時か9時ごろ閉める。母の明美さん(68)と切り盛りしていた。

飲み屋街で24時間営業の本屋さん 親子3人でシフトを回して約30年 支持される理由とは
店内の一角は、沖縄の人に売れる沖縄関連本が占める
 輝浩さん、高校生。父から店でアルバイトをするようにお願いされた。
 「僕がアルバイトに入ると、両親が休める時間が作れるんです。学校から帰って、店の手伝いをしていたんですが、そのころからお客さんに24時間営業をしてほしいと要望をもらうようになりました。夜の街なのに、本屋が空いていないと。お客さんからの声は多くて、まだ沖縄でコンビニが少なかった90年ごろ、24時間営業に変わりました」

 あれから約30年、24時間営業を続けている。69歳の父、浩邦さんが午前1~8時、68歳の母、明美さんが午前8時~午後4時、長男の輝浩さんが午後4時~午前1時の固定シフト。輝浩さんの双子の弟、次男の浩之さんは入荷や配送、営業を担当している。
 「休みは元旦だけ。家族そろってご飯を食べるのは、正月だけです。僕の場合は、お盆のエイサーもここ何十年、見たことがないですね。近所から聞こえてくる音を楽しんでいます」


コンビニは打撃、でもブックスおおみねの周辺からは撤退した理由

 沖縄の書店商業組合によると、街の本屋の生命線は「雑誌と漫画」だという。しかし、似たいような品ぞろえで24時間買えるコンビニは、雑誌と漫画に強かった多くの街の本屋を飲み込んできた。


 2019年7月時点で、沖縄にはファミリーマートとローソンで約500店舗ある。さらには同月、セブンイレブンも進出し、今後5年で250店舗まで拡大する予定。これからさらなる激戦が見込まれる。沖縄では20年前、同組合に約60書店が入っていたが、コンビニの影響もあり、19年には約30店舗に減った。そのうち、街の本屋は20店ほどだ。
「ブックスおおみね」にもコンビニの波はやってこなかったのか。

 「もちろん、あります。近くにコンビニがあれば、打撃は間違いない。うちの周りにもあったんですが、駐車場が小さかったり、なかったりという店舗だったためか、ここ10年ほどで駐車場付きの広い店舗に移転していきました。栄町は建物が密集していて、道幅も狭いので、大きなコンビニ店が作れないのかもしれません」

 実際に、記者がコンビニ店をマッピングしてみたところ、「ブックスおおみね」から半径約340メートル以内にコンビニはなかった。歩くと約500メートルの距離があった。



 ブックスおおみねは、徒歩1分の場所に小学校があることも営業が続いている要因だという。「学校で使える文房具や虫取り網、虫かごも販売しています」

酔客は誰のために本を買う?
 コンビニはないものの、市場と飲み屋がひしめき合う栄町。日が暮れれば酔客があちこちを歩いている。しかし、飲んだ帰りに本を買って帰るのか。朝や昼は、飲み屋が開いていない。24時間、一体、どんな時間帯にどんな人が本を買っていくのだろう。
 「夜は、飲んだ帰りのお客さんが多いです。主に男性ですね。家に帰る前に、奥さんや子どもに本や雑誌を手土産に買っていくんです。寝る前に本を読む習慣のある人も買っていってくれます。
 でも、一番は、雑誌の入荷日を押さえている地域の常連さんに支えられています。雑誌は船で沖縄に入ってきて、各書店に届きます。大体夜の12時前後。その時間に合わせて店に来てくれる方たちがいます。あとは、船便なのでどうしても発売日から4~5日は遅れます。入荷が遅れていれば、次は何日ごろに入るよと伝えるようにしています」

「真夜中から朝方は、夜勤の父親がゆんたく(沖縄の言葉でおしゃべりの意味)が好きなので、常連さんが父と話しに来ますね。午前5時ごろからは、出勤の早い建設作業員の方たちが現場に行く前に寄っていってくれます」

 ちなみに、同組合によると、18歳未満は購入できない成人雑誌の売れ行きは「壊滅的」だという。竹田祐規事務局長は「インターネットの台頭で、アダルト関連も売れない。非常に売れた時期もあり、経営が苦しかった街の本屋が成人雑誌にかじを切った店もあったが、店は続かなかった」と振り返った。

オープンから37年で変わったのは「子ども」
 今年で開店37年目、「ブックスおおみね」は、本を通してたくさんの人と出会ってきた。この間、輝浩さんの目から見て、一番変わったのは「子ども」だという。

 「昔、街の本屋さんは、子どもたちがお小遣いを持って、遊びながらコミックや文房具を買いに行くところでした。店の中で元気に「おにごっこ」をする子どもたちもいました。でも、今は店の外から、一人で入っていいのかなと様子をうかがって、戸惑う姿を見かけます。子どもだけで買い物に行ってはいけないと学校や親に言われているのかもしれません」

 「最近では、本屋は、親が子どもの物を買いにくる場所になりました。子どもに、『お父さん、あの雑誌、昨日本屋に並んでいるはずなのに、何で買ってきてないの』と言われて来たり。文房具もそうです。子どもたちが塾や習い事で忙しいんですかね」

飲み屋街で24時間営業の本屋さん 親子3人でシフトを回して約30年 支持される理由とは
ノートや祝儀袋など、文房具もそろう

 輝浩さんが時代の移り変わりを語っていると、「いま、帰ったよ」とお客さんが入ってきた。
「きょうは『風の谷のナウシカ』の放送があるっていうから、すぐ帰るね。またあした」と言って店を去っていった。

「今のお客さんは、30代くらいだと思いますが、近所に住んでいて、出勤するときは『いってきます』と声をかけてくれます。帰ってきたら『ただいま』と言って、1時間ほど店内をゆっくり堪能していくのが日課です。本当にきょうは珍しい。お客さんとのこういうやりとりに元気をもらっています」

 3人でシフトを回し、明かりがともり続ける毎日。24時間営業はいつまで続けるのか。「父は深夜に店で働くと、本当に元気になるんです。朝までおしゃべりをして、生き生きしているように感じます。24時間の強みもあるので、まだまだやっていきたいです」