2018年12月7日

◎ 自由権規約第7回日本政府報告審査リストオブイシューに関する要請

東京・教育の自由裁判をすすめる会
板橋高校卒業式事件から「表現の自由」をめざす会
個人情報保護条例を活かす会(神奈川)

 1,私たちは2014年自由権規約第6回日本政府報告審査に、規約18条・19条関連でレポートを提出し、ロビイング活動をしたNGOグループです。
 ○「すすめる会」は、東京都において、学校行事の際に国旗国歌への起立斉唱を拒んだために、教職員が減給・停職・解雇を含む制裁を受けたことが、規約18条違反であることを報告しました。
 ○「めざす会」は、政府が報告書(パラ5,6)に引用した「板橋高校卒業式事件最高裁判決」が、「公共の福祉」を理由に「表現の自由」を制限した、規約19条違反の事例であることを報告しました。
 ○「活かす会」は、神奈川県教育委員会が、卒業式等で起立しなかった教員の氏名を収集・保管したことは個人の思想信条情報にあたり、規約17条・18条・19条違反であることを報告しました。


 この時は、第6回総括所見(CCPR/C/JPN/CO/6)(以下“CO(6)”)パラ22に、私たちが申し立てた課題が取り上げられました。

 2,引き続き私たちは、自由権規約第7回日本政府報告審査に先立ち、2017年7月にNGOレポートを提出しました。これに対しては、同年11月のリストオブイシュー(CCPR/C/JPN/QPR/7)(以下“QPR(7)”)パラ23&パラ26で、私たちの課題がより明瞭かつ具体的に取り上げられました。

 3,これらの経過を踏まえて、以下の要請を行います。

 ◎ 外務大臣 河野太郎 殿

 (1)[前回CO(6)パラ22が「一般論・抽象論」ではなかったことについて]

 一昨年の要請(2016年12月8日)において、私たちからCO(6)パラ22の即時実行を要請したところ、「あくまで、一般論・抽象論として受けとめている」(中川智博総合外交政策局人権人道課兼人権条約履行室外務事務官)と回答されて、その後この課題に取り組まれた形跡がありません。
 ところが今回、QPR(7)パラグラフ23には、“CO(6).para22”に関連して”と銘打って公共の福祉概念に関する重ねての問い合わせがあり、同para26では『10・23通達』という具体的な文書名を取り上げられて問い合わせが来ていることから、前回CO(6)パラ22が決して「一般論・抽象論」ではなかったことが明白になったと言えます。
 この経過を踏まえ、改めてCO(6)パラ22の勧告に従って、東京都における「10・23通達」に基づく国旗国歌に対する起立斉唱の強制が、規約18条及び19条の各々3項に記された「厳格な条件」を満たしているか否か、国際基準に則った検討を行うよう、関係各部署に促していただけるよう要請します。

 (2)[地方自治体における条約遵守義務について] 【添付資料参照※】

 昨年の要請(2017年12月5日)において、東京都教育委員会がCO(6)パラ22に関する質問に対して「日本政府の見解について答える立場にない」と回答したことを踏まえて、「地方自治体には条約遵守義務はないのか」と質問したのに対し、中川外務事務官の回答は、「政府として、地方自治体が条約に関して具体的に制裁措置をとるとか行政措置をとるとか、そこまで出来るかというのはそれは個別の事案の問題になります。」というものでした。
 重ねて「『自由権規約』には自動執行力があるがそれでも個別の問題なのか」と質問したのに対しては、「締約国として、条約を誠実に履行していく義務はあります。個別具体的なケースについて、直接どういうふうに影響を持つかということは、ケースバイケースだと思います」との回答でした。
 国家・地方を問わず全ての公務員には条約遵守義務が課せられているのは当然のことですから、今後地方自治体に通知・連絡を出す際には、誤解が生じないよう、全ての公務員に条約遵守義務が課せられていることが分かるような形で行っていただけるよう要請します。

 ※【添付資料】 自由権規約第3回日本政府報告書より(外務省HP)
 4.「市民的及び政治的権利に関する国際規約」と国内法規との関係
 (c) 憲法は、憲法の最高法規性(第98条第1項)、公務員の憲法遵守義務(第99条)、条約及び国際法規の遵守(第98条第2項)等を定めており、国家及び地方公共団体の機関は憲法及び条約を尊重しなければならない
 そして、国民は、国及び地方公共団体に対して、平穏に請願をする権利が認められている(第16条)ので、請願の方法により、法律、規則等が憲法又はB規約に反することを主張することができる。
 法令は、議院に対する請願(国会法、衆議院規則、参議院規則)、地方議会に対する請願(地方自治法)、在監者の請願(監獄法、監獄法施行規則)について方法、要件等に関する規定を置いている。
 また、行政機関の行為によって権利を侵害された者が、当該行政機関又はその上級行政機関に対して、憲法の基本的人権の規定又はB規約に違反する旨の不服を申し立てることもできる(行政不服審査法)。

 (3)[第7回List of Issuesパラ23&パラ26への回答作成に向けて]

 QPR(7)パラ23&パラ26は決して「一般論・抽象論」ではなく、課題は具体的に示されているので、回答作成に当たっては、国内関係機関及び該当NGOの意見を聴取する機会を設け、正確な事実認定に基づいた、条約の理念に忠実な回答を作成するよう要請します。





 ◎ 法務大臣 山下貴司 殿


 (1)[「公共の福祉」概念の諸外国憲法における使用例について]

 基本的人権を制限する場合の要件については、『世界人権宣言』29条2項が今日の国際標準となっています。自由権規約18条3項・19条3項、ヨーロッパ人権条約9条2項・10条2項、ボン基本法2条1項、などに同じ基準が採用されています。
 それに対しわが国のように「公共の福祉」概念を一般的包括的な人権制約要件として採用している例は極めて特異です。国内の人権保障に国際標準が適用されるよう、CO(6)パラ22の勧告に従って、速やかに改善策を講じられるよう要請します。

 (2)[QPR(7)パラ23で求められている「保証するための措置」について]


 パラ23では、「公共の福祉」概念が自由権規約第18条と19条の3項で許されている僅かな制限以外に思想・良心および信教の自由あるいは表現の自由の権利を制限しないよう「保証するための措置」が、求められています。
 法務省が音頭を取って、自由権規約18条3項及び19条3項に示される国際標準の人権制限要件を国内法として明文化する立法案を作成するなり、その要件を「閣議決定」「大臣通達」「通知」「人権教育啓発白書」などにより国内に周知徹底するなり、具体的な対策を講じられるよう要請します。

 (3)[法務省内のQPR(7)パラ23&パラ26への回答作成担当部署について]

 昨年要請時(2017年12月5日)に、私たちから「公共の福祉」概念についての検討担当部署を訪ねた際に、「所管していないことには責任をもって答えることは出来ない。」(吉田里日大臣官房秘書課国際室室長)とのお答えでしたが、その時に頂戴したパンフレット『法務省 2017年版』を見ると以下に引用するような説明があり、いずれかの部署の所管になってもおかしくないと思われます。
・ 「大臣官房司法法制部」の仕事には、「司法制度に関する調査研究や法令案の作成、法令・判例や法務に関する資料の収集・整理・編纂・刊行、法教育に関する事務」(p7)などがあげられています。
・ 「法務総合研究所」の仕事には、「法務省職員に対する各種研修を行っています。これらの研修では、それぞれの職務に応じて、法務省職員として必要となる知識及び技能を習得させるため、講義・討論・演習など様々な研修科目を取り入れています」(p10)とあります。
・ 「人権擁護局」の仕事として、「人権啓発活動は、人権尊重の必要性と重要性が国民の皆様に理解され、広まるようにするものであり、人権擁護機関の職務の中でも最も重要なものの1つです」(p27)と紹介されています。
・ 「訟務局」の仕事として、「国を当事者とする訴訟等について、国を代表し国の立場から裁判所に対する申立や主張・立証などの活動を行う」「法務省は、こうした訴訟事務を統一的かつ適正に処理することを任務としています」(p44)が紹介されています。
 法務省として、「国際人権法」への責任ある対応を要望します。



 ◎ 文部科学大臣 柴山昌彦 殿

 (1)[CO(6)パラ22の即時実行について]

 一昨年の要請(2016年12月8日)において、CO(6)パラ22の即時実行を要請したところ、「勧告はあくもでも一般的なものであり、政府として内容を検討の上、引き続き適切に対処していきたい。」(鈴木育乃大臣官房国際課国際交流企画グループ専門職)とのお答えでした。しかし今回のQPR(7)パラ23&パラ26から、CO(6)パラ22が決して「一般なもの」ではなかったことが明白ではないでしょうか。
 そこで改めて、CO(6)パラ22の勧告に従い、「10・23通達」に基づく国旗国歌に対する起立斉唱の強制が規約18条及び19条の各々3項に記された「厳格な条件」(the strict conditions)を満たしているか否か、国際基準に則った厳密な検討を速やかに行うよう要請します。

(2)[今回QPR(7)パラ26への回答作成に向けて]

 QPR(7)パラ26への回答作成に当たっては、正確な事実関係を、都教委と当該NGOの両当事者から聴取して把握した上で、条文の趣旨に忠実に国際標準に則った課題解決に、先頭に立って取り組まれるよう要請します。