多数の危険性指摘を振り切って建設され、
   今までに約1.2兆円、今でも年間約200億円を無駄遣いし
   トラブル続きの「もんじゅ」ついに廃炉?
   「核燃料サイクル破綻」は明らか!

                               木原壯林(若狭の原発を考える会)

1.高速増殖炉とは

 高速増殖炉は、劣化ウラン(ウラン238が主体)とプルトニウムの混合酸化物(MOX:~20%のプルトニウムを含む)を燃料とし、発電しながら消費した以上の燃料(プルトニウム)を生成できる原子炉とされている。

 プルトニウムが核分裂すると、高速の中性子(高速中性子)が飛び出す。
   通常の原子炉では燃料棒の間を冷却材である水が循環しているが、水を構成する水素は軽い元素であるので、高速中性子はこの水素を突き飛ばして、自身は減速して遅い速度の中性子[熱(サーマル)中性子]になる。この熱中性子は次のプルトニウムを核分裂させる。これが、プルサーマル炉の原理である。

 一方、冷却剤として水の代わりにナトリウム(融点97.7度Cであるので、少し暖めると液化する:核反応停止中は、循環のために外部から暖め続けなければならない)を用いると、ナトリウムは重い元素であるので、高速中性子は当たってもナトリウムを突き飛ばすことが出来ず、自身が高速のまま跳ね返される。すなわち、減速しない。

 高速中性子ウラン238にあたったとき吸収され易く、中性子を吸収したウラン238は自発的にプルトニウム239に変化し、核燃料となる。これが高速増殖炉の原理である。

 高速増殖炉では、中性子を減速・吸収し難いナトリウムで燃料棒を冷やし高温となったナトリウムで水を蒸気に変え、タービンを回して発電する


2.危険極まりない高速増殖炉「もんじゅ」

 プルトニウムの製造装置「もんじゅ」は、現在科学技術の手に負えない、最も危険な原子炉である。燃料棒を冷却して高温になったナトリウムは薄い配管を介して水と接している水とナトリウムが直接触れれば水素が発生し、大爆発することは小学生でも知っている。

 また、ナトリウムは、空気に接すると急激に酸化され、火災を起こす漏れ出たナトリウムがコンクリートと反応すれば水素が発生し、水素爆発を起こすことも知られている。

 これらの反応は、ナトリウムが高温であるときとくに激しい。

 一方、ナトリウムが原子炉内で局所的に高温になって沸騰し(沸点883度C)、ボイド(気泡)が発生すれば、その部分の核反応が激化して暴走事故を引き起こしかねない

 さらに、重大事故や火災が発生したとき、水によって緊急に炉心を冷却することも消火することもできない。

 このように危険極まりない高速増殖炉は、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスなど、欧米ではとっくに破綻しており、日本でも「もんじゅ」はトラブル続きで、何十年も研究的・技術的成果を出せないままで、優秀な研究者、技術者などほとんどいなくなっている

 「もんじゅ」の冷却用配管は、何十年もの経過によって、老朽化しているが、配管の1箇所にでもひびが入れば、ナトリウム・水反応やナトリウム・コンクリート反応による水素発生→水素爆発、あるいはナトリウムの酸化反応による大火災が発生する。そうなれば、「もんじゅ」の燃料は高濃度のプルトニウムを含むMOX燃料であるから、多量のプルトニウムと放射性物質が広域に飛散する。

 なお、「もんじゅ」は敦賀原発、美浜原発と近接し、接続されているので、「もんじゅ」で起こった事故は、これらの原発の重大事故を誘発しかねない。

 この「もんじゅ」は、1995年にナトリウム漏れ事故を起こし、2010年には重さ3.3トンの炉内中継装置の落下事故を起こし、近年は1万件に上る点検漏れを指摘されている。「もんじゅ」を管理する組織も腐りきっている。

 その組織は、1956年、原子燃料公社として発足し、ことあるごとに名前を変えて、動力炉・核燃料開発事業団、核燃料サイクル機構になり、今は日本原子力研究開発機構(原子力機構)に統合されて、問題体質を隠ぺいしてきた。もんじゅ」は、今までに約1兆2千億円無駄遣いし、今も毎年約200億円を浪費している


3.「もんじゅ」組織見直しの動き

 原子力規制委員会(規制委)は昨年11月13日、「もんじゅ」を運営する原子力機構には安全確保の資質がないとして、監督する馳文科相に、半年をめどに、「もんじゅ」の新たな運営主体を示すか、示せない場合には「もんじゅ」のあり方を抜本的に見直すよう勧告した。

 また、新たな運営主体が見つからなければ、「もんじゅ」が廃止される可能性もあると述べている。(しかし、原子力機構以上に「もんじゅ」の詳細が分かる主体はなく、結局、「もんじゅ」部門の身売りによる看板の書き換えで、別主体を作ったことにせざるを得ない。)

 なお、「もんじゅ」を推進してきた電気事業連合会(電力会社の連合体)でさえ、「もんじゅ」が桎梏(しっこく)になってきている(昨年11月、当時の会長・八木氏が、運営主体の受入れ拒否を表明)。また、「もんじゅ」の実証炉を作るはずであった日本原電も引き受けを拒否している(本年1月)。

 規制委の勧告を受けた文科省は、9月、新法人を設立して「もんじゅ」を存続する案を内閣官房に提案したが、経産省を中心に廃炉論が強く、政府は去る12日に廃炉にする方向で最終調整に入ったと言われる。(右の9月13日京都新聞朝刊を参照)


※【事故情報編集部】より…実際のチラシには、新聞記事のコピーが印刷されていますが、このメールマガジンには添付されておりません。


4.「もんじゅ」を切り捨てて、信頼回復を図り、原発再稼働、
  プルサーマル推進、核燃料再処理に突っ走る政府、規制委に
  騙されてはならない

 報道によると、原子力政策全般を取り仕切る経産省は、高速増殖炉なしでも成立する核燃料サイクル(下記、注1を参照のこと)のシナリオをアピールし始めた。
 原発のプルサーマル運転、高速実験炉「常陽」(「もんじゅ」建設のためのデータ取得のために建設された高速増殖炉:原子力機構に属する:2007年に実験装置を大きく破損する事故を起こし、運転休止を余儀なくされた)の活用、フランスの高速炉研究への参加などで、原子力政策は破綻しないとしている。

 周知のように、昨年来再稼働された、川内、高浜、伊方の全ての原発で、再稼働前後にトラブルを起こしている。このことは、新規制基準が極めていい加減であり、規制委の審査がデタラメであることを物語っている。福島事故の終息の見通しも定(さだ)かでない。

 一方、青森県六ヶ所村に建設中の再処理工場(下記、注2を参照のこと)は、欠陥だらけで、稼働延期が続いている。したがって、原子力への国民の信頼は地に落ちている(本来原発は、人類の手に負えるものでなく、信頼できるものではない

 この上、トラブル多発の「もんじゅ」を存続させると、原子力への不信はますます拡大する。そこで、「もんじゅ」を切り捨てることによって、国民の信頼を取り戻して、原発再稼働、プルサーマルの推進、再処理工場の稼働への反発を緩和しようというのが、政府、規制委の狙いであろう。騙されてはなりません。

 なお、再処理事業は、電力会社にとっても重荷になっており、それからの撤退の動きがある。そこで、政府は去る5月11日再処理等拠出金法」を成立させ、電力会社が全ての使用済燃料再処理費を、拠出金として、新しく設置する認可法人に支払うことを義務付けた何としても再処理事業を進めたい政府の姿勢が表れている


5.なぜ安倍政権は再処理事業にこだわるのか

  -戦争できる国作りのため

  安倍政権は、「戦争できる国づくり」を企んでいるが、戦争するには、自前のエネルギー源が必要である。

 しかし、日本には、石油や天然ガスがなく、戦争で海上輸送が絶たれたら、エネルギーを失う。そこで、原発を安定電源すなわちベースロード電源として、戦時下のエネルギーをまかなおうとしている。戦争になったら、事故が起ころうが、大量被曝しようが、原発を動かすであろう。

 そのとき、ウラン濃縮によるウラン燃料の製造より、化学分離によるプルトニウム燃料の製造の方が安上がりで大量製造にも適している(事故や被曝を考えなければ)ので、再処理事業に固執するのである。

 なお、プルトニウムは、人類が管理できない、手におえない元素であるが、戦時下ではそのようなことは無視される。このように、安倍政権は、現代と未来の人々の犠牲の上に、「戦争出来る国を造る」政策の一環として再処理事業を進めている


(注1)核燃料サイクル

  原子力発電を維持するための核燃料の流れを核燃料サイクルという。ウランを鉱山から採掘して原子炉で使用するまでの工程(アップストリーム=上流と呼ぶ)と使用済み燃料を原子炉から取り出し、再処理し、その過程で出てくる放射性廃棄物を処理し、「もんじゅ」やプルサーマル炉で使用する工程(ダウンストリーム=下流と呼ぶ)で構成される。

 後者の工程に注目して「核燃料サイクル」と呼ぶこともある。核燃料サイクルには、税金と電気料金からすでに10兆円以上が投じられている再処理工場はトラブル続きで、稼働の延期が重ねられている。「もんじゅ」は廃炉せざるを得ない状況にある

(注2)核燃料再処理

  ウラン酸化物核燃料が核反応する(燃焼する)と、燃料中には、各種の核分裂生成物(死の灰)、プルトニウム、マイナーアクチニド(ネプツニウム、アメリシウムなどのウランより重い元素:生成量は少ない)などが生成し、ごく一部のウランが反応した段階(大部分のウランは未反応のまま)で、原子炉の運転が困難になる。そこで、使用済燃料を原子炉から取り出し、新しい燃料と交換する。

 使用済核燃料の中には、核燃料として再利用できるウランとプルトニウムが含まれるので、それらを回収して、プルサーマル炉や高速増殖炉で燃料として利用しようとする過程が再処理である。

 使用済核燃料は、原子炉に付置された燃料プールで保管し、放射線量がある程度低下した後、再処理工場サイトにある貯蔵施設に運ばれる(日本では、青森県六ケ所村)。

 再処理工程では、燃料棒を切断して、鞘(さや)から使用済燃料を取り出し、高温の高濃度硝酸で溶解する。溶解までの過程で、気体の放射性物質(ヨウ素や希ガスなど)が放出される。白金に類似した物質は溶け残る。

 溶解したウラン、プルトニウム、死の灰などを含む高濃度硝酸溶液中のウラン、プルトニウムは、これらの元素と結合しやすい試薬を含む有機溶媒を用いて取り出し(溶媒抽出)、さらに精製して核燃料の原料とする。

 この過程で、硝酸の分解ガスが発生し、爆発したこともある。また、死の灰などの不要物質が、長期保管を要する高レベル(高放射線)廃棄物として大量に発生する。その処理処分法は提案されているが問題が多い。保管を受け入れる場所もない

 使用済核燃料は高放射線であるから、再処理工程の多くは、流れ系を採用し、遠隔自動操作で運転される。そのため、再処理工場には、約10,000基の主要機器があり、配管の長さは約1,300kmに及ぶ(うち、ウラン、プルトニウムが含まれる部分は約60km継ぎ目の数は約26,000箇所)。高放射線に曝(さら)され、高温の高濃度硝酸が流れている容器や配管の腐蝕(とくに継ぎ目)、減肉(厚さが減ること:溶解槽で顕著)、金属疲労などは避け得ず、安全運転できる筈がない。

 長い配管を持つプラントは、地震に弱いことは容易にうなづける。すでに、2兆2000億円以上投入しているが、再処理工場は完成からは程遠い

 使用済核燃料を再処理せず、燃料集合体をそのままキャスクに入れて、地中の施設に保管する「直接処分」の方が安全で、廃棄物量も少ないとする考え方もあり、アメリカはその方向であるが、10万年以上の保管を要し、これも問題山積である。


6.高速増殖炉による放射性廃棄物の毒性短縮と減容は荒唐無稽な、
  究極の国民だまし


 使用済み核燃料の中には、ネプツニウム、アメリシウムなどのマイナーアクチニド(MA)と呼ばれる核種(元素)が生成している使用済燃料1tあたり1kg程度)。これらのMAはアルファ線を出し、重大な内部被爆を与え、半減期も極めて長いので厄介である。MAの毒性を天然ウランのレベルにするには2~3万年を要する

 そこで、高速増殖炉を用いて、MAを半減期の短い核種に変換して、毒性の低減を図ろうという研究(妄想)がある。MAを100%核変換できれば、先述の2~3万年を約300年に短縮できるという皮算用である。高速増殖炉で得られる高速中性子を利用して、発電しながら核変換を行うというものである。