《たんこぶ第528回(週刊新社会)》
 ◆ 難民として
   辛淑玉
(シン・スゴ)


 すでに他のメディアでも流れているのでご存知の方もいらっしゃると思いますが、私は昨年の11月末にドイツに移住しました。政権中枢を含む極右勢力のターゲットにされたからです。生活を脅かされるくらいなら外に出てもっと勉強をしようと思い、ドイツの日本研究所に籍を置いたのです。
 しかし、学べば学ぶほど、日本の政治の酷さが体の奥深くまで染み込み、在日の歴史を知れば知るほど絶望が深くなります。
 同じ在日三世の友人は、「辛淑玉は知らなかったから走れた。日本の本当の姿を知っていたら、脳が抑制して心も体も縛られていたはずだ」と言いました。そのとおりでした。
 今年3月にはBPOで勝ち、その勢いに乗ってネトウヨ相手に裁判まで起こしたのだから、「ゴキブリ以下の朝鮮人の女」である私への憎悪は膨らむ一方です。


 今度は、海外で日本の悪口を言っているとして、いかに私がひどい存在かを必死でキャンペーンしています。
 そして大衆は、それをゲームでも見るように喜んで見ているのです。デマで塗り固められた日本社会で「国民の敵」となった私の生きる場所は、残念ながら日本にはもうありません
 「辛淑玉さんを守れなくて申し訳ない」というコメントが届きますが、そう言う人は、自分もやられるとは思っていません。しかし、私が潰されれば、次は共食いが始まります。彼らはいつも「敵」を求めて彷徨っているのですから。

 日本社会が再生不能の状態に陥る前に、マジョリティによる抵抗運動が必要なのです。そのなり手に、自称「日本人」はなれるでしょうか。野党はなれるでしょうか。新社会の支持者はなれるでしょうか。
 マイノリティが、在日が安心して暮らせる社会であることが、日本の民主主義の最後の砦だったのです。しかし、それも、もうありません。
 安倍友の一人、山口敬之によるレイプを告発した伊藤詩織さんがイギリスに渡り、私がドイツに渡る。
 国家権力に抗うものには、大衆の手で制裁がなされる。私たちは難民なのです
 日本は、難民を排出する国になったのです。

『週刊新社会』(2018年4月17日)