油状固まり7キロ、鹿児島・宝島に タンカー事故関連か
2018年2月1日
鹿児島県奄美大島の海岸に黒い油状のものが漂着しているのを、第10管区海上保安本部(鹿児島市)と県が1日確認した。奄美大島と屋久島の間に連なるトカラ列島の宝島(同県十島村)でも海岸で約7キロにわたって油状の固まりが見つかっており、10管は東シナ海で先月14日に沈没したタンカーとの関連を調べる。
奄美大島の漂着物は、島の東シナ海側の広い範囲に点在。同県奄美市の朝仁海岸に500メートルにわたって打ち上げられたものは、触ると弾力があり、鼻を突く油のにおいもした。海岸の様子を見に来た地元漁協の男性職員(37)は「貝やタコ漁などに影響が出ないか心配だ」と話した。宝島では1月28日に住民から連絡を受けた十島村が確認した。
10管によると、東シナ海では貨物船と衝突して沈没したパナマ船籍のタンカーから油が漏れており、除去作業や流出範囲の調査を進めている。10管は漂着物の成分を調べ、タンカーの油との関連を調べる。県は環境省や10管と漂着物の除去などの対応策を検討している。
中国交通運輸省は1日、沈没したタンカーについて北京で記者会見を開き、現状を説明した。積み荷であるコンデンセート約13・6万トン以外に燃料として重油約1900トンを積んでいたとして、「重油を除去しなければ海洋汚染の可能性が残る」と指摘。船体の引き揚げも検討するとした。
説明によると、現在、油の除去作業には中国当局の船5隻のほか、日韓の応援も得ているという。海面に800メートル近い吸油ロープを張るなどして流出を抑えようとしている。ただし、1月下旬の水中調査では沈んだタンカーの船体に最大35メートルの穴が見つかった。甲板の通風口なども大部分が損壊しており、さらなる油の流出の懸念があるという。
担当者は「油の流出を防ぐには引き揚げが最も効果的」とし、「国際条約に照らしつつ、タンカー所有者や船籍国と検討して引き揚げるかどうかを決めたい」と述べた。
タンカーは1月6日、上海沖約300キロの海上で香港籍の貨物船と衝突。南東方面に漂流した後、同月14日、中国本土と沖縄本島のほぼ中間地点で沈没した。
日本沿岸の環境汚染は深刻 タンカー油流出、海外から対応のまずさを指摘する声
Jan 31 2018
上海沿岸から約300キロの東シナ海で、1月6日にイランのタンカーと香港籍の貨物船が衝突した。タンカーは炎上、爆発し、奄美大島から315キロ沖の日本の排他的経済水域(EEZ)まで漂流して沈没。積荷だった大量の原油が流出し、乗組員の多くが行方不明となっている。流出した油は日本の方向に広がっており、沿岸に深刻な汚染をもたらすと予測されている。専門家は初動対応のまずさを上げ、北東アジア各国の連携が取れていないことを批判した。
◆過去最悪の原油流出事故。日本への影響は必至
沈没したイランのタンカー「サンチ」は、約13万6000トンの超軽質原油を積んでいた。国際関係とアジア研究を専門とするトム・コーベン氏はディプロマット誌への寄稿で、このタイプの油は肉眼ではほぼ見えず、油膜を分解する海洋の微生物たちを殺してしまうと述べる。タンカーはすでに沈没しているため、流れ出る油の回収作業が困難であるうえに、「サンチ」の燃料であった重油が、海底から漏れ出しているという。
国際タンカー船主汚染防止連盟によれば、今回の事故による原油流出は、この35年間で最悪ということだ。原油の流出量については、強い潮の流れで日々量が変化するため、計測が困難だという。懸念されるのは、漁業や環境への影響だが、英国立海洋学センターの1月16日のレポートでは、今後1ヶ月以内に事故で汚染された海水が日本に到着するとされている。汚染は当初予測された以上に、急速に広範囲に広がると見られ、シュミレーションマップでは、日本と韓国の沿岸への影響がかなり大きくなっている(ロイター)。
カナダのCBCラジオのインタビューに答えた海洋科学者のリチャード・スタイナー氏は、海に溶け出した有害物質が広範囲に海洋汚染を引き起こすと見ている。同じくインタビューに答えたガーディアン紙の環境担当の編集者は、今回は漁業の盛んな海域での事故で、多くの漁業資源が汚染されるだろうとしている。結果的に被害は消費者にも及ぶとし、安全が確認されるまで、汚染された海域や近海での操業を停止すべきだとしている。
◆日中間の不信が、事態を悪化させた?
コーベン氏は、今回の事態をもたらした原因の一つに、北東アジア諸国の互いの不信感を上げる。日本も含め危機対応の協力を申し出た国々の参加を、中国は事故当初拒否しており、公式に受け入れた時には、「サンチ」はすでに日本のEEZに流れ着いていたとしている。
同氏は、特に日中間には互いの違いを脇に置き、共通の地域の利益のために行動するという動きがほとんど見られないと述べる。今回に関しても、尖閣諸島の領土問題が両国の協力の足かせになっているという憶測も広がっており、漂流した「サンチ」が尖閣周辺で沈没していれば、どちらが出るかで日中間の大問題になっていたと見ている。
◆鈍い政府、メディアの反応。今後の事故への備えは?
CBCは、非常に深刻な事態にもかかわらず、日本国内の反応は鈍いと報じている。この事故を追っている東京在住のジャーナリスト、ミゲル・クインタナ氏は、日本国内での報道がほとんどないと指摘し、報じて人々に考えさせるという本来の役割と機能を地元メディアが果たしていないと批判。スタイナー氏も、報道の少なさにがっかりしているが、日本と中国が協力的でないことも原因の一つではないかとしている。
実は北東アジアには、北西太平洋地域海行動計画、日中韓三カ国環境大臣会合など、海洋環境の安全維持に関する枠組みがあるが、すっかり形骸化してしまっているとコーベン氏は指摘する。同氏は、競争や不信とは切り離したところで地域の利益のために協力する体制を整えなければ、「サンチ」と同様の危機は今後も起きてしまうと警告している。