なぜ能代の事件を生かせなかったのか

 消火活動中だった八王子消防署の消防士も犠牲に

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救出中、炎に巻き込まれたか 八王子の住宅全焼、消防隊員ら2人死亡

毎日新聞2019年1月31日 23時26分(最終更新 1月31日 23時37分)


 30日午後11時ごろ、東京都八王子市宇津木町の住宅から火が出ていると110番があった。木造2階建て延べ240平方メートルを全焼し、焼け跡から消火活動中だった八王子消防署の馬場寛人消防副士長(22)=同日付で消防司令補に2階級特進=と住人の男性とみられる2遺体が見つかった。

東京消防庁によると、馬場消防副士長は別の隊員2人と2階で逃げ遅れた人がいないかを探していた。急激に燃え広がった炎に巻き込まれたとみられる

 警視庁八王子署によると、住人の70代男性の行方が分からなくなっている。男性の妻もやけどを負い、病院に搬送されたが命に別条はないという。

 東京消防庁の松井晶範理事は記者会見で「日ごろから真摯(しんし)で将来が楽しみな職員だった。痛恨の極みで原因を検証したい」と話した。


■秋田・能代の火災
2遺体、不明の消防士か 住民救出後も消火作業

 22日午前7時ごろ、秋田県能代市富町の無職、武田安一さん(94)方から出火し、周辺の住宅などを含む計4棟が全焼。焼け跡から2人の遺体が見つかった。県警は、消火作業中に連絡が取れなくなった能代消防署の消防士長、藤田大志さん(32)と消防副士長、佐藤翔さん(26)とみて身元を調べている。

毎日新聞2019年1月23日 東京朝刊



■秋田魁新報 2019年1月30日社説:

能代2消防士焼死 再発防止へ十分検証を

 能代市中心部で22日朝に店舗兼住宅など4棟を全焼し、消火中の消防士2人が焼死した火災は発生から1週間が経過した。能代山本広域市町村圏組合消防本部は実態解明に向け、消火の際の指揮系統や安全対策を検証する調査委員会を設置した。2人と共に行動していた消防士らから当時の状況を聴き取り、無線の交信記録の分析などを進めている。

 調査委は能代山本消防本部の幹部級職員で構成する。県や秋田市消防本部、県外の火災分析の専門機関の協力を得ながら、客観的な視点で調査を進める方針だ。痛ましい事故が二度と起きないよう、十分に検証してほしい。

 能代山本消防本部のこれまでの調べでは、亡くなった2人は他の消防士と3人で隊を組み、通報から5分後、火元の木造一部2階建ての店舗兼住宅に到着。逃げ遅れた人がいないか確かめようと屋内に入った。当時は火が見えず、煙も少ない状態。1人が火元の男性を外に連れ出した後、2人は放水のため屋内に残った。近くでは他に2隊が活動中だったが、燃え方が急に激しくなったため外に退避。だが2人は戻らず、安否確認の無線にも応じなくなった。

 焦点は、火勢が強まった現場から2人がなぜ退避できなかったかということだ。消防本部は、退避は基本的に自己判断に任されているとするが、消防士2人が亡くなった重大性を踏まえ、従来の対応を改めることも含めて再検討する必要があるだろう。

 火災現場の状況や司法解剖の結果から、2人は崩れ落ちた天井や柱などの下敷きになって死亡したのではないとみられる。炎に巻かれて命を落とした可能性が高い。県総合防災課などによると、県内では過去に、こうした形で殉職した消防署員はいない。全国的にもまれなケースだ。

 消防本部は、建物が急激に燃えだしたのは「フラッシュオーバー」が起きたためとみている。フラッシュオーバーは火災で発生した水素やメタンなどの可燃性ガスが屋内に充満し、そのガスが高熱にさらされ連続発火して爆発的に燃え広がる現象だ。発生前には煙が黄色くなるなどの兆候が見られる。消防士には基礎的な知識とされるが、暗い屋内では気付きにくい場合もあるという。当時の現場の状況を詳細に調べて周知し、今後の現場での対応につなげなければならない。

 消防士らの心のケアにも目を向けたい。災害や事故現場で活動した警察や消防の救助隊員、自衛官らが抱える強い精神的ストレスを「惨事ストレス」と呼ぶ。消防本部はこれを懸念し、消防庁に専門チームの派遣を依頼した。市民の財産と命を守るため危険にさらされることの多い消防士らを、精神面でいかにサポートしていくかも重要な課題だ。