▼ 3.3.11後の原発差止裁判 現在、脱原発弁護団全国連絡会が把握している係争中の
原発裁判の訴訟は30件、
仮処分は9件である(2018年1月18日現在)。
脱原発弁護団全国連絡会とは福島原発事故をきっかけに2011年7月16日に結成され、現在、北海道から九州まで約170名の弁護士が加入し、団体加入も含めると300人になる。
福島原発事故前は負け続きだった裁判も、事故後は、
大飯原発の運転差し止め訴訟に続き、福井地裁の
高浜原発運転差止仮処分、大津地裁が再び高浜原発の運転を禁止し、そして今回、広島高裁で
伊方原発3号機の運転差し止めの判決が出された。いずれも
画期的な判決である。
司法は原発の是非を問う場として機能し始めた。7年前の原発事故をきっかけに市民も、弁護士も、裁判官も大きく変わった。
① 大飯原発3、4号機の運転差止め判決(福井地裁) 2014年5月21日、
福井地裁(樋口英明裁判長)は関電大飯原発3、4号機の運転差止めを命じた。事故後初めての原発運転差止訴訟判決であった。
歴史的な
住民側勝訴判決となっただけでなく、全国の原発の再稼働に影響を与える重要な内容を含んでいる。
判決は、耐震性の目安となる基準地震動が「1260ガルを超える地震は来ないとの確実な科学的根拠に基づく想定は本来的に不可能である」「使用済み核燃料も原子炉格納容器のような堅固な施設によって閉じ込められる必要があるが、そのような堅固な設備は存在しない」など、
使用済み核燃料の危険を認めた。
判決では、
「人格権の根幹を具体的に侵害する恐れがある」「新規制基準適合性に係る審査が原発の安全性を担保するものではない」としている。
② 高浜原発運転停止仮処分(福井地裁) 2015年4月14日、
福井地裁(樋口英明裁判長)は関電高浜原発3、4号機
運転停止の仮処分命令を出した。
新規制基準は
「緩やかすぎ、合理性がない」と指摘し、さらに再稼働すると
250km圏内の住民の人格権が侵害される具体的な危険があると述べた。
しかし、2015年12月、
福井地裁の別の裁判官(林潤裁判長)によりこの命令は取り消された。
③ 高浜原発3・4号機運転差止仮処分(大津地裁) 2017年3月9日、
大津地裁(山本善彦裁判長)は高浜原発3・4号機の
運転差止仮処分を認めた。
3月10日、稼働中だった3号機は運転を停止した。
判決では関電や規制委の
福島原発事故の原因究明の姿勢が不十分なことを挙げ、新規制基準を「公共の安寧の基礎と考えるのは、ためらわざるをえない」と批判。地震や津波による過酷事故対策で「危惧すべき点や疑問が残るのに、関電は安全性の説明を尽くしていない」と指摘した。
2017年3月、
大阪高裁はこの決定を取り消した。 ④ 2018年9月30日まで伊方原発3号機の運転を禁止(広島高裁) 2017年12月13日、
広島高等裁判所第2部(野々上友之裁判長)は、伊方原発
即時抗告の申し立てを認め、2018年9月30日まで伊方原発3号機の運転を禁じた。
高等裁判所として現実に原発の運転禁止を命ずるのは史上初である。
四国電力は、3号機の定期検査終了後も運転を再開できなくなった。
差止の理由は,
火山事象に対して全面的に伊方原発が安全性を有していないという点である。火山事象の問題点は、他の全国の原発においてもあてはまる。
⑤ 大間原発建設差止を認めず(函館地裁) この裁判は
3・11以前の2010年7月28日、電源開発に対しての大間原発の建設・運転の差止めを求めて函館市民ら1164名が提訴していた。
2018年3月19日に函館地方裁判所(浅岡千香子裁判長)は差し止めを認めず、
住民側の請求を棄却した。
①から④以外のその他の多くの判決(⑤函館地裁を含む)では、3.11福島原発事故後も、行政府の主張を認めて原発の運転差し止めを行っていない。
(後藤康彦)
(続)
『都高退教ニュース 92号』(2018年4月1日)