▼ 避難者の話 (東京新聞【本音のコラム】)
鎌田 慧(かまたさとし・ルポライター)

 住民に避難訓練をさせながら工場を稼働させる。そんな危険な工場はいやだ、と住民が反対しても政府は無視して会社にハッパをかける。
 ひどい国の話のようだが、ほかならぬ日本の現実だ。

 避難途中に多くの病人が亡くなった。「原発事故さえなかったら」と書いて酪農家が自殺した。牧草地もウシも希望も奪われた。政府は犠牲を顧みない。まるで戦争だ。
 福島原発事故から八年、避難者の生活はますます苦しくなっている。
 三月二十九日、福島県は東京の国家公務員住宅に住んでいる五十五世帯に、「三月末で退去」「退去しない場合は、家賃の二倍の損害金を請求する」と文書で通告してきた。


 退去届の提出を強要され、心身に変調をきたしたひともいる。「四月一日で荷物とともに放り出されるのでは」と不安な気持ちで生活している。
 大熊町から避難してきたKさんは「県が貧困をつくりだしている」と批判した。
 彼女は避難指示区域からの避難者だが、区域外からの「自主避難者」は「勝手に逃げた」扱いで、視線は厳しい。
 しかし、故郷を離れ、不安定な仕事について、誰が好きこのんで苦しい生活を続けているのか。

 国は原発を遮二無二進め、県はその方針に従って財政的に潤った。住民の人権を無視してきた政治責任は、キチンととるしかない。
 住宅の保障こそ最大の人権擁護である。

『東京新聞』(2019年4月2日【本音のコラム】)