5/10(木) 22:10配信 毎日新聞
◇車の窃盗など2罪認定し懲役2年の有罪判決
指定暴力団組事務所に火炎瓶を投げ入れたなどとして建造物等以外放火などの罪に問われた埼玉県東松山市、無職、渡辺一也被告(37)に対し、さいたま地裁(高山光明裁判長)は10日、埼玉県警が証拠収集のため行ったビデオ撮影の違法性を認め、建造物等以外放火など3罪について無罪とし、放火事件に使用された車の窃盗など2罪を認定して懲役2年(求刑・懲役6年)を言い渡した。
渡辺被告は2016年3月、知人の男2人=公判中=と共謀し、同県行田市内の暴力団組事務所にガソリンが入った火炎瓶を投げ入れて火を放ったなどとして起訴された。共謀したとされる男らのうち1人は当時、別の事件で逮捕状が出ており、県警は男の立ち回り先である被告の自宅を監視するため15年10月、近所にビデオカメラを設置。男が逮捕される16年5月まで約7カ月間撮影を続けた。
この間に録画された映像に、ガソリン携行缶を運ぶ被告の姿が映っていたことなどから放火事件で逮捕・起訴された。公判で弁護側は「容疑者ではない人物の家を長期間カメラで監視するのは違法」などと主張していた。
判決は、被告宅への男の立ち寄りは「16年初めごろまでしか確認できず、以降は撮影の必要性が相当程度低下していた」と指摘。公道などを撮影した場合に比べてプライバシー侵害の度合いが高いとし「任意捜査として認められる範囲を逸脱し違法」と結論付けた。
証人出廷した県警の警察官が、現在も同様の捜査が行われていると証言したことにも触れ、「問題点を現時点でも理解していない。将来の違法捜査抑止の見地からも証拠採用できない」と断じた。
県警は「コメントは差し控える。県警としては今後とも適正な捜査に努める」とした。【三股智子】
◇ビデオ撮影による監視捜査も、立法措置が必要
指宿信・成城大教授(刑事訴訟法)の話 妥当な判決だ。捜査でのビデオ撮影は、GPS捜査などと同様に裁判所の令状を必要とする考え方もある。昨年3月に令状のないGPS捜査の違法性が争われた最高裁判決では「GPS捜査は憲法が保障する重要な法的利益を侵害する」と認定し、捜査を続けるには立法措置が望ましいと言及した。ビデオ撮影による監視捜査についても、撮影やデータ管理の基準について立法措置が必要だ。