そのエレベーター 安全ですか?

今から10年前、私たちがビルやマンションの中で当たり前のように使っているエレベーターの安全性への信頼を揺るがす事故が起きました。扉が開いたまま突然上昇し、1人の高校生の命が奪われたのです。この事故について、消費者安全調査委員会=いわゆる消費者事故調が報告書をまとめました。刑事責任を問う裁判や、国土交通省の調査とは異なり、利用者の安全という観点から取り組んだ独自調査の結論です。エレベーターにはどのような安全対策が必要なのか。そして安全対策は誰の責任で行うのか。報告書から浮かび上がってきたのは、危険が日常と隣合わせにあるという現実と、同じような事故を起こさないためには私たちの意識も変えていく必要があるということです。(科学文化部 阿部智己)

独自調査の結果を報告書に

平成18年に東京・港区のマンションで起きた「シンドラーエレベータ」の事故。扉が開いたまま突然上昇し、高校2年生だった市川大輔さん(当時16)が挟まれて亡くなりました。

平成24年に発足した消費者安全調査委員会=いわゆる消費者事故調は、最初の案件の1つとして独自調査に着手。メーカーからの聞き取りや事故を起こした機械の調査を行って事故原因を検証するとともに、保守管理の実態についても調べてきました。
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その結果が、30日に公表されたおよそ150ページにわたる報告書です。
事故の直接の原因について、エレベーターのブレーキ部分がすり減って効かなくなったことだとしているほか、点検などの保守管理の問題点や、再発防止策などが盛り込まれています。
論点は多岐にわたりますが、中でも注目されるのは事故後の安全対策についてでした。

安全対策はわずか2割

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事故のあと、国土交通省はエレベーターの新たな安全対策に取り組んでいます。ブレーキを二重にしたうえで、扉が開いたまま動き出したときに自動的に停止する装置を設けることを法律で義務づけたのです。
ところが国土交通省によりますと、現在の基準を満たす安全対策が取られているのは、全国のおよそ73万台のおよそ2割にあたる15万台にとどまっています。これより前に設置されたエレベーターが、対象外となっているからです。
これについて消費者事故調は、報告書の中で「安全が100%確保されえない以上、必要不可欠」と安全装置の必要性を明記。「すべてのエレベーターにおいて安全性が確保されなければならないと考える」として、義務化の対象外のエレベーターも含めて対策を進めるよう国土交通省に求めました。
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30日の会見でも「安全装置の設置がどれくらい進んでいくのかフォローアップしていき、十分な結果が出ない場合は新たなアクションを起こしていきたい」(持丸正明・委員長代理)と、今後も注視する姿勢を強調していました。

対策には高いハードル

しかし、対策を進めるには高いハードルがあります。改修には1台あたり少なくとも数百万円の費用がかかるうえ、最低1週間程度は運転を止めなければならないのです。
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UR都市機構が東京・板橋区の高島平団地で行っている対策工事の現場を取材したところ、その一端がうかがえました。この団地には80台余りのエレベーターがありますが、多くは昭和40年代に設置された古いタイプ。安全装置を取り付けるには、エレベーターのかごを巻き上げる機械自体を取り替える必要があり、1台あたり1000万円ほどがかかるということです。
それでもUR都市機構は安全を最優先させる必要があるとして、改修が必要な全国のすべてのエレベーター、合わせておよそ6000台を対象に、3年前から工事を進めています。